第11話

舞踏会の前日。デラはレナードがいつも訪れる時間に、裏門にいた。レナードはいつも、裏門から入ってくる。故にこれまで、屋敷の者達には見つから無かったが、ついに昨日ヴィオラの実妹であるアンナリーナに見つかってしまった。そして、予想通りいや、それ以上の展開になってしまった……。


暫くして、裏門に馬車が止まった。そして、レナードが中から降りてくる。


「殿下、誠に申し訳ございませんが、本日はお引き取り願います」


デラは粗相の無いように丁寧に頭を下げ、レナードに帰るように促した。だが、レナードがそんな事を承諾する訳もなく。


「どういう事かな。何か、ヴィオラにあったの?」


「……ヴィオラ様は、殿下にはもうお会いになられないとの事です。明日あすの舞踏会にも参加なさらないとのこと故、ご承知下さいませ」


妹のアンナリーナに、ドレスを破かれヴィオラは今傷心中だ。レナードに合わせる顔がないと言って、頭から掛布を被り食事も摂らず文字通り顔を出さない。


デラがどうするのか尋ねるとヴィオラは、「レナードにはもう会わない、舞踏会にも行かない」と返事をした。


傷心する姿を見て、かわいそうとは思うが一方でこれで良かったのではないかと思ってしまった。レナードは、ヴィオラには荷が重すぎる。何か裏もありそうに思える故、デラは安堵している。


「……ヴィオラが本当に、そう言ったの」


「左様でございます」


レナードは頗る機嫌の悪そうな表情を浮かべる。威圧感が凄く、デラは嫌な汗が身体を伝うのを感じた。……早くこの場を立ち去りたい。


「で、殿下⁈お待ち下さい‼︎」


次の瞬間、レナードはデラの横を擦り抜け歩き出し屋敷の中へ向かう。予想外の展開にデラは驚愕し、慌てて後を追う。


「僕は他人ひとの言葉は信用しない主義なんだ。話はヴィオラに直接聞く」


こうなると、デラには止める術はない。相手は王太子だ。一介の侍女如きがレナードを止めるなど、普通に考えれば首が飛ぶ。一見先程のやり取りは、デラがレナードを止めていたように思えるが……主人ヴィオラの意思という建前があっての事に過ぎない。本人に直接確認をすると言っている以上、デラは諦める他無かった。


デラは諦めると、レナードの後ろに大人しくついて行った。



「驚いたな」


レナードはヴィオラの部屋に入ると、そう口にした。それもそうだろう。壁に吊るされたレナードがヴィオラに贈ったドレスは、見るも無惨な事になっている。


捨てる訳にもいかず、かと言ってクローゼットに戻すのも違うように思えて、壁に吊るした状態になってしまった。


「……なるほど」


レナードはベッドを見遣ると、丸い膨らみが見えた。


「ヴィオラ」


レナードが名前を呼んだ瞬間、その膨らみはピクリと動いた。その様子にレナードは、くすりと笑った。


「ヴィオラ、僕が会いに来てるのに顔を見せてくれないの?」


レナードはベッドに直接腰掛けると、膨らみに触れた。


「……」


「寂しいな」


「……」


「可愛い、ヴィオラの顔が見たい」


「……」


「僕に、聞かせて……君の愛らしい声を」


レナードはそう言うと、膨らみを上から包み込む様に抱き締めた。瞬間デラは息を呑む。レナードの雰囲気から妖艶さを感じる。まさか、手を出すつもりでは……。流石にそうなれば、例え相手が王太子であろうと見過ごす訳にはいかない。首が飛ぼうと、ヴィオラの純潔は守る。


正直、歩く事の出来ないヴィオラを妃に迎えるなど考え辛い。ならば、愛妾にでもするつもりか。王太子の愛妾ならばなりたい者は多いだろう。だが、ヴィオラを愛妾に……慰み者になどにさせはしない。デラが意を決してレナードに声を掛けようとした時、ベッドの膨らみからひょっこりと、ヴィオラが顔だけを出した。




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