第6話
「へっ⁈きゃあぁ‼︎」
ふわりとヴィオラの身体が宙に浮いた。予想外の出来事にヴィオラは呆気に取られる。
「な、何するんですか⁈」
レナードはヴィオラを横抱きにするとそのまま、立ち上がった。所謂お姫様抱っこだ。
「驚いたな……想像した以上に軽いね、君」
「お、降ろして下さいっ‼︎」
レナードがいう様に、ヴィオラは文字通り軽い。身長が低いのもそうだが、元々が細身で尚且つ自ら歩く事が出来ない故、脚などに筋肉もなく無駄な脂肪もついていない。女性であるデラですら、軽々持ち上げられる。
「やだ」
やだって……子供じゃあるまいし。ヴィオラはレナードの発言に呆れながらも、何時迄も降ろしてくれないレナードに少しむっとした。
「私は物じゃありません!早くベッドに降ろして……きゃっ」
ヴィオラの言葉が終わる前に、レナードは問答無用で歩き出した。急に動いた事にヴィオラは驚き、思わずレナードにしがみ付く。
その様子に気をよくしたレナードは、上機嫌でヴィオラを抱えたまま部屋を後にした。
勝手知ったる様子でレナードは部屋を出ると、屋敷の外へと出る。その間ヴィオラは、初めて出る外の世界への恐怖心に、キツく目を閉じレナードの胸元に顔を埋めていた。
「そんなに、怖がらなくても大丈夫だよ。……本当に可愛いね、ヴィオラ」
程なくしてレナードとヴィオラは中庭へと出た。
「ほら、着いたよ」
レナードは、中庭へ出て少し歩くと立ち止まる。そして、ヴィオラを抱えたままゆっくりとしゃがみ込んだ。
「ヴィオラ……目を開けて。怖くないよ。そんなに怖いなら、先ずは僕の顔を見てみて?」
レナードの言葉にヴィオラは、暫し黙り込み悩んだ。そしてゆっくりと目を開く。
すると目前には、夕陽を受け少し緋く染まり、笑顔を浮かべるレナードの顔があった。
薄暗い部屋の中で見たレナードと比べ、更に格好良く見えた。ヴィオラは瞬きも忘れる程レナードを凝視し、目が離せなくなる。
胸が高鳴り、鼓動が早く、身体が熱い。こんな感覚は、知らない。
「ヴィオラ」
レナードの唇が自分の名前を紡ぐ声が、酷く甘美に響いて聞こえる。
「ほら、見て。とても、綺麗だよ」
そう言いながらレナードは空を見上げた。その様子にヴィオラも条件反射の様にレナードの視線を追った。
「綺麗な夕焼け空だよ、ヴィオラ」
「きれ、い…………」
緋く染まった空にヴィオラは感嘆の声を洩らす。思わず空へと届く筈もないと分かっているのに、手を伸ばしてしまう。
「これが、本物の……空」
この中庭からは、ヴィオラの部屋の窓が見える。いつも、あの窓からヴィオラは外の世界を眺めていた。
だが、あの部屋の窓から見えていた空や景色は、何処か虚像の様だった……。偽物の空や偽物の木々や花、窓から入り込む風や光でさえそう思えた……。
だけど、今ヴィオラの目前にあるものは全て本物だ。本物なんだ……。
「泣いてるの?ヴィオラ」
「へ……」
気付かなかった。ヴィオラの瞳からは音もなくはらはらと、涙が溢れていた。
「わたし、泣いて……」
驚いた。まさか感動して涙を流すなんて。先程といい、どうも涙腺が緩くなってしまっているようだ。これは、彼の所為なのだろうか。
ヴィオラは再びレナードへ視線を向ける。するとレナードもこちらを見ていた。そして彼はやはり、優しく微笑んでくれる。
もはや、ヴィオラの中に恐怖心など何処にも無かった。
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