第5話

先程までの騒がしさが嘘の様に、部屋は静まり返り2人は黙り込む。


ヴィオラは一瞬口を開く素振りを見せたが、再び口を噤む。


ミシェルの知り合い……不審者ではなかった……だが、今はそんな事どうでもいい。


色々と聞きたい事がある。ミシェルは何故死んでしまったのか……。ヴィオラは、ミシェルが何故死んだのかを聞かされていなかった。デラに聞いても、知らないと一点張りで取り付く島も無い。本当に知らないのか、本当は知っているのかは分からないが。


聞きたい。知りたい。だが、口を開く事が出来ない。本当は怖い。ミシェルの死の真相を知る事により、現実を突きつけられるだろう。


ヴィオラは、ミシェルの遺体を見たわけでも、葬儀に出たわけでもない故、どこかミシェルの死がぼんやりとしたものに感じていた。

本当は生きていて、その内ひょっこりまた会いに来てくれるのではないか……そんな莫迦げた風に思って……いや、違う。


本当は分かってた。でも、現実を受け入れたくなくて、自分で自分を誤魔化しているだけだ。だから、砂糖菓子を食べた瞬間涙が溢れてきたのだと思う。最後にミシェルが持って来てくれた、最後のヴィオラへの贈り物だったから……。


「ねぇ、ヴィオラ」


「へ……私の、名前」


どうして知って、あぁ、ミシェルから聞いたのか。


「外に、出てみないかな?」


レナードからの意外な申し出に、ヴィオラは固まってしまう。


外へ出る?この私が、外へ⁈


「そ、外になんて!私無理です!歩けないんですよ⁈1人で立つ事すら出来ないのに……」


「そんなに、驚かなくても……大丈夫だよ、僕が支えるから」


レナードは笑顔を浮かべ、ヴィオラの前に手を差し出す。だが、ヴィオラは全力で首を横に振った。


「私には無理です!外なんて、怖いっ……」


物心ついた時からずっとこの部屋のベッドの上ににいた。何をするにも、ずっとベッドの上だ。1日2回デラがシーツを替えて整えてくれる。その時は長椅子に座らせられるが、それ以外はベッドから降りる事はほぼない。


幼い頃は、外に出たいと駄々をこねデラを困らせた事もあったが、昔の話だ。今は寧ろ、外に出る方が怖い。ヴィオラにとっては、何もかもが未知の世界だ。それに、今更外へ出た所で、どうしたらいいのか分からない。


「ヴィオラ、人は誰でも、初めての事に対して躊躇いや戸惑い、恐怖が拭えない。だけど、それは最初だけだよ。大丈夫、僕を信じて……一緒に外に出よう。何時迄も、こんな場所に閉じこもってたらダメだ。ミシェルも、それを望んでいないよ」


その言葉にヴィオラは、ハッとする。ミシェルがいつか、自分を外へ連れ出したいとそう呟いたのをふと思い出した。でも。


「分かってますっ。ですが、怖いものは怖いんです。それに、どうやって外へ……私は足が」


レナードは、ヴィオラを真っ直ぐに見遣り笑った。その笑顔が余りにも優しく、少しだけ恐怖心が拭え落ち着いた。だが次の瞬間ヴィオラは盛大に悲鳴を上げる事になる。









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