妹とは爆発だ
ピコーン
――
絆レベル上昇により、爆発系魔法を付与することができるようになりました
――
またか……このパターンで手に入るスキルはあんまり使いやすいとは言い切れないが、今回はことさら使いにくそうなのが来たな……
爆発系魔法、男の子のロマン、一発で多くのものを吹き飛ばせる魔法、そう、敵も味方も問わず……
「あー……こんなもんどう使えってんだよ」
そう愚痴りながら朝のコーヒーを飲む。
「お兄ちゃん! 大変大変!」
どうやらこのスキルが役に立つらしい、どうにも与えられるスキルが、いちいちご都合主義泣きがしてならない。
「なんだ? 給金の支給でも打ち切られたか?」
今のところ王国の財政は堅調だし、戦争が起きる気配もないのだが。
「違うって! この町に魔物の群れが来てるって魔の森の観測地点から連絡があったって!」
魔の森、モンスターがいくらでも湧き出る面倒な場所だ、素材やドロップアイテムを狙うにしてもリスキーで放置されていた場所だ。
「あそこ定期的に湧くよな」
モンスターが定期的にポップする地点として有名で、ときどき湧き出たモンスターが周辺の村や町を襲うことがある、大抵はギルドが処理するはずだが。
「面倒くさそうだな、今回はよほど多いのか?」
「ざっくり見た目でこの町のギルド総出が必要みたい、私にも連絡が入るくらいだもん!」
そういえば俺もギルドカードに連絡が来ているだろうか?
ポケットから取り出してみると「緊急招集!」と赤く浮かんでいた。連絡機能なんてめったに使わないからすっかり忘れていた。
「やれやれ、神とやらはずいぶんと人使いが荒いみたいだな?」
「お兄ちゃん、また何か覚えたんですか? まるで誰かが監視しているようですね」
「かもな。使えるんならなんだっていいがな」
ミントは肩をすくめて「行きましょう」という。さて、おあつらえ向きの舞台も用意されたようだし行きますかね。
「で、なにを習得したんですか? それなりに使えそうなものなんでしょう?」
「ああ、爆発系魔法だ」
「町中じゃ使えないですね、もの凄く都合がいいですね?」
「俺もそう思う」
ご都合主義万歳。
「んじゃ行くかな」
「そうですね」
そうして朝食を終え、ギルドにのんびりと向かう。なんだか周りはずいぶんと焦った顔でギルドの方へ向かっている。
「急ぎますか?」
「いーや、のんびり行けばいいだろ。魔の森からの緊急連絡なら馬みたいな足の速い魔物でも丸一日はかかるだろ」
「それもそーですね」
俺達はのんびりとギルドへと向かっていった。
ギルドに付くとセシリーさんが大慌てで集まった冒険者に説明をしていた。
「いいですか皆さん! 今回はトロルの大群がこちらに向かっているそうです! 私たちは全精力でこれを叩きます! いいですね!」
オオー! と歓声が上がる。みんなノッてるなあ……
――
爆発系魔法を妹に付与しますか?
――
はいはいっと……
――
爆発系魔法を付与しました。現在使用可能な魔法配下の通りです。
エクスプロージョン
BLAVE
デトネーション
FAE
――
エクスプロージョンはぶっ放す奴が割といるので知っているがした二つは知らないな。
多分威力が強くなっていくように並んでいるのだろうと推測できる。
「なんか四つほど使える魔法が出てきたんですけど?」
「一番下のぶっ放しておけばいけるだろ」
「気楽なものですねえ……まあ私もそう思うのですが」
セシリーさんが慌てて皆に伝える。
「もうじきこの町の南側に来ます! 遠距離魔法が使える方は先頭に立ってください!」
「はいはーい、使えますよー!」
ミントが手を上げる、誰もがぎょっとしてこちらに注目する。
「おいおい、ミントちゃんに先頭を任せるのか?」
「いやでもあのよく分からないい実力があるし……」
「そもそも近接戦でもいけるんじゃないか?」
口々に思うことをいっているがミントが先頭に立って叫ぶ。
「私が先頭に立ってデカいの一発撃ち込むので安心してください! トロルなど恐れるに足りません!」
気弱そうな冒険者の一人が口を開く。
「あのぅ……デカいのってそんなに強いんですか? その……あまり強そうに見えませんけど?」
いいにくいことを案外バッサリ言う奴だった、しかしミントもまったく怖じ気づかずに答える。
「私とお兄ちゃんの力を合わせればトロルの群れごときワンパンですよ! 余裕です!」
俺はミントにささやく。
「おい、まだどれだけ効果があるのか分かってないのに言い切って大丈夫かよ?」
ミントは堂々と言う。
「私の頭に流れ込んだイメージ的には一発で吹っ飛ばせるクラスの爆発を起こせますよ?」
マジですか?
「皆さん! 来ますよ!」
地平線の向こうに砂煙が立っている、ずいぶんな数が来ているようだ。
「FAE! 準備」
――
広域魔法を使います、目標と十分に距離をとってください
――
「いっけえええ! F・A・E」
ボン
やや小ぶりな音と共に白い霧状のものがトロルの群れを覆った、次の瞬間……
どがあああああああああ!!!
巨大な爆発が前方で起こった、それは草一本残らないような赤い赤い爆発だった。
「「「「「…………」」」」」
皆が唖然としていた、誰も彼も目の前で起きたことが理解できないようだ。
そして爆発の煙が去った後には草一本残っていなかった。
「やった!」
ミントが俺にニコりと微笑みかける。
「やったな」
おれも頷く。
そして……
――
爆発系魔法の付与を外します
――
あれが暴発しないように使用権を取り消しておく。
「ああ! せっかくみんなを黙らせる力だったのに!」
ろくな事考えてねえなコイツ……
「お兄ちゃんのケチ!」
「はいはい、ケチなお兄ちゃんですよー」
むぅとむくれる妹を後にして俺は文字通り地と空のみになった地平線を眺めて思う。
「神様って怖いな……」
――
そうして討伐が確認された後のギルドにて……
「どうして私の戦果が認められないんですか!」
ミントが怒鳴っていた。
「いえその……私たちとしてもあなたの戦果は理解しているのですが……その……証拠が何一つ残らなかったので……」
そう、ミントの攻撃魔法はすべてを吹き飛ばした……死体一つ、塵一つ残さずに。
その結果、そもそもそこに魔物がいたのか? ということすら怪しまれてしまい俺達の戦果にはならなかった。
「あのやばい兄妹がFランクかよ……この町怖いな」
「あの兄妹が特殊なだけじゃないか?」
などなど、あることないこと噂され、「この町で冒険者に喧嘩を売ってはならない」と遠くの方まで噂がとどろいてしまうのだった。
ああ、神様とやらはどうにも労働に対価を与えるのが嫌らしいな……
そんな不満を持ちながらしばらく続くであろうミントとセシリーさんの言い合いを眺めるのだった。
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