妹と日々の予算
「お兄ちゃん! ちょっと今月は厳しいです!」
「なにが?」
突然の告知に困惑する、今月? 厳しい?
「お金ですよおかね、先だつもの、マネーです!」
お金かあ……妹に任せっきりにしたもんなあ……
「金かあ……ちょっと依頼でも受けるか?」
手っ取り早い金策方法を提案するが、どうやらミントには考えがあるらしい。
「ちょっと待っていてくださいね」
そう言って部屋へと帰っていった、現在の財政状態がどれほどかは知らないが案外余裕がありそうだ。
そんなことを考えていると着替えたミントが部屋に入ってきた。なぜかエプロンドレスで……
「ええっと、俺が頼りないからってお前が働く必要は無いんじゃ?」
ちっちっちと指をふるミント。
「いいですか? 私が売るのは「媚」です! お兄ちゃんには売れないものです!」
すがすがしいほどのろくでもない商品だった。
「媚びを売るってそう言う意味じゃない気がするんだが?」
「細かいことを気にしますね……いいんですよ、私のエプロンドレス姿は映えるんですから」
余談だがいわゆるところのメイド服の正式名称がエプロンドレスだ。
「お兄ちゃん? 誰に向かって解説をしているんですか?」
「はいはい、心は読まなくていいからな」
聞けな発言をする前に黙らせておかなければならない。
「さて、商品はなにがいいですかね?」
「お前商品考えずにその格好してんのかよ!」
考え無しにもほどがあるチョロさだった。
「握手する権利を売るとか東方の国で流行っているらしいですね?」
「やめとこうか! いろいろとその話は闇に葬った方がいいからな!」
危険発言ジェネレータと化した妹を必死に止める。
「普通に料理や回復薬でいいんじゃないか? 俺が前に作ったのまだあるだろ?」
「お兄ちゃん手作りの品を安売りするべきでは無いと思うのですが?」
なんだそれ、どう考えても粗製濫造したものを売るべきだと思うのだが……
なお薬草の相場はすっかりだぶついており、逆に回復薬に加工したものは品不足を深刻なものにしていた。
薬草自体でも効果はあるが効率も効果も落ちるし、なにより薬草を直接だと、飲むとクソ不味いし傷に塗ればしみて痛いしであまり人気の無い商品だ。
「別にまた作ればいいし、それに効率がいいだろう?」
俺は回復薬を大量に生産するのはそこそこ得意だしな。
「まあそうですけど……」
「なによりミントが売ると売れ行き良さそうだし」
冒険者マジチョロい。
「何か釈然としませんがまあいいでしょう。 じゃあ販売用の回復薬を作っておいてくださいね?」
「ああ、まかせとけ」
前回売れたんだから今回も売れるだろう。そんな甘い見通しのもと、俺は回復薬を量産した。
今回は精製をせず、値段をできるだけ安く仕上げたものを売ることにした。
――翌日
俺達は修羅場にいた……
といってもダンジョンに入ったわけではない、商売的な意味での修羅場だ。
「お前この回復薬は俺に買わせろ!」
「いいや! 俺のだ!」
「お前ら落ち着いて俺に譲れ!」
とまあ喧噪を俺はギルドの隅っこで眺めているのだった。
「売れているようですね?」
セシリーさんが俺に聞いてくる。
「ええ、なんであれがあんなに売れてるのかはさっぱりですが売れてますね」
それに対し驚いた反応をされてしまった。
「これですよ! ミントちゃん可愛いですもんねえ……」
差し出されたチラシには……
「回復薬! 安いです! 精魂込めて作りました」
と書いてあった。
「その様子だと、あれ作ったのは……」
まあそういうことだ。
「嘘はついてないですね、主語を省略しているだけで」
「そうですね……」
――
ミントはしばらくの手売りの後、いよいよ手が足りなくなったらしく俺にも品出しをさせたが、直接売るのはミントのみだった。
人間って単純だなあ……
嘘はついていないので余計と気の毒になってくる。
「お兄ちゃん! 新しいのください!」
はいはい……
そうしてようやく一日が終わり客がはけた頃にミントは言った。
「じゃ、お兄ちゃん! 今日は腕を振るいますからね! 夕食には期待しておいていいですよ!」
「いや、金がないならそっちにあててくれた方がいいんだが?」
「あ、あれですか? お兄ちゃんに豪華料理を振る舞うほどのお金がないって意味ですよ?」
「ええ……俺超頑張ったのに……」
「「主語は省略している」ということですよ! 誰も生活が苦しくなると入ってませんからねえ……」
はは……どうやらあの会話はしっかりと聞こえていたらしい。しっかりとした意趣返しをされてしまった。
「そうだな、肉が食いたいな」
「分かりました! お肉ですね? あ、そうそう、私用のストレージを使うので買い出し付き合ってくださいね?」
そうして俺達は大きめのステーキ肉のかたまりを買ってストレージに入れておいた。
「しかし、俺が引き出さないといけないのにお前のものしか入れられないっていうのもちょっと不便だな?」
実質二人で手に入れたものしか入れられないという縛りになってしまう。
「私はそういう微妙に不自由するくらいでいいと思いますけどね?」
「そんなもんか?」
「ええ、神様だって万能ではないでしょうしね」
このスキルは一体何のために付与されたのかはさっぱり分からないが、現実問題として今くらいは役に立てても罰は当たらないだろうと思ったのだった。
なお、その日の夕食は皿一杯に肉料理がのっていたが、地味ににんじんが入っていなかったことを記録しておく。苦手なものもあるんだなあ……
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