妹でも使える! 魔法入門
ピコーン
――
絆レベルにより「火属性魔法」能力を妹に付与することができるようになりました
――
恒例のなぞの声によってまた新しいスキルが解放されたようだ。
それにしてもシンプルだな、内容から察するに「妹が火属性魔法を使えるようになる」のだろう。
魔法の適性も生まれ持っての才能もなにも無い後付けの魔法能力なんて聞いたこともなかった。
「なあミント、今寒いよな?」
「へ? ええそうですね」
「そこで提案なんだが暖炉の火をおこしてもらえないか?」
――
妹が「火属性魔法」を使用可能になりました
――
「ああ、お兄ちゃん、また何かしましたね?」
「ばれたか」
それはそうだろう、魔力は生まれ持ってのものなので後付けで付与なんて聞いたことがない。
「じゃあ暖炉に火をつけますね」
「ファイアーボール」
しゅぼっと暖炉に火が付いた、のだけれど……
「なあ、まだたきぎを入れてないんだが?」
そのファイアーボールは燃えるものがない場所でしっかりと明かりと熱を出している。
基本的に魔法で火をつける場合燃やすものがあるのが前提だ、なにもなかった場所で炎が燃え続けるなんて聞いたことがない。
しかし炎はしっかりと燃え続け、次第に部屋が暖かくなってきた。
「ありがとな、しかし燃料屋が見たら切れそうなインチキじみたスキルだな」
「お兄ちゃん、夏までには冷却魔法も使えるようにしてくださいね」
「善処します……」
たきぎを節約しているみんなからすれば夢のような能力だろう、その場で燃やすものを調達する必要の無い地味にすごいスキルだった。
「このスキルは秘密にしとこうな?」
「そうですね! 二人だけの秘密です……ふふふ」
それから魔力がつきるまでどのくらい日が持つのか試したところ、翌日まで十分に部屋を暖めるほどの力があり、それ以上は実用上必要ないので調べるのをやめた。
――
「ふふふ、お兄ちゃんとの秘密ですか……響きがいいですね」
秘密を共有するのは親しい証拠でお兄ちゃんとの秘密というのはとても大切な宝物に思える。
私にはこれがどれほどの価値を持つ魔法なのかはさっぱり分からない。
でもお兄ちゃんが二人だけの秘密と言うからにはそれなりにすごいのです。
ああ、お兄ちゃんが私との隠し事をしてくれる、それは言葉に尽くせないほど素晴らしいことです。
でも、暖かいとつい眠くなってしまいますね……
――
「おーい、朝だぞ?」
珍しくミントが部屋から出てこなかった。コイツは寝坊なんてめったにしないのに変なこともあるものだ。
まあ暖かい布団から出たくないという気持ちはよく分かるのだが。
しかし返事がない、ノックをしても無反応だ。
ふむ……女の子の部屋に入っていいものか少し悩むが心配なのでドアを開ける。
「ミント?」
俺がベッドで寝ている妹の顔をのぞき込むとその白い肌がいつもに増して白くなっていることに気がついた。
「おい! 大丈夫か?」
ようやく気がついたらしいミントが目を開ける。
「ふぇ! おおおお兄ちゃん!?!? なぜ私の部屋に!? まさかの夜這い?」
コンと妹のデコをこづいて目を覚まさせる。
「もうすっかり朝だぞ? 今日はどうした?」
「いえ、ちょっと昨日突然眠くなって……」
そう言って窓の外がすっかり明るくなっているのに気づいたらしく俺に謝ってくる。
「ごめんなさいお兄ちゃん! すぐ朝ご飯作りますね!」
「いや、急ぐ必要は無いんだが……体調が悪いのか?」
「そうですね、少し体がけだるいです」
いつも元気に目を覚ましているミントが今日に限って寝坊をした、そして暖かい部屋……
――
「火属性魔法付与」を取り消しました
――
何度目かも気にならないその声と共にミントの目に光が宿った。
「あれ、なんだか体が軽くなりました?」
つまりはそういうことなのだろう。
「ごめんな、どうも魔法付与には反動があるらしい。まったく気がつかなかった、悪い」
「いえ、お兄ちゃんが謝ることでは……」
やはり無限や永遠など無いのだろう、その日は少し寒い一日を過ごすことになった。
――
うわああああああん!!!! お兄ちゃんとの秘密がああああ!!!
せっかく二人だけのすごいスキルだったのに! これじゃ普通の火属性魔法と変わらないじゃないですか!
なぜこうも私はポンコツなのでしょう? お兄ちゃんがいればいいと思っていたのに! それ以上を求めるからこうなるんでしょうか?
期待だけさせて微妙なスキルとは、神はどうやら私に挑戦しているようですね、いいでしょうとも!
そうして私は「私だけの」魅力でお兄ちゃんを手に入れることを目標に頑張っていくのでした。
――
このスキルのことについては秘密にしておいた方がいいな、ばれたらミントが酷使される未来しか想像できない。
魔力を持っていないミントがどこから魔力を調達しているのか謎だったが、どうやら「体力」を魔力に変換していたのだろう。
あまりにもバックファイアの大きい魔法は撃たせられないな。
「おにいちゃん! ちょっと料理するので魔法付与してくれませんか?」
そんな俺のことはつゆ知らず、ミントはいつも通りわがままを通してくるのだった。
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