妹とドラゴン討伐

 その日、夢を見た。


 よく分からない国の夢をみた、そこでは人が決して死ぬことも老いることもなく、平和に日々を過ごしている夢だ。


 しかし、目が覚めるとそこはやはりいつもの俺の部屋だった。


 ただし、俺にはどこからともなく聞こえた「新機能実装を急いでもいいのでは……拙速すぎる……急ぎでもないのに……」などと意味の分からない言葉を発していた、果たしてそれがどういう意味なのかは俺には伺うことさえできなかった。


「お兄ちゃん?」


「え! ああ、なんだ?」


 気がつくとミントの心配そうな顔が目の前にあった、奇妙な安心感を覚える。


「いえ……なんだか深刻な顔をしていたので」


 ああ、あの夢ほど奇妙な夢は見たことがなかった。ついつい考えすぎてしまったようだ。


「いや、何でもない。気にしないでくれ」


 ピコーン

 ――

 緊急時用のスキル、「時空破断付与」を習得しました

 ――


 いつものボイスが頭の中に流れる、今回は絆レベルではないようだ。


 よく分からないシステムだが、時期に必要になるのだろうと、大体の予想は付いていた。


 その時、ミントがギルドカードを取り出した。


「お兄ちゃん、呼び出しみたいですよ?」


「ああ、カードは部屋にあるんだった、気づかなかったよ」


「はぁ……お兄ちゃんはズボラですねえ……」


 そう言うお小言を聞きながら部屋へカードを取りに行くと文字が浮かび上がっていた。


「緊急事態! 「ミント」および「ユニ」の両名は至急ギルドに来ること」と文字が出ている。


 はて? 俺達が何か不味いことをしただろうか?


「ほらお兄ちゃん! 行きますよ?」


「その前に心当たりは?」


 俺に無いんだからミントにあるのだろう。


「ありませんよ? 大体私が問題を起こすならお兄ちゃんも一緒でしょうに」


 確かにミントの横には「ノービス」の文字が浮かび上がっている、ジョブに就いていないと言うことはスキルも無いのだろう。ではなぜ?


 ギルドに着くなりいきなりセシリーさんが「待ってましたよう!」と泣きそうな目で駆けつけてきた。


 そして大柄な二人の男を紹介してきた。


「こちら、魔王討伐軍の筆頭騎士のお二人です」


 そしてひげ面の大男が俺達に自己紹介をする。


「俺はゴルド、討伐軍の前線指揮官をやっている」


 二人目のスキンヘッドの男も自己紹介をしてきた。


「俺はウルド、討伐軍の参謀をやっている」


 ゴルドが俺に握手を求めてくるので握手をしてから本題に入った。


「で、なんの用ですか? 討伐軍には入らないということで話は付いたはずですが」


 ミントは敵意を隠そうともせずに言うので俺が少しフォローをしておいた。


「俺達はFランクの冒険者ですよ? 魔王軍と戦うような活躍はできないと思いますが」


 ゴルドは少し考えてから言った。


「率直に言えば君たちの噂を聞いてね、本当なら是非入って欲しいところだが今回は正式に入ってくれと言っているのではない」


「なるほど「非正式」な協力をしろと?」


 ミントがわかりやすく言い直すが概ね間違ってはいないだろう。


「はっきり言うとそうだ。魔の森の件で君たちの噂を聞いたのだがね、あの事件の調査も俺達がしていたんだ」


「魔物の大量発生事件ですか?」


 二人とも頷く。


「そうだ、あれが自然な発生ではなく、魔王軍が意図的に大量発生させたという可能性を調査している」


 意図的な魔物の発生……想像もしたくない事態だった。


「するとあれが魔王軍の手によるものだと?」


 ウルドが忌々しげに答えた。


「正確に言うと違う、あれは魔の森に強力なドラゴンが生みだされたことにより、トロルたちがまとめて逃げ出したものだと考えている」


「ドラゴンですか?」


 ミントも驚いているが、厄介な事態になったなと俺も察していた。


「なるほど、要するにドラゴン討伐に協力しろというわけですか」


「そうだ、君たちの噂はこの件の調査でたくさん聞いたよ。驚異的な力を持った兄妹がいるともっぱらの噂だった」


 どうやらこの前のあれはやり過ぎだったようだな。


 そりゃあ辺り一面を更地にすると噂も立つだろう。


「で、それに協力すると私たちにいいことがあるんですか? ドラゴンだって討伐軍の仕事でしょう?」


 不躾な質問をするミントだが、確かにあくまでも俺達のやったことは噂でしかなく、証拠は更地になって綺麗さっぱり消えていた。


「そうなのだがね……私たちも魔王軍で手一杯でね、わらをもつかむ気持ちなのだよ……シャドウドラゴンであろうことは分かったのだがね、部下たちも魔王軍でやっとなのにドラゴンの相手など無理だと言って聞かないんだ」


 渋い顔でウルドさんが語った。その顔には魔王軍担当として責務を全うできない事へのいらだちがうかがえた。


「分かりました、やりましょう」


「お兄ちゃん!」


「分かってくれるかね!」


 俺はミントに耳打ちをする。


「今日新しいスキルを覚えてな」


「ああ、そういうことですか」


 お察し状態のミントはさておき、二人は俺達の実力を知らないわけで、どれほど期待しているのかは不明だった。


「では魔の森へ行ってドラゴンの討伐をお願いしたい、報酬は金貨百枚でどうだろうか?」


 ミントはそれに飛びついた。


「ふっふん! やるしかないようですね! ま、大船に乗った気分でいてください!」


 俺達は魔の森へ行くための装備を一揃い身につけドラゴンのところへ向かうのだった。

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