第34話 出会い

 3時間程走った所でルブレが待っていた。

 待っていた場所は分かれ道になっており、どっちに行っていいか迷っていた様だ


「ネクト~~」


 俺がモリーから降りると、ルブレは抱きついてきた。

 俺はルブレの頭を撫でる。

 ルブレの肩にはシロロンが乗っている。

 

「ネクト。ごめんね」

 

「クェ~」


「大丈夫だ。たぶん追跡も来ないだろう」


 俺は地図を出して確認する。

 マッピングの魔法も使って少し西に移動し、開けた場所で休憩する。

 警戒は怠らない。探知魔法は常時発動している。

 俺の探知魔法だが、若干の変化があった。

 簡単に言うと、探知距離も伸びて魔物と人間の区別ができる。

 以前まではどれも同じ識別で丸い形の個体だったが、今は影の様になって輪郭が分かる。

 ただ人間に近い姿の魔物だったら、どちらか識別する事は出来ないだろう。

 明らかに形が違う者や大きさで判断出来る様になったという事だ。


「ネクト~これからどうするの?」


「ん?遠回りになるが西隣のオラクト王国に行く。その後は北に行って、魔界を目指す。心配しなくても、途中でダンジョンがあったら行くぞ」


「うん・・・ネクトはルブレの事怒ってないの?」


「ああ、何だ、そんな事気にしてたのか?怒ってないぞ。ルブレがあの時、殺していようが、黙って見ていようが、全く問題ではない。ルブレの好きな様にすれば良い。そこで後悔するなら、後悔した後に直せばいいだけだ。 俺等は魔人になったんだ。これからも問題が起きるだろう。重要なのは考えて行動する事だよ」


「うん」

  

 気が付かなかった。きっとルブレなりに考えていたのだろう。

 まぁ元気のある返事をしたので、これで大丈夫だと思う。

 これからは、もう少し大人として見てあげないとな。

  

 全員無事で合流する事が出来て、気分も落ち着いた。

 その後、十分に休憩し西に移動する。

 日が沈んで周囲は暗いが、俺等の目もモリーの目も問題なく見える。

 特にルブレは俺よりも見える様だ。

 ただ暫くは整備されてない道での移動になるので、無理をせずにゆっくり走る。


 西のオラクト王国に入る国境まで町は4つある。

 所々で休憩しては移動を繰り返す。

 今現在、追手は来ていない。

 たまにDランク、Eランクの魔物を気晴らし程度に狩る。

 狩った魔物はシロロンの食料にもなり丁度良かった。

 今は2つ目の町を越え順調に走っている。

 ここまでの移動で2週間程経っただろうか。


 突然、俺の探知魔法に反応があった。

 翼がある魔物?俺等の方に凄いスピードで接近している。

 勢いよく俺等を通り越し、地面に電光石火の如く激突した。

 まるでサンダーの魔法を放ったかの様に、物凄い音と共に砂煙が舞い上がる。


 俺等は直ぐにモリーから降りて、出来るだけ離れたところへ行く様に遠ざけた。

 モリーは賢くて、離れていても口笛を吹けば寄って来るので、呼び戻すのは簡単だ。


 辺りは次第に静まり、揺らめく砂煙の中から魔物が現れた。


「師匠・・・なんで・・」


 ルブレは驚愕し、少し強張っている?そんな張り詰めた感じの、初めて聞く声を発している。

 直ぐに鑑定魔法で確認をしてみるが、種族などの情報はない。

 ルブレが師匠と呼んでいる事から、同族の魔人なのは間違いないだろうが、2本の角と赤い瞳、黒い大きな翼、露出した衣装の女性がこちらに近づいて来る。


「ルブレ、あれはサキュバスじゃないか?前に魔人って言っていたけど、どうなっているんだ?」

 

「魔人だよ。シロロン、バッグに隠れてて、出てこないで!」


「クェ~」


 ルブレは魔人と言い張るが、俺の知る限りあれは悪魔だ。

 ルブレは急いでシロロンをバッグの中に誘導している。 


「ルブレ・・それに得体のしれない魔人ね。ルブレ。人間とトラブルを起こすなと伝えたはずだが、よもや忘れていないだろうね」


「ごめんなさい」


「困った子ね。まあ、言い訳くらいは聞いてあげる。でもその前に、そこの魔人。貴方よ。何処の生まれかしら?見たところ貴方も落者ね。一応聞いとかないと、後で面倒だしね~」

 

 サキュバスはそう言って、俺の仮面を縦に真っ二つに割った。

 一瞬の出来事だ。避けることはできなかったが、目では追えている。

 

 サキュバスは腕を水平にして少し上に手首を捻っただけ。

 中指の爪が異常に長く伸びて、仮面が縦に割れたと思ったら、爪は元通りの長さに戻っている。

 俺とサキュバスの距離は5mくらい離れている。剣でも踏み込まないと届かない。

 もし分かっていても避ける事できただろうか・・ルブレが強張っていたのと、素直に謝った理由が分かった。

 格が違い過ぎる。

 何だろ、オーラというかサキュバスの魔力が外に漏れ出てる感じが、全身からヒシヒシと伝わる。 


「専門用語すぎて分からないけど、生まれって魔人になった場所で合ってるのかな?それと落者とはなんだろう?」


「男かな?綺麗な顔立ちね・・・そうよ貴方が魔人になった場所と、魔人になってからどれくらい時間が経ってるのか教えて。色々分からないのは無理もないか。落者とは魔人だけど、落ちこぼれの意味よ。そこのルブレも含めてね」


 確か、ルブレは7日しか師匠と過ごしていないと聞いた。

 生まれて直ぐ落ちこぼれって分かるぐらい、力の差が出るものなのか?

 俺はサフィルと一瞬会話しただけ。

 その違いはなんだ?それに俺等が落ちこぼれ?

 サキュバスとの強さの差は分かるが・・・

 そう言えば以前、ネクロマンサーに魔人だが弱い様な言い方されたな・・


「俺の名はネクト。リスタニア王国のエプレ町の近くで魔人になった。時間は正確には分からないが、半年経っているかいないかだと思う」


「リスタニア王国?ゲイトルの管轄だが、おかしいわね。ネクトと言ったわね。親の名前は分かる?」


「親?・・ああ、多分、サフィルって猫だ」


「・・・・ネクト。私を馬鹿にしてるの?」


 またも突然、サキュバスの爪の攻撃が来る。今度は腕を狙ってきたが、ギリギリかわした。

 クソ~本気で攻撃していないのは分かるけど、それでも当たれば腕が吹っ飛びそうだったぞ。


「師匠やめてーー!」


「ルブレは後でお仕置きしてあげるから、黙って待ってなさい」


「・・・・」


 本気で来られたら、これ以上かわすのは無理だ。

 かといって俺もやられる訳にはいかない。

 俺は魔力を解放し、短剣を手に取り


「嘘は言っていないよ。信じてもらえないかもしれないが、本当に猫の魔人だったんだ。それとルブレに手をだすな。 アイスブレイド!!」


 2段階強化グレー色の氷の剣を作った。

 本当は炎の剣にしたかったが、オリハルコンが紫の炎に耐えれるか試していなかった。


「その魔力は、まさか変調者?それにしても、実力差も分からないとは。いいわ、少し遊んであげる」


「俺は身を守りたいだけだ。できれば話し合いをしたいのだがね~」


 変調者とは何だ?さっきから気になる事だらけだ。

 考えている暇はない。サキュバスは次の攻撃をしてくる。

 爪で俺の足を切り落とす気だ。俺はタイミングよく剣を振り、サキュバスの爪を切った。


「面白い」


 一言、サキュバスは言い放った後、馬鹿でかい鎌を出した。

 アイテムボックスから出したのではない。

 突然、サキュバスの手元に現れた。

 鎌は槍のように長く、柄の先端は鋭く尖っている。

 鎌の部分は片方は大きな鎌になっているが、もう片方は小さな鎌と、左右大きさの違う鎌になっている。

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