第32話 商人と取引

 いつの間にか日付が変わって、翌朝になっていた。


「ルブレ。俺は少し商人と会って来るから、留守番できるか?」


「ルブレも行く~~」


「付いてきても退屈だぞ。それに、シロロンに文字を教えて欲しいんだ」 


「ん~分かった。じゃ~シロロンと一緒に待ってる~」


 そう言って、俺はルブレに筆記用具一式を渡して町に出た。

 事前の情報で何人かの商人を調べてある。

 目的は洞窟テッドで倒した魔物を少しでも高く売りたいのと、一気に捌きたいという事。

 商人との取引は冒険者ギルドと全く相場が違う。

 簡単に言うと、高く買い取って貰える。

 大商人ともなると、店構えも大きいのですぐ分かる。

 問題は会ってもらえるかどうかだが、まぁそこは出たとこ勝負。

 取りあえず、店に直接行ってみる事にした。


「いらっしゃ~い。何をお求めで」

 

「大口の買取を頼みたい。俺は冒険者で魔導士だ」


 俺は冒険者カードを店員に見せる。


「へぇ~Bランクね~まあ聞いてやるよ。店長~~大口の買取だってさ~!!!」


 奥から店長と言われる女性が現れた。


「店長。この人、Bランクの冒険者なんだってよ。これ、その人の冒険者カード」


「へぇ~若そうに見えるけどBランクか。大口ってどれくらいあるんだい?」


 女性は店長と呼ばれるだけあって気が強そうで、体型がふっくらした30代前半くらいの女性。


「そうだな~数えてないから分からないが、洞窟テッドの魔物100体以上はあるな」


「仲間が近くに居るのかい?」


「いいや、1人だ」


「何言ってるんだい。冗談は勘弁しておくれよ。うちはね、冒険者ギルドは勿論、Aランクの魔法使いとも直で取引あるんだ。その人でさえアイテムボックスに入れるのは、大型の魔物10体が限度。一角ウサギ100体なら分かるけどね~洞窟テッドだろ?あそこは小型の魔物でもコボルトだよ。Bランクのあんたに出来るわけないだろ。私が女だからなめているのかい?」


「そうだな~じゃあ、大型の魔物10体以上出したら信用してくれるか?ここでは出せないから、どっか広い場所あるのか?」


「困ったお客さんだね~カシマス商会からの嫌がらせかしら。ちょっと!こいつ追い払って」


そう言うと、さっき居た男性店員と他の男性店員2人が来て、俺を追い出そうとする。


「悪いな~これも仕事なんだわ」


「ああ、分かったよ。店の外に大型の魔物だすから、それでも信用できないなら、そのカシマス商会に行くよ」


 俺はそう言って、店の前の道にアイテムボックスからトロールを3体出した所で


「ヒェ~~!て、店長~~」


「あ、わ、悪かったよ。早く閉まっておくれ。そんな所に置かれたら迷惑だよ」


「だから言っただろ。俺も出し入れ面倒くさいんだよ」


 俺は出したトロールをアイテムボックスに入れて、再び店の中に入った。

 店長と呼ばれていた女性に、別室に案内された。

 部屋は応接室のようだ。長方形の大きなテーブルに椅子が12脚。

 女性はどうぞと言って、俺を椅子に座らせる。

 そしてそのまま対面に座る。


「私はカタリア。一応、ここでの買取は私が任されている。その~本当に、100以上の魔物がアイテムボックスに?」

  

「ネクトだ。よろしくな。100体以上は間違いないが、数えてないからな~さっき出したトロールだけは確認したから分かる。11体だ」


「Bランクのトロールが11体も?あ、いえ疑っていませんよ。ただその数ですと私では判断できませんので、判断できる者が来るまでお待ちしてもらっていいですか?今、従業員が呼びに行っておりますので、そんなに時間は掛からないと思います」


 カタリアはさっきの態度と違って、お客をもてなす言い回しをしている。


「構わないよ」


「有難うございます。後、魔物の確認ができれば、交渉もスムーズにできるかと思いますが。勿論、場所はあります」


「多分それは止めた方がいいと思うよ。100体以上纏めて出して、買取も決まってないのに腐敗したら責任は取れるの?」


「そ、そうですね。では何種類かだけでも見せてもらう事は可能ですか?先程トロールをチラッと見た限りでは、状態が凄く良かったのですが、どうでしょう?」


「ああ、それなら構わないよ。」


 俺はカタリアの後に付いて行く。

 着いた場所は、店の更に奥に行った解体室。

 冒険者ギルドよりは狭いが設備は整っている感じ。

 俺はコボルト、ジャイアントバット、大ムカデ、サーペント、ジャイアントスパイダー、トロールを1体ずつ出した。


「状態は全部こんな感じだ。氷魔法で倒しているから綺麗だよ」


「そ、そうですか・・・今にも動きそうで怖いですね。それにしても、Aランクのパーティーでもこれ程良い状態で持って来た事はないです」


 こんな感じで話をしていると、ドタドタした足音と共に3人の男が入ってきた。

 身なりで直ぐ分かった。

 従業員とカタリアより上の責任者、それと冒険者だ。


「俺はここの代表者のフィムだ。事情は聴いている。100体以上の魔物の取引だな。すまないが、そこのカタリアと話させてくれんかね。買取はするが、俺は魔物の値段は分からんのでね。君、この方を商談室にお連れしろ」

 

 俺は挨拶する間もなく、従業員にさっきの部屋に案内された。

 仕方ないので座って待っている。

 暫くして、フィム達が部屋に入ってきた。

 カタリアとフィムは椅子に座ったが、冒険者は商談室の出入口近くで立ったままだ。

 恐らく用心棒だろう。

 

「遅くなってすまないね。早速だが、こんな感じでどうかね?」


 フィムはそう言ってメモを俺に渡してきた。


 コボルト        金貨15枚   

 ジャイアントバット   金貨10枚  

 大ムカデ        金貨30枚 

 サーペント       金貨15枚 

 ジャイアントスパイダー 金貨20枚  

 トロール        金貨50枚


「俺はネクト、よろしくな。う~ん。これ見てもらえるかな~」


 俺はそう言って、イステッドの冒険者ギルドで取引した紙を見せた。


「ん?これは・・・よく分からんが、凄い金額が動いてる事は分かる。カタリア、これは正当な評価なのか?」


「は、はい正当ですが・・トロールキングですか。この量の宝石と宝の数々も信じられませんが、ギルドの印は間違いございません。それにこれを見れば、魔物100体というのも納得です」


俺はイステッド冒険者ギルドでのやり取りを説明した後


「コボルトキングは希少種だけどBランク。討伐した場所のギルドでこの値段だ。トロールは希少種より数は多いけど同じBランクだよね。たぶん、ここのギルドに持って行っても金貨50枚くらいにはなるんじゃない?それとさっき魔物を出した時に確認したら、200体位ありそうだが大丈夫か?何ならカシマス商会に持って行くが」


これを聞いて慌てたのがフィムだ。


「2、200体ですか!!駄目です、カシマス商会だけは勘弁してください。全部買い取りますとも。分かりました。値段はもう少しなら何とかしますので・・カタリア、もう少し何とかならんのか?」


「そ、そうですね~社長が提示したメモ貰えますか。私共も商売ですので、ギリギリの価格ならこの値段になります。社長が良いならの話ですが」


 コボルト        金貨20枚   

 ジャイアントバット   金貨15枚  

 大ムカデ        金貨40枚 

 サーペント       金貨20枚 

 ジャイアントスパイダー 金貨30枚  

 トロール        金貨70枚


「俺はカタリアを信頼しているから問題ない。ネクトさん、如何でしょうか?」


「フィムさん、この金額でOKです」


「良かったーネクトさんさえ宜しければ、今後もマキシム商会で買い取らさせて頂きます」


 そう言って、俺とフィムは固い握手を交わした。


「あ~この町には旅の途中寄っただけなんだ。エルゴダンジョンには入るつもりだから、宝が出たら持ってくるよ」


「そうですか。是非よろしくお願いします。では残りの魔物は先程の解体室で。後の事はカタリアに任せてあるので、私は先に失礼させてもらいます」


 そう言ってフィムと冒険者は出て行った。

 俺とカタリアは解体室に行く。

 買い取りしてもらう魔物を、アイテムボックスから次々出した。

 解体室では、7人の従業員が忙しそうに動き回っている。

 そこそこ広かった解体室も、人と魔物の死体で狭く感じるが、従業員が手際よく解体していっている。

 ようやく全部出し終わった。合計213体あった


 コボルト        53   

 ジャイアントバット   51  

 大ムカデ        32  

 サーペント       48 

 ジャイアントスパイダー 18 

 トロール        11 


 それから商談室に戻り、時間が掛ったが、金貨5375枚を白金貨53枚 大金貨7枚 金貨5枚で貰った。

 これで全てのやり取りが終わったので、軽く挨拶をして俺は店を出て、宿屋に戻った。

 店を出る時は大袈裟な程丁寧に、カタリアと従業員が外まで見送りに来た。


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