第30話 収穫

 ダンジョンの中はどうも時間の経過が分からない。

 早めに切り上げてきたと思ったが、丸1日経過していた。

 

 早速、冒険者ギルドに立ち寄った。

 中は首都のギルドの割には狭いし、空いている。

 俺とルブレは解体室に行って、ストーンとアイアンゴーレム2体ずつ出して、買取を頼む。

 受付に戻り、冒険者カードと戦利品の宝を全部、受付嬢に渡す。


「買取を頼む。ちょっと聞きたいんだが、入場料とダンジョンの地図の事だけど、洞窟テッドと価格が随分と違うが、どうしてか分かるか?」


「買取ですね。少々お待ちを。ダンジョンの価格に関しては詳しくは分かりませんが、こちらの憶測ですと、恐らくはダンジョンを利用する人の需要じゃないでしょうか。北の国境近くにもダンジョンがありますが、ここよりも少し高いです。今は戦争が激しくなって入れませんが」


「ふむ。なるほど、よく分かったよ。ありがと~」


 暫くして呼ばれたので受付に行き、

 冒険者カードと白金貨19枚(大金貨190枚分)金貨34枚 銀貨9枚を貰う。


 浄化の水筒 大金貨 100枚

  ランタン 大金貨  30枚

 

 ストーンゴーレム 金貨 1枚 

          銀貨 9枚

 アイアンゴーレム 金貨33枚


 サファイア 中 品質普通 大金貨60枚


 ストーンゴーレム10kg=1銅貨 アイアンゴーレム10kg=5銅貨 


 やはり冒険者ギルドの買取価格は謎だ。浄化の水筒が一番高い。

 試してないが、見た目は2リットル位しか入らない。

 そんなに価値があると思えないが・・

 

 それと、ゴーレムは思った以上に安かった。

 大雑把にだが、ストーンは1体1トン、アイアンは1体3トン。重量での取引になるのか。

 

 ストーンもアイアンも、素材としては不純物も少なく良いらしい。

 冒険者ギルド曰く、戦争中なので、これでもアイアンの買取は上げたとの事。

 だが、全く割に合わない。

 俺等は魔人だから重さは苦にならないが、ゴーレムはバラバラになるので、それをアイテムボックスに入れるのが面倒くさい。

 

 人間の冒険者は、倒せても持ち運べる重量は限られる。

 なのでアイテムボックスは必須となる。

 しかも、アイアンゴーレムを倒せないと赤字になる。

 ダンジョンに入る人が全然居ないのと、ギルドが空いている理由が分かった。

 俺なら入場料を安くするか、ゴーレムの買取価格を上げるかして人を集めるが・・・疑問だ。

    

「ネクト~武器は~?ダンジョン入ろうよ~」


 俺が考え事をしていたのがつまらなかったのか、ルブレが手を引っ張る。


「ダンジョンはまた後で来よう。Aランクのコカトリス探すとなるともっと奥行かないといけないし、それに今からエルゴの町に戻って、武術大会予選も見ないとな」


「うん・・・」


 ルブレは納得してないようだ。

 返事と態度で分かりやすい。顔にも出る


「ルブレ。相手の戦闘を見るのも強さの勉強になるんだぞ。今の魔物ならルブレの攻撃でも通じるけど、知恵がある魔物になると駆け引きも重要になって、今のままだと勝てない。時には逃げる事も必要になる。ルブレの剣は真っ直ぐ過ぎる。悪い事ではないけど、それでは相手に読まれやすいんだ」


「ふ~~ん。分かった」


 ルブレは渋々納得した感じだ。


 俺はルブレに白金貨10枚を渡し、冒険者ギルドを出て、町に行く乗合馬車に乗り込む。

 お金は事前に折半ってことを伝えてあるから、ルブレは素直に受け取った。


 武術大会の見学は俺の為でもあるが、ルブレの為でもある。

 沢山の出場者が居れば、為になる試合もあるだろう。

 今の俺では、ルブレに教える事のできる剣術はない。

 俺は技術を盗める。そうなればルブレに教えることも出来るだろう。

 ルブレの戦い方を早く直さないと、見ているこっちがヒヤヒヤする。


 そんな事を考えてると、エルゴの町に着いた。

 驚いた事に、町の風景は一変していた。

 屋台が道の隅にびっしり並んでいて、人が混みあっている。

 普段は馬車が通っている道は、馬車通行止めになっていて、人が道の中央を歩いている。

 魔人なので屋台の飲食は楽しめないが、大道芸も居て賑わっている。

 雰囲気だけでも十分楽しめる。

 それを見てさっきまで拗ねてたルブレが、今は喜んではしゃいでいる。


「ねぇ~ネクト。あそこ見に行こうよ」


「そうだな。少し見に行くか」 


 ルブレは無邪気に俺の手を引っ張る。

 人の群れの中を押しのけて、一番前の見やすい場所に行く。

 ルブレが幼い容姿だから許される、そんな行為だ。

 暫くジャグリング、ファイアーダンス、道化師達のパフォーマンスを見て楽しんだ。



 俺とルブレは武術大会予選会場に行く。

 闘技場は円形の作りで、1万2000人収容できるらしい。

 席は100kg以上ある巨漢が座ってもゆとりのある幅広い席。

 

 戦う場所は直径40m程で、地面は硬い砂で覆われている。

 壁は5m程で、魔法が激突しても吸収される魔道具が張り巡らされいる。

 ただ、強い魔法は耐えれないらしい。 


 会場に入った。予選はすでに開始されており、始まってから時間が大分経っている。

 後列席はチラホラ空きがある。

 チケットの席に移動するのだが、問題が起きた。

 俺等の席に見知らぬ男性と女性が座っている。

 チケットは特殊金属のプレートで、これを持っていないと会場にも入れない。席は全席指定だ。


「あの~ここ俺等の席ですけど。間違ってますよ」


 俺はそう言って自分のプレートを見せる。


「あん!?ここは俺達の席だ。お前の席は、ほれ、後ろの方だろ?なぁ。クハハハ」


「あんた、優しいね~後ろの席譲ってあげるなんて。こんな間抜けな仮面して、どこの田舎者よ。ギャハハハ」


 男は偉そうに席にもたれて、高々と笑っている。

 女は俺を指差し笑っている。

 ルブレの顔が不味い。さっきまで機嫌が良かったのに怒り出している。

 俺等の席は通路側の端席で、男が通路側に座っている。


 俺は男の胸ぐらを掴んで、後列の通路の方に放り投げた。

 俺の腕力は、人間だった頃の面影はないぐらい強大になっている。

 5mは飛んで行っただろうか。

 女の方は顔を掴み、同じように放り投げた。

 投げ飛ばされた男は、這いつくばってゼェゼェ言っている。

 女は何も言っていないが、同じように這いつくばっている。

 男は何ヵ所か骨が折れただろう。

 女は顎が外れて、同じく骨も折れてるだろう。


 周囲はざわついているが関係ない。

 正直、殺しても構わなかった。

 ただ席が汚れたり、観戦どころではなくなるので止めただけだ。

 やっかいな事態を避ける為、出来るだけ注目はされたくない。

 だが、俺が関心のある人間意外なら、死ぬ事や殺す事は何とも思わない。

 しかし、もしそうなった場合、俺が殺す分には言い訳もできるしさほど問題ではないが、ルブレがやると不味いので、俺がすぐ動いたのだ。


「ルブレ、こんな事で怒っては駄目だぞ。予選が終わったら、また大道芸見に行こう」


「ほんと~!絶対だよ」


 ルブレは何もなかったかのように席に座る。

 俺は一応、周囲にペコペコしてから座った。

 周囲はまだ騒々しいが、時間が経つにつれ静かになった。



 結局、今日の予選は少ししか見れなかった。

 明日もまだ予選はあると言う。予選終了は明後日との事だ。


「ネクト~早く見に行こ~」


「ああ、まだやってるといいけどな」


 ルブレはソワソワして俺の手を引っ張る。

 俺の心配は外れたようで、屋台や大芸道は夜遅くまでやっているとの事だった。

 宿屋に戻りながら、ルブレの行きたい所に立ち寄る。

 普段は幅の広い道が交差する大きな交差点に、これまた大きなテント小屋が建っていた。

 

 ルブレはテント小屋に入りたいと言うので、1人銀貨2枚で入った。

 テントの中は魔物の展示、販売小屋だった。

 獰猛な魔物もいたが、殆どが小さくて可愛い魔物で、それぞれ頑丈な檻に入れられている。

 意外と人気なようで、客は沢山いた。

 

 冒険者の職業の1つに、魔物使いがある。

 魔物使いになるだけなら簡単で、基本知識と魔道具があればなれる。

 ただ、冒険者ギルドや町の住人に一番嫌われる職業なので、選ぶ人は少ない。

 その理由は、世間一般からすると魔物は倒す対象である。そんな危ない魔物が町の中にいる。

 魔道具で安全とはいえ、町の住人は良いと思わない。見るだけでも怖がる人は多い。

 魔物にもよるが、魔物と一緒に宿屋に泊まれないし、馬小屋に入れたとしても他の馬が怖がる。

 住人が嫌がるので、そういった施設もない。

 

 冒険者ギルドは、町の活性化と安全を守るのが仕事だ。

 魔道具で安全とはいえ、住人が怖がれば良いと思わない。

 魔物使いを大々的に許すと魔物使いが増えて、町の住人が引っ越す事もある。

 町人口の減少にもなるのだ。そりゃ~嫌がられるだろう。

 ただ例外もあるようで、国を上げて魔物使いを歓迎している国もあるとの噂さもある。


 この様な理由から、魔物使いは冒険者として稼業しにくいので、展示販売の商売をする。

 魔物使いが1度テイム(飼い慣らす事)していれば、主従関係を魔道具で変えるだけなので、買い手に簡単な基礎知識を教るだけでいい。

 ペットや番犬の代わりとして魔物を買う人がいる。


 俺が何故この事に詳しいかと言うと、若い頃に憧れた職業だったから。

 だが勉強して現実を知り、大人になってからは嫌いになった。

 魔物使いの事を勉強するほど、魔物を道具として雑に扱うだけと分かった。展示販売もそうだ。

 テイムした魔物を大事に扱う人もいるが少数だ。

 そういった人は、魔物と一緒に静かに暮らしているのが殆どで、冒険者として生業にしていない。

 

 これは俺が人間だった頃の感情だが、魔人になった今でも少し残ってる様だ。


「ルブレ。俺はこういったとこ好きじゃないから、外で待っているよ」


「え~~嫌よ~ネクトも来てよ~」


「出入口は1つだから、外出た所にいるからさ。なぁ、いいだろ?」


「ん~~~分かった。ちゃんと待っててよ」


 そう言ってルブレを残し、俺はテント小屋を出た。

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