第20話 1人寂しく

 小雨だが雨が降っている。

 イドと別れてから1日が経った。俺は北東に走っている。

 

 この世界の四季について、俺が住んでいた周辺国は春と夏しかない。

 温暖な地域で、雨は纏まって降ることが多い。

 書物での知識だが、国によっては四季すべてある国もあれば、冬しかない国もあるらしい。

 地形について、谷や山は存在する。

 山は比較的低い山ばかりで、高い山は越えた者はいない。未開の地となる。

 高い山の前に必ず広大な樹海があるのも原因になる。

 砂漠や、町より大きい湖も存在しているらしい。


 あの時の戦闘で切断された右腕だが、変化があった。

 少しだが腕が伸びてきている。そう、再生しているのだ。

 以前イドに教えてもらったヴァンパイアの情報と、ネクロマンサーの言ったことが気になる。

 ヴァンパイアは下位でも、腕1本なら遅くても30分あれば再生するという。

 ネクロマンサーは魔人のことを知っている様で、あの時の口調からすると、生まれたてだから弱いし、再生能力もないという感じだった。

 魔人ってどんだけ強いんだよ。

 俺は以前と比べようがないほど強くなったが、これでも弱いというのか?

 とにかく、俺の腕は再生はしているのだが、非常に遅いという事だ。結局、完治には4日掛った。


 そこで、本格的に自分の事が知りたくなった。

 未開の地、魔界を目指す。

 といってもまだ遠いので、当面の目標はギスミート王国の北の隣国、エルゴエデン王国に行く事にした。

 

 で、今何処に向かってるのかというと、バレスの町の東隣町だ。

 俺は今までの町で、出来るだけ色々な情報の収集や珍しい物を買ってきた。

 その内の1つが地図。地図自体は珍しくないが、書いてある規模や詳細等によって値段が全然違う。

 町で簡単に手に入るのはその国の地図で、隣国までが書いてある物は中々購入できない。

 残念ながら、俺が買った地図もギスミート王国しか書いていないが、その中でも詳細な地図なので満足している。

 地図は魔物の皮で作られており、魔法で描かれているので丈夫で、消えたりもしない。


 隣町には、走り出してから7日掛かって着いた。

 町に来た目的は、移動手段の馬車だ。乗るのは高速馬車となる。

 通常の乗合馬車より値段が高く、隣町までしか走ってくれないが、高速と言っているだけあって速い。

 

 俺は町を見て回る事もせず、早々に高速馬車に乗り込む。

 首都ミートを通らないルートで、エルゴエデン王国を目指す。

 

 高速馬車を何度も乗り継ぎ、ギスミート王国の国境を越え、エルゴエデン王国に入り、町に着いた。

 途中、色々な事があったが些細な事柄で、取り立てて大きな問題はなかった。


 目的のエルゴエデン王国、ここからは少しゆっくり北の未開の地を目指す。

 まずは宿屋を確保する。

 宿屋は5日滞在する事にし町を見て回る。

 木の家が多く田舎町には変わりないが、国境近くの町にしては整備されていて、町全体は綺麗だ。

 町を一通り見て、宿屋に戻る。


 翌朝、昨日見つけた仕立て屋に行って服を買う。

 今は片腕が半袖になって、肌が見えている状態。

 このローブは替えがないので、


「冒険者用の長袖シャツが欲しいが、出来れば耐性付いた物はあるか?」


「ジャイアントスパイダーの糸を使った、こちらの品はどうでしょう?通気性も良く丈夫ですよ。耐性を付けるのはオーダーとなります。1属性なら1日で出来ますが、2属性は5日掛ります。魔法全般、物理全般、斬撃、打撃、突き、火、水、土、麻痺の中から選べます」


 

 物理全般耐性付きを、3着購入した。

 1着金貨6枚だったので、金貨18枚支払って、仕立て屋を出た。

 店によって耐性を付ける量と種類は違う。ここの店は麻痺がある。

 俺の感覚では、状態異常の耐性があるのは珍しい。

 しかし、耐性を付けるのは値段が高い。

 この長袖シャツ自体は金貨1枚。耐性1つで金貨5枚。

 しかもここでは2属性までしか付ける事は出来ない。

 2属性目は金貨5枚では無く、金貨20枚追加なのだ。

 

 そういえば、魔人になったばかりの時の事だ。

 ゴブリンの矢が刺さり穴があいていたはずの服が、直っていた事があった。

 だが、今回の服は切断されたままだ。

 服に再生能力があるのかと思ったが、流石にそれはないか。

 しかし、俺の腕を切断した赤いスケルトンのあの剣、拾っておけば良かったな~

 今考えるとスケルトンの力というより、あの剣の方が凄い気がする。


 次に、冒険者ギルドに来た。

 目的はお金を稼ぐこと。やはりお金は大事なのだ。

 何もしなければ減る一方だからね。

 依頼は受けない。地元ではないので、魔物の生息地や状況を把握してないからだ。

 討伐依頼を受けて、魔物を見つけられず、期限切れになったら洒落にならない。

 色々聞いてみようと思い、受付に行き

 

「この周辺の魔物の生息地を教えて欲しい」


「えっ!はい、見られない方ですね。冒険者カードはお持ちですか?」


 俺はアイテムボックスから冒険者カードを出して渡す。


「失礼しました。Bランクの方ですね」


 受付の人はそう言って、周辺の魔物の生息地を教えてくれた。

 その後、少し寄り道して宿屋に戻った。

 翌朝、仕立て屋に行き長袖のシャツ3着を受け取った。早速その内の1着に着替えて、魔物の生息地を目指す。

 残りの2着と元々着ていたシャツはアイテムボックスに入れた。

 

 生息地は何ヵ所かあったが、なるべく短期間で種類が多く倒せる場所に行く事にした。

 今回は教えてもらった沼地地帯に行く。

 沼地地帯は故郷でもあったが、足場も悪く、魔物に襲われると不利になる事が多いので近寄らなかった。

 今は以前より強くなっており、戦闘にも自信があるので来たという事だ

 走って2日程で到着し、もう既に魔物も何体か討伐してある。

 スライム3体、ジャイアントトード2体、キラータートル1体、トレント2体倒して、アイテムボックスに入れた。

 中でも、キラータートルは大きく凶暴な亀で、珍しい魔物だ。

 初めて倒したので何とも言えんが、良い金になると思う。

 

 早速、冒険者ギルドに戻って掲示板を見る。

 まだ午前中との事もあって結構人がいる。しかも、俺の噂をしている様だ。

 

「あの仮面の奴、最近来たBランクらしいぞ」「あれが?魔法使いか?随分貧弱だな」 


 Bランクは田舎町では珍しいから仕方ないか。

 掲示板にジャイアントトード1体討伐依頼があったので、張り紙を手に取り、受付の人に張り紙と冒険者カードを渡した。


「確認します。ジャイアントトード1体の討伐で間違いないですか?」


「ああ、この前教えてもらった生息地で狩ってきたから、解体室に置いとくよ」


「え!え!はい・・・」


 そう言って、俺は解体室に入って行った。

 場所は聞かなくても大体分かってきた。

 解体室は外から入れる出入口と、ギルドの中から入れる出入口がある。

 殆どの人は外から入って魔物を渡す。出入口も大きいし、アイテムボックスを持っていないパーティーも居るからだ。

 もし持っていたとしても、大きさに個人差がある。

 Bランク以上の魔職系のアイテムボックスは広いが、それ以外は狭い人が殆どだ。

 よく考えたら俺も若い頃は狭かったしな。

 今では魔人になって膨大な量が入るので、持ち運びには全く苦労しない。


「初めて見る人だな。何か用か?」


「ああ、俺は魔導士だ。魔物を持って来た。全部で8体だ」


「俺?男なのか?・・8体か。そこのテーブルに出してくれ」


 指定されたのは大きなテーブルだが、その1つでは収まらない。

 他の空いているテーブルも勝手に使う。

 

「あ!?お、おい。そんなにでかいのか!ちょ、それ本当に死んでるのか?」


 解体室に居た人は大きさに驚いた様だが、それよりも魔物の状態に驚いた様だ。

 まぁ~そうなるよね。当然だと思う。

 倒し方だが、全部氷魔法で凍らせて倒したのだ。外傷は全くない。

 

「大丈夫だ、全部死んでるよ。俺は受付の方にいるから、見積もり頼むよ」


 すぐに受付の方に解体室にいた人がやって来て、メモを渡している。

 受付の人に呼ばれ


「今回の買取価格ですが、依頼の分も含めて、大金貨8枚です。これが詳細です。」

  

 スライム      金貨 3枚×3体

 ジャイアントトード 金貨 8枚×2体

       依頼料 金貨 5枚

 トレント      金貨15枚×2体

 キラータートル   金貨20枚


「あ、ネクトさん。生息地を探しているとの事ですが、馬で北東に5日程行った町の近くには、ダンジョンがありますよ。そこにいる魔物でしたら、うちのギルドで高く買い取らさせて頂きます」


 キラータートルは期待してたのだが残念だ・・金額はまぁこんなもんか。

 それよりも、ダンジョンだって?

 元々、この町は魔物を1回討伐したら出て行くつもりだった。

 さり気なく自分のとこの冒険者ギルドをアピールしているが、まあ丁度良いし、北東の町に行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る