第19話 約束の形
イドの姿が見えなくなって暫く経ってからだ。
やっと来たか。魔物達を指揮している奴だ。書物でしか見た事ないが、あれはワイトだ。
そのワイトを守るかのように、周囲にアンデッドを多数従えている。
ワイトは高貴な服装に杖を持っている。
人間の姿をしているが、どう見てもアンデッドっぽいのは変わらない。
俺はアイスショットを無数に出して放ちながら、ワイトに突っ込んでいく。
「お前か。ここで阻む者は」
少しぎこちないが、会話できるのか。
書物には載っていなかった。
「そうだ。お前こそ凄いじゃないか。ここまでの数のアンデッド従えて」
「フ。余は兵に過ぎぬわ。サンダーボルト!」
油断した。もろにサンダーボルトを喰らった。
上空から太い雷が1本降ってきた。
クソ~魔法が使えるだと!しかもただの兵って言ったのか?
いきなりで驚いたが、体は何ともない。痛みもなかった。
深く被っていたフードが外れたくらいだ。服のお陰なのか?
俺は片手を上げて
「サンダーストーム!」
ワイトの周囲に無数の雷を落とした。
俺は単身でワイトに突っ込んだので、味方も周囲に居ない。
上空から何本も雷が降って来る。やはりワイトは無傷か。
だが、ワイト周囲の雑魚は一掃した。
俺は無詠唱で青い炎のファイアアロー5本出し、ワイトに向けて放った。
「サンダーウォール」
ワイトは雷属性の障壁を出し防ぐが、俺の威力の方が強い。突き抜けて攻撃する。
それによりワイトは傷を負っているが、致命傷にはなっていない。
仕返しとばかりに、ワイトが杖を掲げた。
「いかずちよ、大空に羽ばたけ。サンダーバード」
嘘だろ!ワイトが見たこともない上位魔法だと・・・ヤバい
「ウォーターウォール!!」
俺はドーム型に水の障壁魔法を分厚く出した。
ワイトの魔法は雷で出来た鳥だが、上位魔法にしては小さくないか?サンダーバードというかサンダーポッポって感じだ。
ポッポが障壁魔法に激突した。しかし、小さくても威力があった。
凄まじい音と共に粉砕した。
色々な意味でびっくりしたぞ・・
俺は透かさず片腕をワイトに向けて
「トルネーーード!!」
ドーナツ型の斬撃入り竜巻を、ワイトの足元に出した。
これで勝負あったが、余り使いたくなかった。
切り刻んだら、ワイトと分からなくなるからだ。
近づいてみると、死んではいるし傷は付いているが、何故か原型は保っている。
何らかの魔法の防御が施してあったのだろうか?
考えていても仕方ないので、俺は急いでワイトをアイテムボックスに入れて南西方向に走る。
周囲にはまだアンデッドが沢山いるが、俺の知った事ではない。
正直、俺は冒険者などはどうでもいい。
しかし、ワイトを倒したのに、まだ奥からアンデッドがゾロゾロやって来る。
嫌な予感がする。
俺の片手には白い氷の剣がある。
俺の持っている短剣に魔法を使い、氷で剣の形にして長くしただけだ。
魔法でアンデッドを攻撃しているが、全速力で走っているので魔法だけでは追い付かない。
魔力も節約したいので、氷の剣でも攻撃をする。
行く手を塞ぐ魔物がいれば叩き斬っている。
かなり遠くまで走って、ようやくイドを発見した。
まだ遠い。距離がある。
やはり誰かと戦っている。
走りながら持っている氷の剣を、戦っている人影に向けて放った。
風魔法に乗せながら、全力で投げた。
剣は回転しながら勢いよく飛んで行く。
走りながら攻撃を続ける。青い炎のファイアーアロー出しては放つを繰り返す。
剣は弾かれ、ファイアーアローも当たらないが、イドの近くに行く事が目的の攻撃だから気にしてない。
よかった、イドは無事だ。
「イド、大丈夫か」
「ちょと不味いわ。アイツが元凶のネクロマンサーよ」
「ファイアーエリア!!」
目の前に居るネクロマンサーは、外見は殆ど人間で、前頭部が剥げている。
白髪頭の爺さんで、杖を持っている。目が離れていて斜視になっている。
魔物を警戒しながらイドを確認するが、特に傷はない。
けど、言葉付きには冗談もない。いつものイドらしくない。
魔力が尽きているのか?
自分自身から半径7m以外、そこから先20mを青い炎の海にした。
20m以内の雑魚は溶けて死んだ。
20m内にネクロマンサーもいるが、ダメージを受けてないのか?立っている
「ほう、面白い魔法だ。実に良い。その女も使い手だが、いいぞ。楽しめそうだ。どれ、こいつで試してみるか」
ネクロマンサーは空間から頭蓋骨を出した。
「アイテムボックスだと!?」
思わず呟いてしまった。頭蓋骨には、額に赤い石が埋め込まれている。
あれを使ってネクロマンサーは何かする気だ。
俺はそれに構わず青い炎のファイアアローを5本出し、ネクロマンサーに放つ。
ネクロマンサーは杖を持っており、腕を伸ばしファイアアローを簡単に弾く。
何らかの防御魔法か・・・
「慌てるな童」
ネクロマンサーは不敵にそう言い放つと、何か呪文を唱え出した。
頭蓋骨の赤い石が溶けているのだろうか。
広がって真っ赤な頭蓋骨になった。
そのままそれを、近くの炎が無い場所へ投げた。すると真っ赤なスケルトンが出来上がったのである。
「ネクト、あのスケルトンは私が相手するわ。ネクロマンサーの方お願い」
「ダメだイド。魔力少ないだろ?イドは切り札だ。もう少し辛抱して、回復に専念してくれ」
俺の指摘に反論はしないが、魔物を目の前にして戦えない事に、イドは悔しい顔をしている。
今にもスケルトンに向かっていきそうだ。
だが、相手の強さも分からない。
ここで魔力の少ないイドを無理をして戦わせる訳にはいかない。
ネクロマンサーはアイテムボックスから剣を取り出し、スケルトンに渡した。
「高みの見物か!後悔させてやる。ファイアトルネード!!」
中位ヴァンパイアを倒した技だ。青い炎の球体をスケルトンに放った。
暫く燃えていたが、スケルトンが勢いよく飛び出してきた。
しかも、イドの方に向かっている。
いつの間にか、俺とイドの距離も少しだが離れている。
イドも俺も魔法を出すが、間に合わない。
俺は全速力でイドに近づき突き飛ばした。
全く痛みは無かったが、俺の右腕肘から下が無くなっている。
血も出てない。骨や血管や肉もない。
空洞でもなく、断面はただ黒いだけ。
切断された部分の腕は、暫くして消えた。
「お前、何者だ。変わった奴だ。少し話をしてやる。ウヒョヒョ」
赤いスケルトンはネクロマンサーの近くまで戻り、動きは止まっている。
恐らくネクロマンサーの仕業か。
どうやら戦いより、会話がしたいみたいだ。
いいだろう。そう言う事なら、相手してやる。俺は仮面を外し、アイテムボックスにしまう。
「イド、大丈夫か?」
「ネクト。上位ヴァンパイアだったの?」
俺は何も答えない。久しぶりに怒りが込み上がる。
腕を切り落とされたことも多少あるが、イドに正体がバレた事に。自分の不甲斐なさに。
「魔人様?」
ネクロマンサーがそんなこと言う
「そうか、魔人を知っているのか?アイストルネード!!」
白い氷の球体を、動かないスケルトンに放った。
凍った事を確認後、ドーナツ型のウインドカッターを無数放った。
スケルトンはバラバラになって動かなくなった。
やはり炎耐性のスケルトンだったのか。
俺のファイアエリアで死ななかった時に気付くべきだった。
こんな奴にやられたのか。情けない。
「その腕再生しないのか?そうか。ウッヒョヒョ。今日は本当に素晴らしい。生まれたばかりの魔人か。これなら丁度いい。実験材料になってもらいますか。ねえ魔人様」
「ダイヤモンドダスト!!」
俺の白い結晶のダイアモンドダストだ。ネクロマンサーは一瞬しか凍らない。直ぐ解除される。
「流石、生まれたてでも魔人か。侮れないな。ドラゴンの息吹!」
「ウィーターウォール。アクアローブ!」
ネクロマンサーは巨大な竜の顔を出し、その竜は口から炎を吐いた。
俺はエメラルドグリーンのドーム型水障壁と、同じエメラルドグリーンの水のバリアをイドの体に張った。
「イド、魔法を防いだら後ろに下がってくれ。頼む」
ドラゴンの息吹は長い事炎を吐いているが、俺の障壁はビクともしない。
「これを耐えるか。全く面白い。最高傑作が作れそうだ!」
最高傑作?俺を殺して操り人形を作る気か。
イドはタイミング見て、後方に走って行った。
「魔人が人間に気を使うか。ウッヒョヒョ」
「エクスプロージョン」
「クッ、アクアローブ」
ネクロマンサーは、俺の足元で大爆発の魔法を放った。
俺はアクアローブで体に緑のバリアを張った。
俺の障壁ウォーターウォールとアクアローブのバリアは粉砕されたが、どうにか助かった。
ただ髪の毛と、肌が露出している部分が焼けている。
しかし、煙が出て少しずつだが修復されている。
「クソうるさい爺ィめ~お前お得意の炎で決着つけてやるよ。ファイアートルネード!」
「さっきも見たわい。ウッヒョヒョ。おバカさんか」
「ファイアーーートルーネーード!!!!」
「グゲッ・・この炎・・・・・」
俺は左手をネクロマンサーの方へ向け、青い炎の球体を放った。
加えて拳を強く握り締め、ありったけの魔力を全力解放し叫んだ。
青い炎が激しく燃え上がり、青から紫に変わり、さらに激しく高く燃えだした。
暫く経った。魔法は解除してある。
解除すれば普通は効果が消えるが、まだ炎は燃えている。
そして俺には分かる。なんだろ、感触というか分からないが確証している。
ネクロマンサーはもう死んでいる。
そして、さっきネクロマンサーにやられた火傷などはもう治っているが、スケルトンに斬られた腕は全然治らない。
後方に下がっていたイドが、俺に近づいてくる。
「終わったの?」
「ああ、倒した。イド、ここでお別れだ」
「え!?ネクト・・・・何言ってるの?」
俺は倒したワイトをアイテムボックスから出した。
「ワイトは俺には必要ない。イドが持っていけ」
「何言ってるか分からない!!説明してよ」
「分かってるだろ。俺はヴァンパイアではない。ネクロマンサーが言っていた魔人だ。イドに会う少し前に魔人になったんだ」
「そんなの関係ないわよ。ネクトはネクト、そうでしょ?」
イドは大粒の涙を流してる。
イドは頭の回転も早い。
今この現状を悟っているはずだ。
「仮面を外したのはわざとだ。イドに見てもらう為にな。元々、首都ミートまでの約束だ。それが少し早くなっただけ。魔人とばらしてしまった以上、一緒には居られない」
「嫌、絶対に嫌。それじゃ、私を殺せばいいじゃない。ミートまでの約束でしょ。信用勝ち取ったら、ずっと一緒に居てくれるんでしょ。約束守ってよ」
「約束は守ったさ。白い氷、コツをつかんでるだろ?真っ白に出来なくても少し色が付いて魔力の質が変わったはずだ。俺はイドと居て心地よかったし楽しかった。でも一緒には居られない。俺は自分の事も全然知らないんだ。明日死ぬかもしれないし、1000年生きるかもしれない。イド、今は辛いかもしれないが、時間が経てば緩和される。きっと俺も同じ気持ちだと思う」
「魔法の事知っていたの?」
「いつも一緒に居たんだ。イドの魔力の変化くらい分かるよ」
イドは涙を流して、崩れ落ちている。
「同じ気持ち?ネクトは私の事、好きだって言うの?」
「暫くしたら、ここにも冒険者が来るだろう。もう行くよ。俺はイドの事が好きだ。だから無茶はせず、長生きしてくれ」
紫の炎は消えている。ネクロマンサーは跡形も無い。
こんな事になってしまったが、今ではネクロマンサーに感謝している。
ネクロマンサーの実力ならイドを殺せたはずだが、何の目的があったのか知らないが、イドの命が助かったのだ。
俺は東の方角に走った。イドの叫び声が聞こえたが、振り返らずそのまま走り去った。
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