第16話 Bランク試験の結果

 次の日、朝早くからイドが来たので、俺は部屋に招くなり、昨日の出来事で聞けなかった事を聞いた。

 

 まず、一番気になっている、イドが冒険者ギルドに嘘をついて報告した、嘘をつかなければ俺が大変になるという事の確認だ。

 

 イドが言うには、戦いにおいて魔法使いはヴァンパイアとの相性は悪くないが、中位クラスだとAランク1人では歯が立たない。

 それを俺が圧倒的に倒したとなれば、冒険者ギルドの本部は黙っていないとの事。

 徹底的に調べられて、使えるならSランクに昇格させ、ギルドの手駒として使役される。

 生活は贅沢し放題だが、自由が奪われる。

 なるほど、俺には無理。そんな生活は絶対にごめんだ。

 そして、アドムドに聞かれたら答えるようにと、どんな嘘をついたかも話してくれた。

 

「あの時、私はネクトに命を助けられたのよ。それにSランクになりたい人は沢山いるけど、ネクトは違うと確信したのよ。今後、どうしたいかと聞いたでしょ」


 少しホッとした。俺の思っていた最悪のシナリオではないらしい。

 にしてもイドは色々と凄いのだな・・俺はふと


「イドって何歳だ?」


「え!?女性に年を聞くの?最低ね。ネクトこそ幾つよ!!!」


 あ、不味かったのか・・・どうしよ・俺の年は・・


「俺は20歳だけど、イドは俺と同じ年くらいかな?」


「あ、え嫌だ。そんなに若く見えるの?フフフ。24だけどね」


 セーーーフ。ヤバかった。思ってる本当のこと言ったらと思うと・・気を付けよう。

 そりゃーそうだろ。見た目はたしかに20代前半だが、冒険者ギルドの職員でAランク。

 この事実だけでも、その年齢では不思議だろ。

 どんだけ才能あるんだよ。

 俺は実際にはおっさんだから分かるが、その若さであの時死を覚悟して俺を逃がそうとしたのだから、度胸や覚悟もあるって。

 俺の24歳の時と比べると、悲しくなるな・・・


 冒険者カードの事も聞いてみた。

 一般人が分からないとなると、旅をする上で優遇がないからだ。

 Aランクを取る意味がなくなってくる。

 だが、これは俺が知らないだけで、商人や門番は勿論、都会にいる冒険者なら分かるとの事だった。

 ちなみに、Sランクがゴールド色のカード。

 ギルド職員はブラックで、カードに星の形が彫られている。星の色や数によって役職が違うらしい。

 

 そして、昨日貰った報酬の事。

 退職金の分は抜いてくれと俺は言ったが、それは気にしなくていいとの事だった。

 逆に、今後の方針はどうするのと聞かれた。

 俺はイドに任せると言ったら


「分かったわ。じゃ、パーティーリーダーは私で、報酬は折半ね」


 何も問題ないので承諾した。


 最後はギルドの闇について聞いてみた。


「それについては後々教えるわ。今、全部教えても信用できないでしょ?」


 まあ、そうだな。納得できたので、この事はこれ以上聞かなかった。

 俺の聞きたい事は、取り敢えず全部聞いた。

 ここ迄の話を総合した結果、俺が過剰に物事を考えていたみたいだ。


「ネクト。これから毎日の事だから言うけど、女性が来たのよ。飲み物ぐらい出しなさいよ。ちなみに、私はコーヒーがいいわ」


「え!?あ、俺は今まで1人だったから気づかなかったよ。ごめん、飲み物は水しかないんだ。面倒かもしれないが、これから気になった事は言ってくれ」


「仕方ないわね。でも素直なとこは好きよ、フフフ」


 そう言って、イドはアイテムボックスからコップとポットを出し、既に作ってあるであろうコーヒーを入れて俺に渡した。

 あるなら自分で用意してくれよ・・この先が不安だ・・・


 今後の打合せも終わったので、少し休憩して、冒険者ギルドに向かう。

 中に入ると、まだ午前中なので冒険者達が集まっている。

 俺を見るなり、ざわざわしだした。

 イドはシェリーのとこに行き、何やら話をしている。

 突然、見たこともない冒険者が


「あんたCランク取ったんだってな、すげ~な~応援してるぜ」


「ああ、ありがと~」


 どうやら俺の噂が広がっている様だ。

 まぁこれからBランクのカード貰うところだが、流石にそこまでの情報は出てないか。

 ついでなので、俺は解体室に行き、ジャイアントスパイダーの子供7体とクイーンスパイダー1体、職員の確認を取って出した。

 直ぐにイドが俺を呼びに来て、ギルドマスターの部屋に行く。

 部屋に入ると、アドムドは既にソファーに座って待っていた。

 

「待っていたよ。まずは座ってくれ」 

 

 俺とイドは対面のソファーに座る。


「早速だが、ネクト君。中位クラスのヴァンパイアを倒したその力は、どこで獲得したのかな?」

   

「ん~余り答えたくないので察して欲しいが、質問はこれが最後という事で答えましょう。魔法は独学ですよ。俺は少しだけ他の魔導士と違って魔力が多いんですよ」


「なるほど、なるほど。上手く逃げられたかな。ガハハハ。Cランクの冒険者カード出してくれ。これはBランクの冒険者カードだ。合格おめでとう」


 アドムドはBランクの冒険者カードを出してきた。色は赤。

 ようやく元に戻った感じだ。

 アドムドはBランクの説明をしてくれた。

 俺の知っている通りだった。

 依頼を連続で2回失敗すると降格になる。

 その他はCランクとほぼ同じ。

 俺はアイテムボックスからCランク冒険者カードを出して、アドムドに渡した。

 アドムドはイドの顔をチラッと見て


「ネクト君、Aランクを受けるんだろ?受けた後なんだが、もしどこも行くとこが無ければ、ここバーパンの町を拠点にすると良い。俺が悪いようにしない。直接相談に乗ろう」


「そうですね。路頭に迷ったときはお願いします」


「ネクト、Bランクおめでとう。マスターそろそろいいかしら?私達は行くわ」


「そうだな。イドも冒険者としてなら何時でも戻ってきなさい。歓迎するよ」

 

「ありがとう」


 俺とイドはギルドマスターの部屋を出る。

 イドは受付に行き、先程渡した魔物の買取金を貰っていた。

 金貨46枚。内訳は、ジャイアントスパイダーの子供1体金貨5枚 親が金貨11枚。      

 イドから金貨23枚貰った。


「つい最近までジャイアントスパイダーの子供、金貨4枚だったけど・・」


「ネクト、ギルド内で言わないで。ピンハネしてるからよ」


 イドは俺だけに聞こえる小声で言ってきた。

 俺も薄々分かっていたが、イドの言葉で納得した。小さく頷く。

 そして俺とイドは、冒険者ギルドを出た。


「イド、町を出るのは明日の朝でいいだろ?今日はここで別れよう。俺はやることがある」


「えええええ。何よそれ。何時魔法教えてくれるのよ。出発は明日でいいけど、随分冷たいのね。お昼一緒に食べようと思ってたのに」


「魔法の勉強は何時でも出来るだろ?俺もイドに教えて欲しいしね。色々準備があるんだよ。イドの好きなコーヒーも買わないといけないし。それに、イドも色々支度してないだろ?」


「アハ!そうね。分かったわ。それならいいわよ。フフフ。じゃ明日宿屋に行くわ」


 イドは急に機嫌がよくなって、俺の視界から居なくなった。

 さてと、この前バーパンの町を見といて良かった。

 俺は市場やら道具屋に行って、今後、旅に必要な物を買い溜めしといた。

 道具屋では、爺さんとその息子に挨拶して別れた。

 買い物が終わったので宿屋に戻る。女将が居たので、少し話をして部屋に戻った。


 翌朝、イドが来た。

 俺は、昨日買ったポットに淹れておいたコーヒーをアイテムボックスから出し、コップに注いでイドに渡した。

 イドはとても満足してくれた。

 俺は言われたら実行できる男なのだ。

 暫くして宿屋を出て、俺は周囲を見渡す。

 何故かイドも動こうとしない。


「イド、馬は?馬小屋に居るのか?」


「ええ。馬小屋に居るけど、あの子はあそこのオーナーに、今後売らないという条件で手放したわ」 


 当然、イドの馬で移動するものだと思っていたから、移動手段は何も考えていなかった。


「私は歩きでもいいわよ。そのほうがネクトと一緒に居られる時間は長いでしょ」


「イド。何、冗談言ってるんだよ。首都ミートまで歩けるはずないだろ!!取り敢えず乗合馬車に行こう」


 俺なら出来るけど人間の足で歩くって、どんだけ時間掛かるんだよ!

 2人で並んで歩き、乗合馬車まで来た。意外にも首都ミートまで行く馬車は多かったが


「ちょっと。今までそんなやり方で移動してたの?私に任せて。ネクトはその辺に居て」


 そう言ってイドは馬車の方に行く。俺はイドの行動を遠くで見ている。

 イドは、何人かの馬車の持ち主と話をしている。

 暫くしてイドが呼びに来た。

 俺はイドの後に付いて行く。


「ジャジャーン。これよ」


「おい、嘘だろ?これで行くのかよ。幾らしたんだよ?」


「心配しないでいいわよ。お金は私が払ったから、ネクトに貰うつもりないわ。私、お尻が痛いの嫌なの」 


 馬車は貴族が乗るような馬車。

 後で聞いたら馬車は貸し切りで、大金貨2枚で首都ミートまで行くとの事だった。

 通常の乗合なら、隣町まで1人銀貨5枚が相場。

 

 乗合馬車と貴族馬車の違いは、簡単に言うと、乗り心地と出入口が横からか後ろからかだ。

 乗合馬車は出入口が後ろからで、座る椅子は縦になっている。

 その為、同じ大きさの馬車でも人が沢山乗れる。

 この手の馬車は貸し切りが一般的で、首都ミートまで大金貨2枚はイド曰く、非常に安い価格で交渉できたのだと自慢していた。

 首都ミートまで距離があるのは分かるが、通る町が幾つあるかは知らない。

 貴族馬車も乗ったことがないのだ。

 

 馬車に乗り込んで出発した。

 この貴族馬車は護衛がいるような王族の馬車ではないので、外見の箱の部分は汚く見えるが、内装は素晴らしく、乗り心地は抜群だった。

 外見を汚くしているのはわざととの事で、盗賊に狙われない様、目立たない姿にしているらしい。


 馬車の旅は凄く快適だ。

 バーパンの町から首都ミートまで、道は整備されていると言う。

 ただ、首都ミートを含めた町が5つもある。

 道は幾つかあるが、今回は少し迂回ルートになるらしい。

 イドが整備された道が良いと言ったので、遠回りのルートになった。


 馬車の中では早速、イドが魔法の事を聞いてきた。

 俺は魔人である事と、自分の生立ちや出身国を知られない程度で話をした。

 要は書物によって独学で学び、他の人よりも魔力が多い、と強調して話したのだ。

 結局のところ、アドムドに話したのと変わりはない。


「本当に師が居ないって言うの?私に嘘つかないでよ。分かってるよね?」


「当然だよ。イド」


「じゃ、いいわ。信じる。次の馬車の休憩の時、実演して欲しい魔法があるのよ」


 そう言って、自分が知りたい事を説明してくれるが、氷を青い炎の様にしてくれと言い出したのだ。

 これには馬車の中で口論となった。

 そもそも氷の変換が水であって、水の変換が氷である。

 俺はそんな難しいことよりも


「青い炎を獲得すればいいだけだろ?」

 

「ハァ!?私は炎系は使えないのよ。今から系統を増やすなんて、何年かかるか分かんないわよ!!それとも、ネクトは一生私の面倒を見てくれるの?」


 そんな事を言い出すのだ。

 俺は自分の魔法の認識が少しおかしいと思ったので、イドに改めて聞いてみた。

 普通は1つの魔法を極めてから、違う系統の魔法を習う。

 獲得したい場合は、新たにその系統を得意とする魔法の師から習う。

 1人で何属性も使える事自体少ないが、ある程度年齢が高くなれば、3属性までなら使える人は居るらしい。

 この世界では、属性魔法とは別に生活魔法がある。

 アイテムボックスや明かりを点けるライト、探知やその他にも多数あるが、これ等が生活魔法になる。

 生活魔法は比較的簡単な魔法で覚えやすいが、個人差が大幅にでる魔法でもある。


 イドは俺の魔法を5属性見ている。火風水氷土。

 イドが見た炎系の魔法以外は下位魔法だが、威力や規格が明らかに違うと言う。

 それと幾ら下位魔法とはいえ、5属性使える人は賢者とか大賢者、大魔導士、呼び方は多数あるが、冒険者ギルドで言うと、Sランクの中でも上位の存在らしい。

 まぁ~そういった人達は上位魔法も当然のように使えるのだけどね。

 

 俺は後から言われるのも面倒くさくなると思い、

 6属性の魔法が使えるとイドに教えた。

 イドは得意な魔法は水と氷。雷がほんの少しだけ使えるとの事だった。

 そう考えるとイドは凄いな~その若さで3属性使えるって事になる。

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