第15話 イドの告白
俺はバーパンの町を一通り回った後、宿屋に戻った。
嬉しい収穫があってご機嫌だ。
中位魔法の書物をゲットしたのである。
中位というだけあって高かったので、残りの俺の残高がヤバい。
とりあえず、まだ少しあるが稼がないとな~
アイテムボックスの中にある書物は今日買った1冊だけで、残りは全てエプレの町にある俺の自宅だ。
何冊か読んでない物もあるが、もう戻ることはないだろう。
宿屋の1階にイドがいた。ビールを飲んでいる。
それも美味そうに。くぅ~羨ましい・・
「ネクト遅い~。今何時だと思ってるのよ」
時刻は夕方ぐらいだろうか。
イドは話があると言って、俺の部屋に付いてきた。
イドはソファーに座る。
ソファーは2人座れるが、俺はもちろん対面のソファーに座る。
前には小さなテーブルもある。
「単刀直入に言うわ。私、ネクトと正式にパーティーを組んで、一緒に旅したいのよ」
「ファァ!?いきなりすぎるだろ。そんなの無理無理」
俺は慌てて首を横に振った。突然過ぎて意味が分からない。
「私、ギルド辞めてきたのよ。嘘じゃないわよ。マスターに聞いてもいいわ。そこまで覚悟して、ここに来たのよ」
「そう言われてもな~無理なんだよ・・・・」
どうなっている?冒険者ギルドから怪しまれているのか?話が読めない。
訳が分からず考えていると、イドがアイテムボックスから革袋とカードを出してきた。
「このカードだけど、ネクトは何だか分かる?」
「ん?触ってもいいか?」
俺はカードを手に取って調べた。
色はシルバーで、片面に数字や文字が沢山彫られている。
大きさは冒険者カードと同じ。
「ギルド職員のカードか?」
「ブッブー。やはり私が思った通りね。ネクトはギルドの事詳しそうで、実は分かってないのね。それはAランクのカードよ。私は元々Aランクなの。もちろん、ギルド用のカードもあるわよ。私は辞めてきたからギルド職員カードは返して、Aランクのカード貰った。それだけよ。これで私がギルドを辞めたって分かったでしょ」
俺は言葉が出てこない。
大体は相手が何を考えているのか分かるつもりだったが、今はイドの目的が分からない。
アドムドが関係してるのは間違いないと思うが、冒険者ギルドがイドを使って俺を探ってる?何の為に?全く分からない。
しかし、あのカードはAランクのカードだったのか。
言われてみればそうだが、Bランクのカードまでは大きくランクの文字が書いてあったのに、あれでは一般人はAランクと分からないじゃないか・・
「ネクト、革袋の中身も確認してね」
革袋を縛っている紐を外して、中身を確認する。
大金貨50枚 大金だ。何の金だ?
「何不思議そうにしてるの?今回の報酬の半分よ。約束したでしょ。でもね、その金額の中には私が口止め料として貰ったお金と退職金も入ってるのよ。私と旅をしてくれるなら、そのお金は全部ネクトのよ。でもダメなら無しよ」
「退職金は分かるし、それはイドの物だから抜いていいさ。でも、口止め料ってなんだ?」
「へぇ~ネクトは欲がないのね。口止め料は言葉通りよ。ギルドの闇って言えば分かるかしら。それも私とパーティーになってくれるなら教えるわ。それとね。今回の討伐の事だけど、ギルドには嘘の報告してあるの。だってそうでしょ。本当の事言ったら、ネクト、大変な事になるかもしれないし」
イドはどこまで俺の事が分かっているんだ。
魔人だと気付いているのだろうか。
嘘の報告したって?う~ん・・ここは逃げるしかないか。逃げられるのか?
今のこの状態では人が居過ぎて、探知魔法も意味がない。
外にはイド以外にも戦闘員がいるのか?
「イド、何が目的だ。しっかりとした理由を言え!!」
イドは一見冷静にしているが、何か必死さを感じる。
俺の方は完全に焦っているが・・・
「私の目的は一緒に居たい、それだけよ。ネクトの魔法が知りたいのよ。魔法使いなら分かるでしょ。魔法の深淵を知りたいと思うのは、おかしいかしら?」
「ああ、なるほど。イド、それは凄く良く分かるよ。だが、少し考えさせてくれないか?」
「ダメ。と言いたけど、10分ならいいわよ」
「・・・わかった」
話を纏めよう。俺は呼吸を整えて考える。
イドはギルドを辞めた。俺と旅をしたい。魔法が目的。
ギルドに嘘の報告をした。ギルドの闇を教えてもらえる。金も貰える。
全部本当なら信用できるが、どう考えても信用に値する材料が足りな過ぎる。
だが最後の一言は、痛いほど分かる。
魔法使いなら誰でも憧れる道だ。あれは本心だろうな。
俺にはその一言だけで、心が揺らぐ。
共に魔法の道に進みたいと思う程に。だが俺は魔人だ。
許されるはずがない。
「ネクト、時間よ。聞かせて」
「Aランクの試験を受ける為、首都ミートまで行く。そこまでなら一緒に行動する。これが俺の最大の譲歩だ」
「それはこの先、信用を勝ち取ればずっと行動してもいい、って解釈でいいのかしら?」
これでもまだ粘ってくるのか・・・
「そうだな~だが、イドの目的は俺の魔法だろ?言っても信用しないかもしれないが、俺は上位魔法は使えない。イドが知りたがってる事象は少ないと思うぞ」
「大丈夫、それでいいわ。約束ね。フフフ」
イドを完全に信用したわけではない。油断はしない。
それに本当だったとしても、首都ミートまで。
イドが知りたい魔法は分かっている。
青い炎とファイアトルネードの変形だ。
それさえ獲得すれば、納得するだろう。
問題はどうやって教えるかだが・・・教えるって難しいな~
「あ、そうだ。マスターが呼んでいたわよ。明日にでもギルドに一緒に行きましょ。大丈夫だと思うけど、気を付けてね。この町に少しでも滞在するように仕向けてくるかもね」
詳しく聞いたら、冒険者ギルドは町の治安や活性化を目的としている。
当然、強い冒険者を独占したい。
その為なら、ギルドマスターは色々な手を使ってくるらしい。
強い冒険者の獲得。それは町だけでなく、ギルドマスターも多大な恩恵にありつける、という事だった。
まぁ~そうだよね。言われてみれば当たり前の事だ。
「じゃ、私ここに泊まるから。よろしくね」
「ハァ!?ダメに決まってるだろ~」
「え!?何でよ。ベッド2つあるし、別にいいじゃん。ネクトが襲ってきても抵抗しないわよ」
「何言ってるの・・・そういうのは間に合ってるから、明日来てくれ」
イドは性格を抜きで言ったら、いい女だ。
顔もスタイルもいい。
以前の俺なら願ってもないだろう。
だが、魔人になってからの欲求は知の探究くらいしかない。
食欲、睡眠欲、性欲どれもなくなってしまった。
心残りは、酒やビールをもう1度味わいたい事かな~
「分かったわよ。でも、今日は大事な記念日よ。乾杯しましょ」
イドはアイテムボックスから、グラス2つに、何だろ?見たことない飲み物だけど、酒類には違いない。
「私の故郷にあるお酒よ。けっこう強いから、ネクト大丈夫かしら。まぁ、倒れたら介抱してあげるから。フフフ」
「ああ、倒れたらな。イド、これからよろしくな」
俺はゆっくりと口に含んだ。味は悔しいが分かんない。
酔うこともできない。悲しい・・・
暫くしてイドは満足したみたいで、上機嫌で帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます