第11話 イドと2人で
宿屋の女将に部屋が空いているか尋ねたら、問題なく空いていた。
しかも、前回俺の使っていた部屋が空いているとの事だったので、その部屋で3泊頼んで金を支払った。
部屋は前と変わらないので、案内はなく俺1人で部屋に入って行った。
一般的に宿屋の鍵は、部屋の内側にしか付いていない。
部屋の中の荷物を誰かに盗まれたり失くしたりしても、全て自己責任となる。
そういった事は少ないが、ないとも言い切れない。
なのでこの前出会った商人のブランソンは、俺のアイテムボッスをしつこく貸してくれと言ってきたのだ。
しかし、奴の場合は仕入れた品物まで運びたい魂胆もあったのだが・・・
俺はベッドの上で、最近定番の瞑想をして過ごす。
翌朝、女将が俺を呼びに来た。イドが来たのだ。
イドは俺の部屋に入るなり、備え付けのソファーに座って
「今から古戦場跡に行くわよ。用意して」
え~いきなりかよ~アイテムボックスには、イドと旅をしてバレない程度の食料と水はあるが、魔物除けの液体は少ないな。
今から買いに行くといっても、あの道具屋に行く事になる・・・イドが付いて来たら、面倒臭い事になりそうだな。
「特に用意する物はない。何時でも行けるよ」
「流石ね、じゃ行きましょ」
そう言って宿屋を出る。何故かイドは俺を過大評価している気がするが、俺は素直に後に付いて行く。
イドの格好は軽装だが、ギルドにいる時の肌が露出している服装ではなく、俺と同じようなローブを着ている。
杖も持ってないが、恐らくアイテムボックスに入れてあるだけだろう。
町外れにある馬小屋に来た。
馬小屋といっても広く、隣接する土地に広大な牧場もある。
バーパンの町は、何処へ行っても建物が大きく作ってある感じだ。
牧場付きの馬小屋は少ないが、預かるだけの馬小屋は町の中に幾つもある。
イドは厩舎の方へ入っていき、暫くすると馬の手綱を引っ張って歩いて来た。
「次はネクトの馬のところに行きましょう。何処?」
「馬は持ってないよ」
「嘘でしょ。古戦場跡に徒歩でいったの?」
信じられないという感じでイドは俺をジロジロ見るなり、どっか行ったと思ったら2人乗り専用の鞍を持って来た。
「ちょっと!見てないで手伝いなさいよ。ネクトは体重軽そうだから、特別に乗せてあげるだけだからね」
俺は馬のことは余り知らないが、イドの馬は大きく立派で、他の馬とは少し違う雰囲気、というかそんな感じがする。
無事、鞍を取り換えて出発する。
イドは馬に乗るのにローブが邪魔だったようで、アイテムボックスに入れていた。
冒険者ギルドで見る、いつも通りの露出した格好だ。
俺もローブを脱いで、アイテムボックスに入れた。
イドは馬に跨っているので、気付かれない様に素早く脱いだ。
ローブを脱ぐと髪の毛を見られるが、まぁ良いだろう。
見られたら言い訳は考えてある。
「ちょっと!変なとこ触んないでよ」
「ええ・・どこ掴まればいいんだよ。腰でいいだろう。それにしても細いな~」
「な!?掴まるならしっかり掴まってよね」
イドはいちいちうるさいけど、慣れてきたので大して気にしてない。
走り出した馬は凄く速かった。
今まで馬の速度は殆ど同じだと思っていたが、2人乗りにもかかわらず速度が出ている。
イドに聞いたら、これでも飛ばしている訳ではなく、馬の走りたい速度で走っているという。
そのまま馬に任せて暫く移動していたが、時間にして昼過ぎだろうか。休憩が入る。
やはりそうなるよな~俺はもうこの体に慣れてしまって、休憩等は必要としないのだが。
人間の感覚が徐々に薄くなっている気がする。
まあ、馬の為にも休まなければいけないよな~そんな事を考えていたら、休憩の際にローブをアイテムボックスから出すのを忘れていた。
「ネクト、何、その髪の毛。どうしたの?」
「あ・・呪いの類だよ。移るとかないから、心配しなくていいよ」
「ふ~~ん。ネクトって謎が多いのね。ギルドのこと詳しいけど、ハイグール知らなかったし。何者なんだろうね?」
えええ、イドまで鋭いのかよ。
イドは安心だと思っていたけど、間違いだったか。
今後は気を付けよう・・
「大人の事情ってのがあるんだよ」
「フフフ。そう言う事にしといてあげるわ。ちょっとその髪の毛触らせて」
これは拒否したほうがいいのかな・・迷ってる間に、近寄ってきて触りだした。
俺は慌ててアイテムボックスからローブを出し、体の態勢を変えて素早くフードを被り直した。
「あら、照れなくてもいいのに。綺麗な髪なのに隠すなんて勿体ない」
「え・・何言ってるんだよ・・」
何を言い出すんだ。こんな色の髪の毛、少し色違いだが爺さん婆さんしかいないぞ。
人前で歩いてたらおかしいだろ。
暫くそんな事を話しながら休憩し終わると、馬に乗って移動する。
馬に乗るときは、やはりローブが邪魔なのでアイテムボックスに入れる。
驚いたことに、夜には古戦場跡に着いたのだ。
夜と言っても、日が暮れて間もない時間帯。
馬ってこんなに早かったのか・・・改めて認識を覆された。
俺との速度差が2~3時間あるってところか。
俺は魔人になって速くなったが、休憩なしで走っても、馬には流石に負けるという事か。
「今日はここでテント張って休むわよ」
そういってイドはテント一式を出した。
俺は周囲に魔物除けの液体を撒き、飯の準備をしようとしたが、
「ちょっと!何やってるのよ。こっちが先でしょ。女性にテント張れって言うの!!」
え~~マジかよ、俺のテントじゃないのに・・・仕方ないので手伝ったが、結局、俺1人でテントを組み立てた。
しかも組み立てるくらいなら、このままアイテムボックスに入れればいいのに。そうイドに言ったら
「あんた馬鹿なの。アイテムボッスに入る量が多くても、整理整頓するでしょ。そんなこと言ってると、モテないわよ」
ガーーン。確かに・・でもイドに言われたくなかったな~。
椅子やテーブルは、そこら辺にある丸太で作った。簡易的な作りだ。
杖にライトの魔法を施して、俺とイドの杖2つで周囲も明るい。
話をしながら飯も食べて落ち着いた時、
「ネクト。初めに言っとくけど、魔物はどっちが倒しても、貰う金額は折半よ。いい?」
「うん。それでいいよ」
「そう、素直ね。グールの事だけど、ネクトはグールが何処から来るか分かってる?」
「書物で読んだ程度かな。上位者から生み出されるとか」
「そうね。ハイグールもそう。でもね、グールの上位がハイグールなの。つまりハイグールを生み出したのは、それぐらい強力な魔物ってことなのよ。しかも、何故かハイグールが発見された場所に、生み出した親がいることが多いのよ。放置できないでしょ?」
「ちょ・・・親が居るって?そんなのBランク試験じゃ割が合わないだろ!!聞いてないぞ。そんなの」
マジかよ~グールの親って、ヴァンパイアかネクロマンサーって書物に書いてあったような・・AかS級の魔物じゃないか・・・
アドムドから信用されてないからイドを監視に送ったと思っていたが、この様な事情があったのか。
そう言えば俺の討伐の時でさえ、冒険者ギルドの職員は動いてなかった。
後からは調査はしているだろうが、今回被害状況も無いのに試験官のイドがここにいるという事は、相手は余程強いのだろうか?
「フフフフ、大丈夫よ。その為に私が居るんじゃない。幾ら強力な親でも、所詮こんな所にいるのは下位なのよ。それに親を発見して倒さないと、Bランクの試験は合格にならないわよ」
何言ってるかサッパリだが・・これは後で分かった事だが、特にA、S級の魔物は同じ魔物でも階級があった。
「どんだけ自信過剰なんだよ・・俺はそんな奴と戦いたくないけどな。魔物が居なくてもBランクのカードは貰えると思ったが、甘くなかったか・・」
「当然よ」
「話変わるけどさ、そういえばこの前、無詠唱魔法教えてくれるって言ってなかったか?」
「あら、気が向いたらって言わなかった?ネクト杖持ってるのに、何で杖使わないのよ。それ教えてくれたら、無詠唱魔法のコツ教えてあげる」
「深い意味はないよ。杖は魔力を増幅するのは知ってるけど、俺の場合増幅よりも、誤差だけど魔法の発動が遅くなる方が嫌なんだよ。後、片手が使えなくなるのも嫌かな」
イドは不思議がっていたが、納得した様だった。
それから約束通り、イドに無詠唱魔法のコツを教えてもらった。
夜も更けてきて、いい時間になったことだし
「俺が見張りの番するよ。イドはそろそろ寝てくれ」
「あら~優しいのね。女性の扱い分かってるじゃない。それじゃ遠慮せずに寝るわ」
イドはテントの中に入って行った。
グールの親か。魔人になって強くなったけど、流石にAかSランクの魔物の相手はきついだろ~
朝までに出来るだけ魔法の強化しないとな。
それと、教えてもらった無詠唱魔法も早く練習したい。
そんな事を考えて過ごしていると、4時間程でイドが起きてきた。
「ネクト交代よ。私のテント、使ってもいいわよ」
「いや、俺はいいよ~2日くらい寝なくても大丈夫。魔法の練習もしたいから、時間が欲しい」
「若いね~」
イドはコーヒーを俺の分まで作って渡す。
「ありがと~」
味はしないが、気持ちはありがたい。一気に飲み干し、魔法の練習に励む。
イドはこれ以上寝ない様だ。俺の練習を見ている。
見られるとやり難いな・・確かイドが俺の魔法を知っているのは、火と水か。
実は無詠唱魔法はすぐに出来た。
イドの教え方が良く凄く分かりやすくて、簡単に出来たのだ。
というよりも、俺が勘違いしていたのが大きい。
俺は既に、無詠唱魔法を使っていたのだ。
生活魔法全般の魔法がそうだが、イドの説明を解釈すると、魔法全部に当て嵌まる事だけであった。
ただイド曰く、魔法が強力になれば、無詠唱で出すのは難しいらしい。
俺は、無詠唱でファイアアローを1本出した。
発射させずに待機させてる。
この待機というのが、どの魔法もそうだが難しい。
そのまま幾つまで出せるか検証する。20本まで出した。
20本出しても、魔力は少ししか減っていない。
まだ出せるが、これ以上はイドに見られると不味いのかな?
Bランク以上の実力が、どんなもんなのか分からんのだよな~
当然、上位魔法は使えるだろうけど、細かいところはサッパリだ。
20本のファイアアローは、前方の地面に放った。
「ネクト。あんた無詠唱魔法使えるじゃない!!嘘ついたの!それに何、その魔法!」
「何言ってるんだよ。イドに教えてもらったから出来たんだよ。それに下位魔法のファイアアローじゃないか」
あれ、20本はヤバかったのかな?
たしかに以前だったら7本くらいが限界だったしな~しかも7本一気に出すと、魔力が半分以上無くなった記憶がある。
「さっき教えたばかりで使える訳ないじゃない。それと、私が言ってるのは滞空時間よ。それは何よ!!」
「俺は元々生活魔法では無詠唱で出せたんだけど、イドの説明で魔法全般に当て嵌る事に気付いたんだよ。まぁ~疑うなら仕方ないけど。それよりもさ~イドって水系の魔法が得意なの?それの中位と上位魔法教えてよ」
「私の教え方が良いのは認めるけど、信用できないわ。それで滞空時間は何なのよ!!」
「え~嘘つくメリットがないだろ?まぁいいや。言っても分かんないし。滞空時間というか待機の調整は難しいけどさ~そんなに珍しくもないだろ?」
「何よその言い方。ムカついた。暫く反省して。魔法は教えてあげない」
イドは怒っていたが、直ぐに何か考え事をしている。
これ以上魔法の練習できないじゃないか・・仕方ないので瞑想することにした。
お互いそのまま過ごして、早朝なった。
テントはすでに片付けてあり、準備万端。
イドもローブを着て、杖を片手に持っている。
「さっきは少し言い過ぎたわ」
「気にしてないよ」
「そう。良かったわ。それと気にしてないじゃなくて、ネクトも謝るのよ」
「え・・俺も言い過ぎたよ・・」
「そうね。じゃ行きましょ。私の後に付いて来て」
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