第12話 グールの親
イドは走り出し、それに俺は付いて行く。
イドにはハイグールを発見した大体の場所を知らせてある。
古戦場跡は広くて樹木も生えているが、森よりかは断然見通しが良い。
イドは迷いもせず走っている。
1時間もしない内に、ハイグールを見つけた。
イドの魔法は初めて見るものだった。
無詠唱で、杖を立てたり横に向けたりする。
ハイグールの全身を水の渦が覆ったと思ったら、瞬時に凍った。
俺は凍ったハイグールに、三日月型のウインドカッターを無詠唱で出して切断した。
イドは俺の方を見て何か言いたそうだったが、そのまま奥に走り出し探索を続ける。
暫くして、またハイグールを見つけた。
さっきと同じようにイドが凍らせて、俺が切断する。
ハイグールが居た近くに、不自然に生えている樹木が数本あった。
その樹木の方に進んでいくと、地下に降りる、4~5m幅の広い階段がある。
階段自体は目立つが、近くに来ないと樹木が邪魔して分からない作りになっていた。
「私が先に行くわ。中はたぶん暗いはず。目が慣れるまでが危ないから、しっかり援護してね」
イドは杖にライトの魔法をかけた。
俺もアイテムボックスから杖を出して、ライトの魔法をかけた。
それを確認してイドは地下に降りて行ったので、後に続く。
地下に続く階段は、緩かったり急だったりする。
勿論、人工的に作られた物でかなり深い。
イドも探知魔法を使っているのだろう。
ハイグールが階段に居るけど、気付かれぬうちに凍らせて切断する。反撃の余地は一切与えない。
やがて長い階段を降りきり、広い場所に出た。
天然の洞窟を少し加工した感じで、天井や横幅も広い。前方は先の方まで真っ暗で、何処まで続いているか分からない。
目は慣れてきたが、俺よりもイドの方が見えないはずだ。
俺は小さな光の玉を手の平に出し、前方高く放った。
遠くで弾けて周囲が明るくなったが、一瞬だ
前方がどこまで続いているのか、確認するだけの為に放った。
イドが走り出した。
俺も視認している。前方に人影が2体。
ハイグールは俺達の方に走ってきているが、イドの魔法が的確に凍らせる。俺は切断するだけ。
2体倒して少し進んだ所で
「ネクト、さっきの光の玉。フラッシュを使って」
俺は言われた通りに、光の玉を放った。
ハイグールが多くなっていく。今度は3体だ。
2人で簡単に倒していくが、「多いわね」とイドが呟いている。
洞窟の道はまだ続いている。今の俺の探知魔法の範囲は100mを超えている。
すると、明らかに動きの速い者が近付いてきている。
「イド!!来るぞ」
俺はイドに叫んだ。
イドは杖を構えて的確に凍らせるが、凍るのはほんの一瞬で、直ぐに魔法の効果を掻き消される。
俺の斬撃魔法も、相手の斬撃魔法で相殺される。
俺は風の斬撃だが、相手は闇の斬撃。しかも無詠唱魔法。
姿を確認した。ヴァンパイアだ。
瞳が俺と同じく赤いが白目で、髪の毛の色は黒だ。
「こんなとこまで人間が」
ヴァンパイアが喋った。やはり会話ができるのか。
俺はしつこく斬撃魔法を繰り出している。
ヴァンパイアが槍の形をした魔法を3発放った。
槍の形をした闇魔法は俺の斬撃魔法を粉砕して、そのまま勢いよく俺とイドに向けて飛んでくる。
イドは俺の前に立ち、氷の障壁魔法を3枚出して槍魔法を粉砕する。
「ネクト。私の前に出ないで!」
「ダイヤモンドダストー!!」
イドが杖をかざして叫んだ。
初めて見る魔法。上位魔法か。
俺はイドが凍らせたヴァンパイアに、ドーナツ型の斬撃魔法を3つ放った。
俺の探知魔法が反応している。新手だ。
「イド!もう1体いるぞ。向かってくる!!」
ダイヤモンドダストで凍ったヴァンパイアは、俺の斬撃でバラバラになった。
やって来た新手のもう1体は、やはり同じヴァンパイアだった。
容姿もそっくりだ。
バラバラになったヴァンパイアの近くに行き
「貴さまーーーーー!!!!アーネストを!!!」
ヴァンパイアは激怒してるが、イドは構わず
「ダイヤモンドダストー!!」
俺は透かさずドーナツ型の斬撃を放つが、ヴァンパイアは凍っていないし、俺の斬撃は傷を負わす程度だ。
その傷も全く効いていない様子。瞬く間に回復している。
「中位クラスか。不味いわね。ネクト、ここまでよ。私が魔法を放ったら逃げるわよ。もう少し離れてて、危ないから」
「分かった」
「貴様ら逃れられると思うなよ!絶対に許さん!」
俺はイドに言われた通り少し後方に下がって、何時でも魔法が出せるように見守る。
「ダイヤモンドダストー!!」
「くどいわ。こんな魔法、私に効くと思っているのか!!」
「コキュートス!!」
イドはダイヤモンドダストを唱え、すぐさま杖を横向きにしてコキュートスを唱えた。
ヴァンパイアは凍り付いた。
イドとヴァンパイアの距離は離れていたが、ヴァンパイアが凍った場所はイドの直ぐ近くだ。
あのヴァンパイアは移動速度は尋常じゃない速さで動いている。
ダイヤモンドダストを闇魔法で掻き消した後、瞬時にイドの近くに来たのだ。
だが、イドは分かっていたのかのように魔法を唱えた。
コキュートス。この魔法も初めて見たが、自身の周囲を凍らせる魔法だった。
「早く逃げるわよ」
え・・このまま止め刺せばよくない?
これは後から聞いたのだが、あのまま止めを刺しても良かったが、ヴァンパイアの回復能力は凄まじく、階級が上がるにつれ厄介になる。
万一、殺しきれなかったら、戦闘が長引く事になる。イドの魔力が尽きかけていたので、逃げると選択したらしい。
来た道を暫く走り続けたが、イドが捕まった。
イドのコキュートスを破って来たのか?イドが捕まっているのは闇属性で作られた檻。
ヴァンパイアとの距離はけっこう離れている。
俺は急いでイドの近くに駆け寄るが、檻の解除の仕方が分からない。
ヴァンパイアの周囲に、小さな黒い物体が多数浮いている。
「ネクト、私はいいから。大丈夫よ。逃げてギルドに報告して!!!」
「ストーーーンウォー―ル!!!」
無詠唱魔法で出せるが、より強力なものを出したかったので、俺は叫んだ。
ドーム型の障壁魔法だ。
俺は杖を地面に刺し
「フレイムエリア!」
力を込めて
「フレイムーーエリアー!!」
障壁魔法はヴァンパイアの魔法を防いだ事を確認して解除したが、まだ数発残っていた様で、攻撃が飛んできた。
避けたつもりだったが、肩に1発喰らった。
当たった衝撃で肩が後ろに引っ張られたが、大したことはない。
フレイムエリアは、自身から半径7m以外で20mの周囲を火の海にした。
加えて力を込めたので青い炎だ。
ヴァンパイアとの距離は40m以上離れている。
これでヴァンパイアは飛ぶ以外は俺に近づけない。
イドに見られているが関係ない。
俺とイドの命がかかっている。手加減はできない相手だ。
「ファイアアロー!」
俺は透かさず、青い炎のファイアアローを出しては放つ。
ヴァンパイアは闇の槍魔法で応戦するが、俺の魔法の方が強い。
槍の魔法2発で俺のファイアアロー1発を相殺している。
加えてヴァンパイアは床をゆっくりだが闇エリアにしようとしている。
これも俺の魔法の方が強いみたいで、苦戦している様だ
ヴァンパイアは悔しい表情をしている。
「人間の分際で小癪な。カオスソウル!!」
ヴァンパイアの魔法はどれも初めて見る。
俺の青いファイアボールに似ているのが2つ、俺を目掛けて飛んでくる。
違っているのは、目と口があるように見える事だ。
俺は青いファイアアローを倍の4本放つが、ヴァンパイアの魔法は意思があるかのように避けるか、口の部分で俺の魔法を食っている。
イドも檻の中から水と氷の下位魔法で応戦してくれるが、全く効いていない。
何だあの魔法は・・自分の周囲に待機させているファイアアロー全部と、更に5本出し放つ。
全部で9本、ヴァンパイアの魔法に向かって行く。1つは撃破できたが、もう1つは無理だった。
もう間に合わない。俺の後ろにはイドがいる。
カオスソウルは意思があるかのように動いているので、俺が避けたらイドに当たるかもしれない。
俺は気合を入れ、カオスソウルに向かって走り出した。
「ファイアボール!」
俺の左手には青い炎のファイアボール、カオスソウルと至近距離で激突させた。
轟音と共にカオスソウルを打ち消すのに成功した。
「馬鹿な!ありえん。何だお前は。本当に人間なのか?私のカオスソウルを粉砕したとは言え、至近距離での爆発に何故無事なのだ」
ヴァンパイアの問いには答えない。
先程見たイドの魔法から、ヒントを得た事があった。
グールを倒した魔法だ。
あれは水と氷の下位魔法だが、相手の足元に発動させていたのだ。
俺は相手がいる場所に魔法を発動させるという発想がなかった。
今迄は全て自分の近くで発動させ、放つなりしていた。
俺はヴァンパイアの方に視線を向けて
「ファイアートルネード!!!」
更に力を込めて両手をヴァンパイアに向けて
「ファイアーーーートルネーーード!!!!」
ヴァンパイアの足元に竜巻が発生し、包み込む様に燃え上がる。
炎の竜巻を無理やり球体に変えて、ヴァンパイアを閉じ込めたのだ。
赤から青の炎になり、暫くすると、イドを閉じ込めていた闇属性の檻が消えた。
その後、俺の炎も消え、閉じ込められていたヴァンパイアは丸焦げになっていた。
俺はその姿を見て、ヴァンパイアは書物通り、驚異の回復能力があると確信した。
あの魔法の威力なら、骨すら残さず、跡形もなく消えていなければいけないのだから。
「ネクト。一応、首を跳ねて」
俺はイドに言われる通り、ウインドカッターで首を跳ねた。
「ネクト。何なの、その魔法威力は?後で教えてもらうからね。でも、取り敢えず助かったわ。ありがとう」
イドは少し恥ずかしそうに俺に礼を言った。
2体のヴァンパイアは、イドがアイテムボックスに入れた。
「ネクト。まだ魔法使える?」
「ああ、問題ない」
イドはそう言うと、ヴァンパイアが来た方向を慎重に進んだ。
暫く進むと、奥には道とは違った部屋みたいな空間に出た。
途中グールが2体いたが、呆気なく倒した。
部屋みたいな空間には何もなかったが、イドには分かっていたみたいだ。
「証拠を消されたわ。ネクト、ギルドに戻るわよ」
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