第9話 新しい仮面

        ◇ ◇ ◇



 長い髪の少し露出した服装の女性が、1人で冒険者ギルドに入って行く。

 ある任務を終えて戻ってきたところだ。

 重い扉を開け、通路を奥に行く。

 途中幾つもドアがあるが、突き当りのドアを開け、大人が5~6人座れるソファーに腰掛ける。

 対面には大きいテーブルと、同じソファーがあるが誰も居ない。

 部屋は広く、遠くの方に1人用の机が置いてあり、書類が山積みに積まれている。

 

 短髪で強面の男性が1人用の椅子から立ち上がり、私の対面のソファーに座って


「イド、どうだったかね。彼の実力は」


「マスター、あれはヤバいですって。私、死にかけたんですから。特別手当出して下さいよ」


「冗談言ってないで詳細を聞こうか。俺の指示通り、コロシアムで実力計ったんだろ?」


「マスター冗談じゃないから・・はぁ~、いいわよ。ネクトって奴は、初手で特大のファイアボール放ったんですよ。直径2mもある特大ですよ。躊躇なく放ったんですよ。当たったら死ぬでしょ。大袈裟じゃないですよ。死なないにしても大怪我は間違いないですから。私の障壁魔法で軌道がズレて助かったけど・・びっくりしていたところにネクトのウォーターショットで、ゲーム終了ですよ」


「たった2発で終わったのか?イド、遊びも程々にしてくれんと、2mのファイアボールだって?俺は長い事冒険者を見ているが、そんなの見たことないぞ」 


 カッーーー頭に来た。この爺~~私の話、丸っきり信用してないじゃない。

 

「あのですね~お言葉ですが、マスター。冗談でも何でも無いんですって。奴は杖も無しで馬鹿でかいファイアボール出したんです。いいですか、魔法使いが杖も無しにですよ!!!それと、2属性使えるんですよ!それだけでも脅威って分かりますよね?それに、最後喰らったウォーターショットだって、沢山飛んで来たんです。しかも私のこの服、斬撃、火、水、3つ耐性入った超~~~特注品なんですよ。それなのにめちゃくちゃ痛かったんです。分かりますよね。絶対に特別手当貰いますから。いいですか、絶対にです」


「まあまあ。落ち着いて。分かったから。ボーナスは後でな。その服は耐性入っていても役に立たないと思うが・・それで、ネクト君は降格者だと思うか?」


「む!絶対ですよ・・降格者かどうかですが、ネクトの実力は間違いなくAランク以上です。シェリーに過去のAランク降格者を調べさせたのですが、該当者が見当たりません。仮面で分かりませんが、どう見ても10代後半ですよ。もし20代前半だとしても、そんなAランク本部が黙っていないですよ。ちなみにマスターも知ってる通り、Sランクは極秘扱いで調べる事は出来ませんでした」


「そうか分かった、ご苦労だったな。もういいぞ」

 

「本当ですよ。全く」 


 そう言って、私はギルドマスターの部屋を出た。

 


       ◇ ◇ ◇



 俺は仮面ができる2日間、ベッドの上で瞑想していた。

 未だに魔力が日々増加している。

 俺の場合だが、魔力のコントロールをするのは瞑想が一番安定する。

 

 仮面が出来るのは2日後だったが、道具屋に寄ったのが遅い時間だったので、3日後の早朝に取りに行った。

 道具屋に行く前に宿屋の滞在期間が切れたので、女将に


「今から少し遠出するから、次、戻って来た時に部屋が空いてたらまた頼む」


 と言って宿を後にした。

 

 道具屋の爺さんは待っていたかの様に息子と一緒にカウンターにおり、俺が店の中に入るなり、


「待っていたぞ。出来ておる。ほれ」


 出来上がった仮面を手渡された。見た瞬間にとても気に入った。

 まだ仮面を付けていないのに分かる。質感が素晴らしく良い。

 デザインはちょっと怖そうな感じだが、悪くない。

 真っ黒い仮面に目の部分の縁取りは赤く、額辺りから両目に縦にラインが入っている。

 口の部分は穴が開いてるのではなく、頬っぺたの部分は仮面としてあるが、物が食べやすいように口から顎にかけてない。

 肝心の機能だが、目の部分を近くで見ても、外から内側は全く見えない。

 何か黒い物が目の部分にはめ込まれてる?

 初めて見た物で、素材が分からない。


「店主、仮面をつけてもいいか?」


「もちろんじゃ。あ、仮面を取るときは目を閉じてくれよ」


 俺は目を閉じ、今ある仮面を取って新しい仮面をつけた。

 木の仮面はアイテムボックスに入れた。

 

「これは凄い。ピッタリフィットした着用感。何よりも視界が仮面をしてない時と同じだ。ははは!」


「お、喜んでくれたか。何よりじゃ。その目の部分は、ちと特殊素材だからな。そうじゃな~素材のストックは、後1回分の仮面しか作れんと思ってくれ。大事に使ってくれよ」


「ああ、ありがと~。もちろん大事にするよ」

 

 外側から目の部分を見ても真っ黒なんだが、内側からは良く見えるし、景色の色も仮面をしてない時と変わらない。


「それと言いにくいのだが、例の件じゃ。当然、他言無用は守るから、もう一度靴を見せてくれんかのう。ほれ、あの時息子も聞いてただろ。息子にも見せてやりたいし、1時間、いや30分だけ頼む。な?」


「まぁ~いいけど。30分だけだぞ。時間厳守で頼むよ」


 そう言うと、息子の方は待ってましたとばかりに、店のシャッターを閉め出した。

 靴の鑑定を邪魔されたくないようで、誰も店に入れない気だ。

 薄暗くなった店内だが、爺さんが魔道具で明るくして、早くよこせと言わんばかりの顔をしている。

 俺は靴を両方脱いで、爺さんに渡した。


「悪いのう、まあそこに腰掛けて待っていてくれ。あ、向こうの部屋に茶とかあるから勝手に飲んで構わんぞ」


 そう言ってくれたが、俺は何も飲まなくても大丈夫なんだよな・・・

 仕方ないので、座って待っている。

 そんなんで他言無用にしてくれるなら有難いしな。

 爺さん達はカウンターの方で何やら盛り上がってるみたいだ。

 専門用語でわからんが、興奮した感じで話が聞こえる。


 暫くしてため息が聞こえた。どうやら30分経った様だ。

 爺さんが来て靴を渡してくれた。

 

「何度見ても良いのう~結局5つの耐性以外は分からんかった。耐性なのかも分からんが、少なくともあと2つは付いておる。もう少し調べれば分かる気がするが・・・仕方ないの~。もし売るようなことがあれば、ワシのとこに持ってこい。言い値で買い取ってやる」


「分かったよ。金に困ったら頼むよ。ははは。処で5つの耐性ってどんな耐性だったの?」


「おお、そうじゃったな。火氷雷風土じゃ。魔法特価じゃな」


「なるほど。水が入ってないのか・・そうか、ありがと~」 


 俺は靴を履き「また来るよ」と言い、名残惜しそうな爺さん達を後にして、道具屋を出た。


 よし、これで視界も広くなったし、魔物とも心置きなく戦える。

 激しい戦闘でも仮面は取れないだろう。

 激しく動けばフードは取れるだろうが、髪の毛の色は何とでも誤魔化せる。

 

 それでは、早速グールを倒しに行くか。

 ここバーパンの町から東に、馬で1日行った辺りに古戦場跡がある。

 そこの古戦場跡にグールが出た報告があった、とシェリーは言った。

 グール討伐の期限は1週間。

 急がないとギリギリ間に合うかってとこか。

 俺は走って古戦場跡に行く。

 魔力が上がると、足も速くなるのか?

 明らかに移動速度が上がっている。

 流石に馬よりは遅いが、それでも休憩なしで走ったら1日で着きそうだ。

 

 馬についてだが、馬は売り買いできるが、平民にはとても高級品であり、大切な家族でもある。

 移動だけの為なら、絶対に無理はしない。

 馬の足への負担は、馬主とっても命取りになる。

 適度に休憩や食事を与え、とても大切に扱われているのだ。


 結局、1日掛らずに古戦場跡に着いた。

 古戦場跡ということだけあって、もの凄く広大な土地だが、所々に樹木が生えている。

 大きな石碑が近くにあったから古戦場跡と分かったが、無かったら通り過ぎるところだった。


 グールはCランクで、Cランクの中では最弱だ。

 1体発見されていれば多数居る。

 周囲は既に暗くなっているが、少しだけ様子を見に行く。

 

 少し歩いたところで、魔物がいた。

 Dランクのジャイアントスパイダー。

 大型犬くらいの大きさだが、まだ子供だ。

 気を付けなければいけないのは毒と糸の攻撃だけだが、不味いな。1体だけだが、あの大きさは生まれて1ヶ月以内だ。

 同じ時期の子供もまだ多数近くに居るかもしれないし、クイーンスパイダーに遭うと厄介だ。


「アイスアロー」


 アイスアロー2発で倒した。深追いは不味い。今日はここまでにしとこう。

 ジャイアントスパイダーをアイテムボックスに入れて、来た道を戻った。

 明日早朝にグールを探す。

 

 古戦場跡全体が見渡せる高台で瞑想する。

 周囲は暗くなり、月は出ているが、曇がかかって見え隠れしている。

 俺はライトの魔法を一切使っていない。

 薄々感じていたが、暗くても見えるのだ。

 遠くは無理だが、近くの物なら暗闇でもはっきりと見える。


 ここは魔法を使っても誰の迷惑にもならないので、色々と実験をする。

 俺の得意な魔法は、火と風。

 ただ火は火事の恐れがある所では使えないし、風は魔物の余計な箇所を傷つけてしまうので使いづらい。

 買取の値段が落ちるのだ。


「ファイアボール」

 

 直径20cmのファイアボール出した。

 このサイズを維持して、力を入れ魔力を込めていく。

 すると、赤い炎から青い炎になった。

 もっと魔力を込めてみたが、これ以上何もなかった。

 近くの岩壁に、ファイアボールを投げた。

 当たった個所が高熱で溶け穴が開いた。

 このサイズでこの威力か。凄まじいな~

 今まで沢山書物を読んできたが、俺が見てきた書物に青い炎が載ってないだけなのか・・時間ができたらゆっくりと読書したい。

 

「ウインドカッター」


 次にウインドカッターを出した。

 先程の事もあるので、小さめのサイズにした。

 形は三日月の形をしている。

 ウインドカッターは下位の魔法で、出して飛ばすだけなら簡単だが、その場に維持するにはかなりの熟練度がいる。

 調整がとても難しい。

 

 ファイアボールと同じく、斬撃を出したままサイズを変えずに魔力を込める。

 すると、三日月の斬撃がドーナツ型になった。

 さらに魔力を込めると、勢いよく回りだした。

 そのまま岩壁に投げる。

 うわっ、切れ味がやばいな~当たった個所が穴が開いてる。結構深い。

 普通なら速度にもよるが削れる程度だ・・どっちも使い方考えないと・・・

 

 やっぱり実験は楽しい。あっという間に時間が過ぎてしまう。

 残念だがもうじき日が昇るので、グールを探しに行く。

 ジャイアントスパイダーが居た所とは違う離れた場所で探す。

 居ないな~~グールが本当に居るなら簡単に見つけられるはずだが・・さらに奥に進む。

 探し回って2時間くらい経っただろうか。

 ようやく1体発見した。

 

 よく見ると、俺の知っているグールと少し違う。

 俺の知っているグールは色が茶系だが、このグールは濃い緑色をしている。

 こちらには気づいていないので

 

「ウインドカッター」 

 

 夜に実験した、ドーナツ型のウインドカッター大き目サイズで、2発放った。

 首と胴を真っ二つ。勢いは止まらず、後ろにある樹木まで切り裂いた。

 本当なら風魔法は使わないが、グールはお金にならないからね。状態は気にしない。

 

 証拠を持っていかないと・・俺は周囲を警戒して、グールの頭と体全部、アイテムボックスに入れた。

 普通なら一部分だけを持っていけばいいが、俺が知っているグールと違う。

 強さは分からなかったが、一部だけ持って行って、グールじゃない失敗、って言われたくない。念の為だ。


 よし、取り敢えず戻るか。

 戻りながらもう一度グールを探したが、結局居なかった。

 今からバーパンの町に行けば、翌日の昼過ぎには着くだろう。

 俺は急いで冒険者ギルドに戻る。

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