第8話 試験後の一息

 シェリーが紙とペンを持ってきて、記入してくれと言って来た。

 項目は沢山あるが、俺は自分の名だけ記入する。

 その他は空白で出す。

 これは真面目に記入する人もいるが、必須ではない。

 名も別に偽名でも構わない。

 

 冒険者カードはDランクから貰える。

 Dランクカードは全体の色が緑で、表と裏に黒でDと大きく書いてある。

 裏面には文字や数字が彫ってある。それだけだ。

 この文字や数字を魔道具で読み取って、依頼情報を確認する。

 カード自体が特殊金属で出来ていて、魔法の強化もしてある。

 破損や文字が消えるといった心配はない。

 紛失の際、再発行はしてもらえるが大金貨5枚かかる。

 

 俺が何故再登録したかというと、冒険者は信用が重要なのだ。

 俺が魔物になったという噂があっても、大して気にしていない。

 目撃者が少ないし、冒険者は危険な職業で、死ぬのは日常。

 常識的に考えて、魔物になったと信じる方がおかしいのだから。

 

 しかし、俺はエプレの町での依頼が完了していない。

 このまま前の冒険者カードを見せて調べられたら、依頼失敗、もしくはもっと悪い依頼放棄扱いになっているだろう。

 そうなると、その町ではもう冒険者としては肩身が狭くなる。

 他の町に行っても魔道具で分かることで、稼業として生きていくことは出来ない。

 

 しかも、Bランクからは降格がある。

 連続で依頼失敗すると降格。

 俺は2つ依頼を受けていたので、降格は間違いない。

 降格は最大の恥だと思っている人が大半だ。

 降格するぐらいなら死を選ぶ者もいる。

 そして降格すれば当然、周囲からの扱いは酷くなる。


 それと名前をネクトで同じにしたが、出された用紙には偽名を使う者も多い。

 冒険者ギルドは、名前ではなく独自に特徴などで記載し記帳しているので、本名でも偽名でも大して気にしていない。

 

 俺が何故そこまで知っているかというと、元々Bランクだった事もあるが、昔、冒険者ギルド受付の女性と付き合っていたからだ。

 

 再登録する人は、俺みたいに依頼を失敗した人と、再発行の大金貨5枚を払いたくない人の2択になる。


 だが冒険者ギルドでは、再登録の手続きはどちらの理由も嫌がられる。

 降格者や依頼失敗者はギルドの信用が落ちるし、再発行も悪用の対象になるから。

 冒険者カードは色々な所で信用されて使われている。

 それは特殊な金属と魔法の保護で偽造出来ないと言われているからだ。

 偽造は出来ないが、冒険者ギルド以外でも身分証として使い回しが出来る。

 だから冒険者から奪ったり、もしくは冒険者自らが売ったりして、冒険者カードを悪用する者もいるのだ。


 その為、ギルドマスターや副マスターは再登録者に目を光らせるのは勿論、町に異変があれば素早い対応が求められる。


 シェリーからDランクの冒険者カードを渡されて説明を受ける。

 俺は分かっているが、頷いて説明を最後まで聞く。

 その後にCランクの昇格の依頼を受ける。

 Cランクの試験は、ギルド指定の魔物討伐。

 討伐対象はグール1体。

 期限は1週間。助っ人を雇うのは有り。

 討伐証拠として、グールと分かる体の一部を持ってくる。

 俺はグールが居る場所を聞いて、冒険者ギルドを後にした。


 

 外に出ると夕方になっていた。

 冒険者ギルド受付のシェリーに聞いた、道具屋に来た。

 まだ開いていたので、中に入った。

 ここもギルド同様に店内は広く、品数も豊富にある。

 特に驚いたのが、仮面の種類が多かったこと。

 見回してみると、客は俺1人みたいだ。

 カウンターにいる中年男性に

 

「仮面のオーダーメイドは頼めるか?」


「ああ、少し待ってくれ」

 

 男性は店の奥に入って、すぐ戻ってきた。


「今呼んだから、すぐ来るからよ~適当にその辺でも見といてくれ」


 俺は言われるままに、壁に並べてかけてある仮面を眺めていた。

 見ていると色々欲しくなるな~仮面の価格次第で余裕ができたら買い溜めしないとな~

 5分くらい経ってから現れたのは、坊主でヒゲを生やした爺さんだった。


「親父、そこの人が仮面作って欲しいってよ」


 あ、親子だったのか。道理で似てるわ。

 中年男性は短髪で髪の毛はあるが、爺さんと同じ様なヒゲを生やしている。

 俺は1つの仮面を手に取り


「この仮面の素材、もしくは他にお勧めの素材でも良いが、これで目の部分が外側から全く分からなく、内側からは見やすい仮面って作れるか?出来れば魔法強化もして欲しいが、それは値段と相談になると思う・・」


「そんなの朝飯前じゃ。口の部分はどうするんじゃ。デザインも言ってくれんと」

 

 俺は少し考えて


「口は物が食べれる機能があれば良いのでお任せで。形もお任せで、全体の色は黒で、目の部分は赤で。デザインはそっちで頼む」


 爺さんは俺の要望を簡単に出来る様な素振をしていたが、思ったのと違った場合を想定して、目の色が目立たないように仮面の色の指定をした。


「よし分かった大金貨3枚で作ったる。強化の魔法だが、3枚だと物理全般耐性だけだな」

 

 俺は大金貨3枚で納得し頼んだ。

 耐性だが、全般というのは効き目は薄いが、物理全部の耐性を付与する。

 もちろん物理でも専用に打撃特化にしたいとか色々できるが、幾つもの耐性を付けるのは、職人技がいるし価格も高くなる。


「期間は2日じゃ、型を取るからその仮面は取ってくれ」


 いや~それは困ったな。少し考えて


「俺の顔だが呪いの類で、今している仮面はこれでも呪い耐性の魔法付与されている。どうしてもと言うなら俺は目を閉じるので、俺の目を見なければ大丈夫だが、どうする?」


「そ、そうか、悪いがこっちに来て座ってくれ。すぐ終わるから、お前さん絶対に途中で目開けるなよ」


 そう言って爺さんは仮面の形をした粘土みたいなのを持ってきて


「よし、仮面取っていいぞ。いいか、ワシが良いと言うまで目開けるなよ」


 俺は爺さんの指定する椅子に腰かけて、目を閉じ仮面を取った。

 爺さんが手に持ってる粘土の仮面を押し当てた様だ。体感で1分くらいで終わった。

 爺さんに「よし、いいぞ」と言われたので、仮面を付けて大金貨3枚支払った。

 それから俺は思い出したかの様に


「店主、耐性の鑑定は出来るか?」


「出来る物と出来ん物がある。物によっては少し時間掛かる物もある。特に特殊なのはお前さんの仮面とかは分からんだろうな。それでも良ければ見てやるが」


 呪いの話はハッタリだからな~俺の仮面は何も付いていない。

 俺は靴を片方脱ぎ


「これを見てもらってもいいか?」


 爺さんは俺の靴を手に取り、カウンターの方に行って座り込んだ。

 呪文の様な言葉をブツブツ唱えている。

 時間が掛かりそうなので、店内を見て回る。

 10分もしない内に血相を変えて爺さんが来た。


「お前さん。この靴どうしたのじゃ?」


 爺さんの顔を見れば分かる。やっぱり魔法の類が付与してるのか


「知人からのプレゼント。で、何か魔法の付与があったのか?」


 俺は爺さんから靴を受け取り履いた。


「プレゼントじゃと・・・お前さんは王族か何かか?それはワシが今まで見た中で最高傑作の品だぞ。複数の付与があるんだ。5つの耐性は確認したが、それでも全く分からないのがある。ありえんのじゃ」


 5つだと・・・マジかよ~噂でも広まったらどうするんよ~~またピンチじゃないかよ・・・


「あ・・いや~王族ではないが近いかもね。暫くこの町に居ないといけないからさ。俺の呪いの事もあるので、他言無用で頼むよ」


 俺はアイテムボックスから大金貨1枚取って、爺さんに渡した。


「これは鑑定代ね。それでは2日後楽しみにしているよ」


「え・・・任せろ」


 鑑定に大金貨1枚は流石に高すぎる。

 爺さんは任せろと言ったので、大金貨1枚で理解したと俺は解釈した。

 そのままさり気ない態度で道具屋を出て、宿屋に戻った。

 宿屋の1階は賑わっていた。夜はちょっとした酒場になってるみたいだ。

 女将が近くに来て


「娘の事ありがとね。でも余計な知恵付けるといけないから、チップは多くやらないでおくれ。それと貴重品あれば預かるから、何時でも言っておくれ」


「ああ、分かった。ありがと~俺は大抵の物はアイテムボックスに入れているから大丈夫だ」

 

 娘だったのか。小遣い程度だと思ったが気をつけよう。

 よく見ると、その他の従業員らしき人も家族っぽい。

 俺は2階の部屋に戻り、ベッドに横になる。

 

 しかし、この靴に複数の付与がね~となると、服もそうなのか・・恐らく猫のサフィルが何かしたんだろう。

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