第7話 冒険者ギルド

 ギルドに着いて中に入ったが、これまた広い。

 昼過ぎなのに、ギルドの中は数人冒険者と思われる人がいる。

 俺に視線が集まっている。

 よそ者だからか、格好も・・・まぁそうだよね。分かるよ。

 受付まで行って


「ギルド登録を頼む」


 対応したのは若い女性。冒険者になるには金貨1枚必要で、払えば誰でもなれる。

 平民にとって、冒険者は男女共に憧れの職業の1つだ。

 金額は分かっていたので、前もって用意してあった。

 俺はローブのポケットから金貨を取り出し、1枚支払う。


「確かに受け取りました。こちらにお名前のサインを下さい」


 俺は名前のサインをし


「ついでに、Cランクまでの登録も頼む」


「え・・今何て言ったのかしら。僕かな?変な仮面付けてるけどお幾つ?」


 周りもざわざわしてきた。

 まぁそうなるよな・・仮面も木だ。

 ダサいし、露出している首元や声などである程度年齢も推測できるだろうしね。

 

「またおかしな奴来たなー」「嘘だろCランクだってよ。ガハハハハ」


 野次まで飛んできたので


「取り敢えずEランクの試験って、魔物どれでも3体だよね?ここに出していいかな?」


「え・ええ。よく知ってるのね。大丈夫よ。3体はどこにあるの?」


 受付の女性は俺の手を見て、何も持っていないので不思議がって聞いてきた。

 俺は少し空いたスペースに、アイテムボックスの中から、レッドボア3体とオーク2体を出した。

 

「全部買い取りで頼む」


「あ、アイテムボックス・・・」


 驚いた受付の女性は、慌てて奥の扉の方に走っていった。

 そんな俺達のやり取りを見て、周りは余計騒ぎ出した。


「お、おい今の見たか?」「どうなってるんだ。この辺にオークが出たのか?」


 と好き勝手言っている。


 直ぐに屈強な男2人と、年配だが貫禄のある男が現れた。

 年配の男は顔に大きな傷がある。先程の受付の女性も一緒にいる。

 屈強な男2人は、早速、魔物を運んでいる。

 恐らく解体室に運んでるんだろう。

 年配の男が近くに来て


「ほう!君があの数の魔物をアイテムボックスを使って持って来た、でよろしいかな?」

 

「ああ」


「失礼だが再登録者かな?それと仮面は外してもらえるのかな?」


 なんだよ、このおっさんは。見た目は50代半ばといったところか。

 それよりも、いきなり鋭すぎるツッコミだろ~

 俺、早速ピンチじゃないか・・・ 


「どっちも事情があって却下だ。そんな規則あったのか?どうしてもって言うならどっちも応えられるが、後悔すると思うよギルマスさん」


 応える気はない。おっさんの出方を見たいのでハッタリを言った。 


「なるほど、なるほど。いやいや規則なんてないよ。気分を害したのなら謝る。すまなかったね」


 先程の受付の女性がトレイを持って来た。

 トレイの上にはお金があるが、年配の男は女性に耳打ちをし、女性は受付に戻っていった。


「俺がギルドマスターってよく分かったな。俺の名はアドムドだ。君の名を教えてもらえるか?年齢も気になるが女性なら失礼だ。やめておこう」


「俺はネクト。男だ」


 周囲は野次馬が増え、ギルドマスターも出てきたので、さっきよりも騒がしい。

 受付の女性が来てトレイをアドムドに渡し、何やら耳打ちをしてまた受付に戻っていった。

 俺はこれを見て理解した。

 トレイの上のお金が増えている。さっきの耳打ちはこれの事か。


「お詫びと言ってはなんだが、気持ちだ。受け取ってくれ」


 渡されたのは、トレイの上に大金貨3枚と金貨4枚、黙って受け取る。

 冒険者ギルドには買取価格の相場があるが、支部によって全然違う。

 地域によって出現する魔物が違うので、出現の多い地域で倒して、少ない地域で売ったほうが儲かる。

 どの冒険者ギルドも共通して言えるのは、ギルドの買取は正直ぼったくり価格である。

 冒険者ギルドも専門業者に買取してもらっているので、当然といえば当然だが。 


 通常なら、魔物、武器、アクセサリー等は、その町の各専門商店で冒険者ギルドから値段を出された以上で取引できるが、それにはコネか信用が必要となる。なので、冒険者の半数はギルドで換金する。

 当然、俺はこの町に来たばかりなのでギルドで取引するしかないが、今回の取引は冒険者ギルドにしてはかなり良心的って感じだ。


「早速だが。Dランクの試験受けるかね?アイテムボックスを使えるとなると、魔職になるんだろうね」


「攻撃魔法が得意だが、今すぐ出来るならどの職でもいいよ」


「ほう、魔術師か。いやいや、大した自信だけど、大丈夫だ。シェリー、イドを呼んで来なさい!!ネクト君。最後になるが、この町にはしばらく滞在するのかな?」


「アドムドさん次第だよ。Bランクカードを短期間で貰えるならこの町にいるけど、無理ならすぐ移動するよ」


「そうか、そうか。分かった。Dランクの試験官がすぐ来るから、ここで待ってなさい」


 そう言うとアドムドは奥の扉に入っていった。

 アドムドといったか。あの人はヤバいな~何かと鋭すぎる。

 流石ギルドマスターだけあって貫禄もある。

 短いやり取りだけの判断だが、恐らく大人しくしていれば、俺が嫌がる事はしてこないだろう。

 俺の事が邪魔だったら、Bランクは無理とか言ってくるだろうし・・

 周囲はまだ騒がしい。というか人数がまた少し増えている。

 

 先程、アドムドは魔術師と言った。

 俺は自分の事を魔導士と言っているが、場所や人によっては魔術師とか魔法使いとか言う。

 まあ結局のところ、どれも同じ意味なのだ。



 少し待っていると、アドムドが出入りした所から女性が来た。

 そこはギルド職員しか入れない扉。後ろには受付のシェリーがいる。


「シェリー、本当に、この子なの?流石にその話、大袈裟に言ってない?」

 

「本当ですよ~~イドさん。嘘と思うなら、試せばいいじゃないですか~」


 俺が近くに居るのに堂々と言ってくれる。

 イドと呼ばれる女性は、魔導士の試験官だろう。

 顔立ちは綺麗だが、鋭い目つきだ。

 20代中半から20代後半。

 試験官にしては若いな~元冒険者といったところか。

 体型は細いが、魔導士の試験官にしては筋肉質だ。

 体のラインが出るような服を着ているので分かった。ちょとエロい・・

 受付のシェリーは、金髪ショートヘアーの可愛らしい女の子って感じだ。


「私はイド。あんたが試験受けるの?試験は外よ。金払って付いて来て!」


「ネクトだ。分かった」


「野次馬は付いて来ないで。分かっているわよね!」

 

 イドが周囲を睨んで付いてくるなと言っている。

 受付のシェリーに金貨5枚と言われた。

 これも分かっていたので用意してある。

 ローブのポケットから取り出し金貨5枚渡した。


「確かに受け取りました。あの~~さっきはごめんなさい・・」


「気にしてないから大丈夫だよ」


 そう言うとシェリーはにっこり笑って喜んでいた。

 俺はイドに付いて行く。

 冒険者ギルドから出て裏手に回り、広い空き地を通り越してまだ進む。

 結構距離があるが・・暫くしてコロシアムみたいな所に来た。

 中に入って行く。ん?何かおかしい。

 Dランクの試験は裏手の敷地内で十分のはずだ。

 

 しかも、こんな国境近くの田舎町にコロシアムがあるのか。

 迷路のように奥に進んでいくと、開けた場所。闘技場の舞台に出た。

 闘技場は円形で広く、地面は硬い土。

 観客は居ない。イドと俺だけだ。


「面白い事聞いてね~少し試験を変更させてもらったよ」


「そんな事、許されないだろう?」


「ここのギルドは少しの事なら許されるわ。ほんの少し変更しただけよ。簡単よ。私に攻撃を1発でも当てれば合格よ。簡単でしょ。私は勿論攻撃しないわよ」


 本来、Dランクの試験は職業ごとに異なる。

 攻撃を得意とする魔職なら、攻撃魔法を3種類発動させるだけだ。

 しかし困ったな~俺は問題起こしたくないんだが、試験官だから強いだろうが、本当に攻撃してこないだろうな。

 イドが杖持ってるのが気になるけど・・・


「いや~かなり変更してると思うけど・・分かったよ。絶対に攻撃は無しで頼むよ?」


「楽しみだね~攻撃しないから早く来て」


「ファイーアーーーボーール!!」


 俺は手の平に渾身の力でファイアボールを練り上げる。

 ファイアボールは誰でも知っている一番下位の魔法。

 相手は試験官だ。当たってもきっと大丈夫だろう。

 以前の俺なら出来ない程、巨大な炎の玉を出した。

 直径2mくらい。通常の大きさは直径30cmあれば大きい方。

 俺はイド目掛けて勢いよく投げた。

 当然、避けられるだろうから次の魔法を出す。


「ちょ、ちょっと何それーー!まっ」

 

 イドは何か言いかけていたが、聞こえなかった。

 イドは杖を掲げて障壁を出した。

 ウォーターウォール、横3m縦5m水の障壁魔法を縦に2枚。

 無詠唱魔法で出したのだ。

 ファイアボールはウォーターウォールに当たって軌道が少しズレたが、突き破って壁に激突した。

 壁は魔道具で作られている様だ。

 魔法が吸収した感じに見えた。

 ファイアボールとウォーターウォールが衝突した煙が出て、視界を奪っている。

 その為、イドの姿は見えにくい。


「ウォーターショット」


 水玉の散弾だ。

 通常は4~5個の小さな玉だが、それでは当たらないだろうと、俺は20個ほど出していた。

 探知魔法で位置は分かっていたし、見事命中した。


「よっしゃ!当たったぞ」


「ちょっと!!待ってって言ったじゃない!!何で攻撃するのよ」

 

「ええ・・・・」


「試験は合格にしてあげるわ。でも当たったのは認めないから。待ってって言ったんだからね!!」


 俺が喜んでいると、イドは鋭い目つきで言って来る。

 早く来いって言っといて何だよ・・

 とにかく、俺は合格出来ればそれで良いので、返事をしてイドと一緒に冒険者ギルドに戻る。


「あんた、私を殺す気だったの?何あの馬鹿でかいファイアボールは・・それにしても、ネクトは2属性使えるのね」


「まさか、ご冗談を。イドさんの方こそ、無詠唱で魔法唱えるなんて凄いですよ。今度良かったら教えて下さい」


「フフフフ。分かってるじゃない。気が向いたら教えてあげる」


 イドは先ほどまで怒っていたが、急に機嫌が良くなった。

 隠してるつもりはないが、俺は6属性の魔法、火風水氷土雷が使える。

 使えない魔法も沢山あるが、子供の頃から器用で、ある程度の事は努力すれば出来た。

 しかし、ただ使えるというだけで、上位魔法は使えない。

 6属性の中には、下位魔法しか使えない物もある。

 なので、俺は器用貧乏と自覚している。 

 今は誤解されたり問題視されると不味いので、この事は俺からは言わない。

 

 イドと俺は冒険者ギルドに入り、受付に来た。


「合格よ。シェリー、カード作ってあげて。それじゃ、ネクトまたね」

 

 イドはシェリーと俺にそう言って、奥のギルド職員用の扉に入っていった。 

 周囲からは歓声が上がっている。

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