第4話 リスタニア王国

 俺はエプレの森に入って、歩いていた。

 日が落ちるまで、まだ3時間はあるだろう。

 追っ手は心配はしていない。

 モラド以外の冒険者が追って来ているとしても、先にモラドを発見する。

 Bランクパーティーがやられたとなると、慎重になるものだ。

 ましてや、森の中の追跡となるとリスクが大きい。

 ただ俺にとっても問題は魔物なので、警戒しながら北を目指す。

  

 俺は歩きながら、幻覚、いや、あの猫の事を思い出していた。


 猫の名は、サフィル。

 サフィルが言うには、俺はあの時点で助からない程の傷を負っていたので魔人にした。

 魔人になるのは誰でもなれる訳じゃない。

 俺は3日と半日かけて魔人になった。

 魔人には核がある。

 核が体から取り出されたり、核の損傷が激しいと魔人は死ぬ。

 魔人になったばかりの時は核が不安定で、安定するまで3~6ヶ月掛かる。

 魔人は睡眠も食料も必要としない。

 これ以上詳しく知りたかったら、魔界に来い。

 北のジャマス樹海を渡り、アド山脈を超えた先にある、との事だった。

 簡単に纏めるとこんなところか。


 

 魔界なんて聞いた事がない。

 この世界はかなり広い。

 人が到達できてない未開の地が無数に存在している。

 国と呼ばれるている箇所は、俺が知っているだけでも30くらいある。

 大小はあるが1つ1つの国は広大で、1つの国の中にある町や村は数えきれないほどだ。

 ジャマス樹海は聞いたことがあるが、そこまでたどり着くのに何年掛かるか検討もできない。


 今の目的はエプレの森を抜ける事だが、当面の目的を決めないとな~

 リスタニア王国の中にエプレの町はある。

 詳しい国や地域はここでは割愛するが、北隣のギスミート王国を目指す。

 身を守るには取り敢えず、王国を出ないといけない。

 ここリスタニア王国では、噂や手配書等が出回るかもしれない。

 

 エプレの町からギスミート王国の国境まで、30日以上掛かる。

 ただ、これは馬を使って街道のルートを辿った場合だ。

 今の俺は馬はない。

 未だに信じられないが、睡眠、食事を必要としないなら、エプレの森を通れば短縮も出来るはず。


 

 日が暮れてあたりが暗くなっても立ち止まる事なく、ライトの魔法を使い森の奥へと進む。

 今は気分も冷静で落ち着いている。

 何度かランクの低い魔物を確認したが、全て避けて移動している。

 

 慎重に歩きながら、アイテムボックスから携帯用燻製肉を取り出し口にした。

 食べ慣れた少し癖のある濃い味の肉だったが、味が全くしない。

 水も飲んでみた。同じく味もしなければ、冷たい温いといった感覚もない。

 

 今まで見たことはないが、昔から人間が魔物になったという噂や書籍は幾つもある。

 改めてサフィルに聞いた通り、魔人になったと自覚した。

 しかし、猫が喋るとか誰も信じられないだろうな~

 

 少し開けた場所に来た。実は気になる事があり、落ち着ける場所を探していた。

 早速、アイテムボックスから魔物除けの液体を出し、周囲に撒いた。

 俺は服を脱いで、毒矢が刺さった所を確認した。

 肩は見れないので触っただけだが、傷の痕跡が無い。

 つるつるお肌になっている。

 足は太ももに刺さったのだが、肩同様に傷跡が無い。

 

 それに服なんだが、矢が刺さった場所は当然、穴が開いていたり破れたりしているはずが、何もなっていない。

 靴もそうだ。靴底が結構擦り減っていたが、新品に近い状態になっている。

 冒険者用の衣類は元々丈夫だし、高価な物になると魔法付与で強化されている物もある。

 俺のはただ丈夫、というだけの衣類だ。


 それよりも、もっと重要な事が起きた。

 薄々気が付いていたのだが、息子がなくなっている。

 女性になったかと淡い期待をしたのだが、それも違う。無性になっているのだ。

 とても残念な気分になってしまった。

 

 それとお尻の穴もない。さっき食べたのはどうなるのだろう?

 色々と気になる。慣れれば大したことがない気がするが、寿命も気になるところだ。

 違和感はないし、今は考えても仕方ないと自分に言い聞かせた。

 

 ここで休憩した理由は、怪我の具合確認と、仮面を作りたかったから。

 そうして、暫く休憩してから移動開始した。



 普通ならエプレの森を抜けるには4日は掛るが、3日で抜けた。

 途中、魔物と1回だけ戦闘になった。

 Dランクのオーク2体。

 戦闘を避けてもよかったのだが、見つかった時にしつこく追ってくる苦い経験をつい最近しているので、不意を衝いてあっさり倒し、アイテムボックスに入れた。


 森を抜けてからは、北西の方角にひたすら走った。

 途中から街道に入ったので、アイテムボックスから仮面を取り出して、道なりに北方向に進む。

 

 エプレの森で作った仮面だが、材料は硬い木を選んで、短剣で目や口の部分をくり抜いた。

 目はできるだけ細く最小限みえる程度、外側から目の動きや色が分かりにくくなる様に作った。

 正直、見た目はダサいし機能性も悪い。

 視界が狭くて慣れるまで大変だけど仕方ない。


 エプレの森を抜けて更に7日掛ったが、リスタニア王国の首都リスタが見えてきた。

 リスタニア王国では一番大きい、活気の溢れている都市だ。

 首都リスタの南門に来て、最後尾に並ぶ。

 首都なだけあって、常に行列ができている。

 俺の順番が来た。門番は俺を見るなり 


「冒険者の方ですね。冒険者カードの提示お願いします」


 俺の格好は、まさに冒険者だろう。

 服装は魔導士特有のフードが付いたローブ。

 フードは深く被っている。

 顔は仮面で覆われている。

 冒険者が仮面をしている事自体は、そんなに珍しくない。

 理由は様々で、正体を隠したい者や、怪我を負ったが金がなくて治療できない者。

 呪いの類で治せない者等々。

 俺は返事をして、言われた通り冒険者カードを見せた。

 

「Bランクの方でしたか。ようこそリスタへ」


 冒険者のカードがあれば、多少怪しい格好をしていようが問題なく通れる。

 それほど冒険者、というより冒険者ギルドが絶大な力を持っている。

 首都リスタの中に入った。

 何度か来たことはあるが、街並みはさすが首都と思わせるくらい素晴らしい。

 石造りの建物が並んでいて道幅も広い。

 大型の馬車が4台は並んで通れる広さがある。

 その光景がはるか遠くの方まで続いている。


 

 今は昼時だが、まずは宿屋に行く。

 1泊の宿泊料金は、金貨1枚で朝食付きとの事だ。

 睡眠は必要ないが、誰にも見られない個室は欲しい。

 1泊金貨1枚は標準の部屋にしては高い。

 探せば安いところもあるが、都会であればこんなものと割り切るしかない。

 俺は金貨1枚を払って、朝食はいらないと告げる。

 部屋を一通り確認して、宿屋から出る。


 この世界のお金の価値は

 

 白銀貨>大金貨>金貨>銀貨>銅貨

 銅貨10枚で銀貨1枚 銀貨10枚で金貨1枚 金貨10枚で大金貨1枚 大金貨10枚で白銀貨1枚


 ちなみに俺の今の全財産は、金貨38枚、銀貨2枚、銅貨7枚。

 アイテムボックスに入っている。ここが1番安全だからね。

 日頃の俺の格好は、仮面とフードを被ってなかったら冒険者とは思われないくらい軽装なのだ。

 全てはアイテムボックスのおかげさまさま。


 今、向かっているのは大図書館。

 これも首都なだけあって、贅沢な外観と、書物も膨大な数が揃えられている。

 受付の女性から説明される。

 入場料は、銀貨4枚と銅貨5枚。

 持ち出しは厳禁。

 不本意でも持ち出しが発覚した場合、重い処罰がある。

 書物は大事に扱うこと。破損した場合も処罰がある。

 営業時間は10時~17時まで、と色々言われた。

 国によって違うが、書物は贅沢品で貴重価値が高い。

 リスタニア王国でもそうだ。

 警備が厳重で、地下3層の構造になっている。

 1階は大した書物は置いてないが、地下にに行くほど価値が高い書物が置いてある。

 

 俺は料金を払い、地下3階に行く。調べるのは魔族や魔人についてだ。

 書物は幾らかあったが、どれも信憑性が低い。

 サフィルは俺の事を魔人という言い方していたが、書物では殆どが悪魔やヴァンパイアの類になっている。

 その悪魔やヴァンパイアのことも時間ぎりぎりまで調べたが、参考になる書物はなかった。

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