第3話 追跡者

 エプレの森が近くに見えてきた。

 後1kmくらいだろうか。

 後ろから馬が2頭来る。

 まだ遠目だが勢いがある。

 後少しだったのに・・・ここまで来て追っ手か・・クソ~


 馬と俺の距離は近づく一方だ。

 馬は俺の両サイドに別れ、追い越して行った。

 後方には別の馬が1頭近づいてきている。

 エプレの森に行くのがバレている。前方が塞がれた。

 

 2人の男が馬から降りて、こっちに向かってくる。

 最悪の顔ぶれだ。Bランクのモラドのパーティー。


 モラド Bランク  剣士 

 ララド Cランク  剣士 

  ネレ Dランク 魔導士 


 モラドは両手剣を得意とする。

 ララドはモラドの弟で、片手剣と大盾を使って前衛で守る。

 ネレは主に荷物運び雑用。後方からの魔法。



 俺は立ち止まり、何時でも魔法を出せる態勢だ。

 もう1頭、後方から来た馬が俺を通り過ぎた。

 クソ~ダメだ。やらなければ俺がやられる。

 追っ手はモラド達だけとは限らない。

 覚悟を決める。

 

「ファイアボール」


 俺はモラド目掛けて、炎の玉を2発放った。

 ララドが素早く大盾で防いで、そのまま俺に突進してくる。

 まだ距離は離れているが、接近戦になれば俺の負けが確定する。

 それは非常に不味い。


「ミスト」

 

 水魔法で周囲を霧に包み込む。

 俺は少し動いてはこの魔法を唱える。

 ついでに探知魔法も発動している。

 ネレのファイアボールが俺の方に飛んでくるが、俺は素早くかわす。

 ネレには俺の位置がバレている。

 少し厄介だが、ネレはDランクの冒険者で詠唱は遅い。

 

 

 この世界の魔法の詠唱は概ね、3つ。

 例えば炎の玉。

 通常の詠唱は、呪文の様に長く唱える。

 次にファイアボールと唱える短縮魔法。

 次に何も唱えずに出せる無詠唱魔法。

 詠唱は、同じ効果の魔法でも人によって呼び名が違ったりする。

 それは何故かというと、魔力媒体に具現化出来れば良いだけだからだ。


 それにネレの場所は分かっている。

 探知魔法では誰かまでは分からないが、一番安全な後方その位置に


「アイスアロー」


「ぐふっ!!」


 氷の矢を2発放った。命中したみたいだ。

 一応、腰から下の方を狙ったつもりだ。命はあるだろう。


「ネレ、霧を何とかしろ!!霧さえ無くなればこっちのものだ。その声といい服装、お前ネクトだろ。いいざまだ!魔物に転職でもしたのか。ガハハハハッ!!」


 クッ・・バレていたのか。

 このまま俺の持つ強力な魔法を放てば殺せるが・・


「モラド忠告だ。これ以上追ってくるな」


「あん!?何、寝言いってるんだーー!!!!」


 モラドは激怒してる様子だ。

 突然、少し離れた位置で炎の火柱が上がった。

 ネレのファイアウォールか。あそこの周辺だけ霧が晴れている。

 俺は慌てて


「アイスアロー!」


 モラドに向けて放った。更に魔力を込めて


「ミスト!、アイスアロー!」


 再度、モラドに向けて放った。

 何発かララドがガードしている様だ。

 大盾で魔法を弾く音が聞こえる。

 俺は少しずつ静かに移動しながら、この動作を繰り返す。

 ついでにネレが出しているファイアウォールにも、数発アイスアローを放つ。

 ファイアウォールは凍りついて、周囲の霧も濃くなった。

 俺はゆっくりモラド達がいる方向に歩き出す。

 俺はモラドの後ろに立ち、そのままモラドの肩に手を置き


「アイス」


 腕を凍らせた。ララドはモラドを守るように前に居るが、アイスアローを何発も受け、足が凍って動けない。


「うわぁぁぁあああああーー」 


「兄貴?大丈夫かーー!俺も足をやられた。どうなってるんだ!!!」

 

 モラドとララドが騒いでいる。

 モラドは動けるが武器は両手剣だ。

 さっき腕を凍らせた時にびっくりして剣を落としている。


「ララド黙ってろ、次はお前だー!!モラドさっきの威勢はどうした。まだ動けるし戦えるだろ?」

 

 俺が問いかけるが、既に戦意喪失している。

 随分簡単に戦意喪失してるな~同じBランクの冒険者とは思えない程あっけない。

 

「1つ聞くが、俺を討伐しに来たのはお前等だけか?」

 

「あ・・あ後から。何人来・か分かり・せんが・・・命だけは・・」


「そうか。じゃ、そいつらに助けてもらえ。アイスアロー」

 

 俺はモラドの足に氷の矢を突き刺した。

 モラドは1度悲鳴を上げたが、それ以外は言葉すら失っている。

 ネレからの反撃もないので、ネレは放置している。

 俺はララドの前に立つ。

 ララドはかなわないと思ったのか、武器を地面に捨てて命乞いをしている。


「お願いです・・どうか・・・・・」


「命を奪うつもりはない。ララド殺すなら簡単に出来たんだ。次、追ってきても助けてやるが、命だけだ。この意味が分かるか?苦しめる方法は幾らでもあるんだぞ。ファイアアロー!暫くすれば氷が溶けて動けるだろう」


 ララドはコクコクと頷いた。俺はララドの足も炎の矢で貫いた。

 

 モラド達に敵わないと思ったけど、意外と余裕だった。

 そう思うのも当然だ。

 相手はBランクが混ざったチームなのだ。

 1対3で勝てるとは思わないだろう。

 しかし、これほど一度に沢山魔法を使ったのは初めてだ。

 本当ならとっくに魔力が底をついているが、まるで魔力が湧き出ているかの様に使える。

 

 俺は再び霧に隠れて、エプレの森の方角に走り出す。


 


        ◇ ◇ ◇   



 数時間前、2頭の馬がエプレの町の北門から出た所だった。

 モラドとララドだ。    


「ララド。ネレに言ったか?」


「ああ兄貴、バッチリだぜ~。今頃、後から来る奴らの足止めをしてる最中だ。ネレのヤツ戦闘はいまいちだが、馬の扱いは上手いから直ぐ追いつくだろう」


「そうか。何十年ぶりかの緊急依頼だ。俺達が絶対に頂くぞ」


 こうして、エプレの森に馬を走らせる。

 暫くして魔物を発見した。


「ララドあれだ。エプレの森に向かっている。逃げられると厄介になる。先回りしてここで食い止めるぞ」


「任せとけ。兄貴!」


 俺達は馬から降り確認した。

 それは見たこともない魔物で、とてつもなく嫌な感じがした。


  

 声や服装が同じだったので、ネクトと冗談で言ってみたら本人だった。

 あいつは昔っから何でもできて、周囲を馬鹿にして見下している。

 俺はそんなところが気に入らなかった。

 その嫌いなネクトが、俺に攻撃を仕掛けているのだ。

 

 周囲に霧が出て、角度を変えて何発も氷の矢が飛んでくる。

 こんな子供だましで・・霧が晴れ次第、突っ込んでぶった切ってやる!!

 そう思っていたが霧がさらに濃くなり、何時どこから飛んで来るか分からない。

 

 ララドが大盾で守ってくれるが、足元を狙われた様で、凍りついて動けないでいる。

 普通ならこんなに何十発も魔法を連打できるはずないのに。

 これが、人間が魔物になった力なのか。

 

 いつの間にかバックを取られ、瞬時に腕を凍らされた。

 それに、その時近くで見たネクトの顔は、まるで悪魔に見つめられ、魂を吸い取られる様な感じがしたのだ。

 その瞬間で分かった。格が違い過ぎる。

 殺されるのだと、そう頭に過ったら、何も出来なくなって剣を手放した。


 その後のララドとのやり取りも聞いていた。

 ネクトは幼い頃から知っているが、あれは俺の知っているネクトじゃなかった。

 心の底から、もう関わりたくないと思った。



        ◇ ◇ ◇

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