第2話 誕生
目が覚めた。
どれくらいの時間経ったのだろう。意識が朦朧とする。
助かったのか、心の中で安堵した。
俺は大きな木にもたれ座っていて、正面には真っ黒で長毛な猫が座っている。
「何故こんなとこに猫が?」
思わず呟いてしまった。
「気が付いたか。いいかよく聞くのじゃぞ。ワシの名はサフィルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー分かったか忘れるでないぞ」
そう言って、猫は消えていった。
かなりはっきりした夢だった。
周囲を見渡すと、幻覚を引き起こすキノコが生えている。
さっきのは幻覚だったと理解する。
俺はそう思い立ち上がるが、頭はまだクラクラする。
今更だが周囲が明るい事に気がついた。
確か気を失う前は暗くなりかけていたが、随分時間経ったな・・
俺は太陽の位置を確認して、南方向にゆっくりと歩き出した。
不思議なことに、Dランク以上の魔物と全く出会わなかった。
しかも、火事も起きていない様だ。
少し時間が掛ったが、森から出ることに無事成功した。
辺りは薄暗くなってしまった。
周囲は暗く日はすでに落ちている。
今いる場所にテントを張り休みたい気持ちもあるのだが、このまま町を目指す。
俺はアイテムボックスから杖を取り出し、その杖に魔法を使った。
「ライト」
杖の先端が明るくなり、周囲を照らす。
杖の先端にはライトの魔法を増加させる宝石が嵌め込まれている。
魔導士全般に言えるが、杖の殆どがこういった作りになっている。
帰路を急ぐ理由は2つある。
怪我の具合だ。矢が刺さったのは足と肩。
肩は刺さってすぐ抜いたので心配はしていないが、問題は足だ。
何故か今は痛みが全くない。走っても何ともない。
足は矢が刺さって少し時間が経ってから抜いている。無事である訳がない。
しかも刺さったのは毒矢だ。
動けるうちに何としても町に着きたい。
町に着きさえすれば何とでもなる。
この世界では、町の教会にヒーラーという特殊な職業の人が必ず1人は居る。
ヒーラーには代金を支払う事で、魔法による怪我の治療を依頼することができる。
ただし、治療費は結構高い。
上位ヒーラーともなれば失った箇所も直す事も出来るそうだが、実際に見たことはない。
金はかかるが、ヒーラーに一刻も早く足を診てもらいたいのが1つ。
もう1つは早く酒が飲みたいだけだ。
今から町に戻れば朝には着く。酒屋と教会、どちらも開いているだろう。
町に戻っている最中だが、不思議なことはまだ続く。
少なくとも丸1日飯を食っていないが、お腹が空いていない。
そして、何故か普段より良く周囲が見える。
月明かりが関係しているのだろうか。
どちらにしても、あんな事が起こったのだ。
気がまだ張っているのだろうと、余り気にしなかった。
それにしても、ゴブリンが5体にオーク1体。結構大きな集落でも作ったのか。
冒険者ギルドにも報告する必要があるな~災難だったけど、命が助かっただけでも良かった。
そんなことを考えながら、ようやくエプレ町が見えてきた。
周囲は明るくなりかけたばかりだ。門番も外に出ている。
夜は外壁の上にいるから、町に入るのに時間が掛かってしまう。
早朝との事もあるが、北門はエプレの森に出入りする人か地元の人くらいしか利用しないので、並ぶ必要がない。
門番とお互い姿が確認できる距離まで来た。
といっても、300m以上はあるだろうか。
門番は遠くを確認できる魔道具を持っているので、俺の事はもっと遠くから認識してるはずだ。
門番が慌てた様子で町の中に入って行った。門を閉め警告音が聞こえてきた。
「お、おい!俺がまだここにいる!待ってくれ!!」
魔物が出たことを知らせる音だ。もう町中に鳴り響いている。
俺は慌てて町に向けて走り出した。
走ってる最中後ろを振り向いたが、魔物らしき者は居ない。
違う門の方から魔物が来ているのだろうか?。
とにかく町に早く入らなければ・・・ん!?防壁の上に人影が4人、こっちに向けて弓を構えた。
明らかに俺の方に弓を向けている。ヤバい。
「ストーンウォール!!」
横2m縦4m程の障壁魔法を出したつもりが、横3m縦6m程の障壁になった。
何故か思ったより魔法の効果が増幅している。
矢が障壁に当たることを確認すると、俺はエプレの森の方角、町とは反対方向に全速力で走り出した。
攻撃された。1つだけ心当たりがある。
あ、あれは幻覚じゃなっかたのか!!!
「クソったれーーーーストーンウォール!!」
「トルネード!!!!」
立ち止まり、第2波の矢を障壁魔法で防いだ。
加えて弓矢で狙えなくする為に、その場に竜巻の魔法で砂埃を舞い上げた。
またエプレの森の方角に走り出す。
急がないと討伐隊として冒険者の追跡がくる。
町にはSとAランクは居ないが、俺と同じBランクの冒険者が2人居る。
1人は俺によく絡んでくるモラド剣士で、3人パーティーで行動する。
もう1人は、エプレ町にいる領主の護衛をしているアサシン。
他にも来るだろうが、特にこの2人に見つかれば俺の命はないだろう。
エプレの森に入れば何とかなる。そこまでが勝負だ。
狙われる理由は後からだ。今は逃げる事だけ考えろと自分に言い聞かせる。
弓矢が届かない距離までとっくに離れている。
走りながら腰に差してある短剣を手に取り、顔に近づけた。
やはり、やはりなのか。
どうしても気になり、短剣を利用して顔を見てしまった。
容姿が変わっている。
パッと見ただけだが目は赤く、髪の色が金髪からグレーっぽい色に変わっている。
短剣をしまい走り続けるが、視点も少し低くなっている事に気づく。
かれこれ2時間以上走っている。普通なら息苦しくて倒れているくらいだ。
ましてや俺は魔導士。魔力は他の人より多くても体力は低い。
疲れは感じるが全く苦しくないし、足も本当に怪我しているのだろうかと思うぐらい良く動く。
未だに信じられないが、これも俺が魔人になったからか・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます