第3話 新しい生活と友人(昼休み)

自己紹介の後は各教科のオリエンテーションだった。授業の大雑把な進め方や内容、定期試験の方法や成績の付け方など、今聞いてもどうせ後で言われるようなことを聞いていた。

(早く放課後にならねぇかなぁ…)

正直な話、オリエンテーションというのは実に暇なのである。授業のようにノートを書くなどの作業もなければ、集中して話を聞く、という気分にもなれない。かと言って、寝たり、うわの空で聞いていると先生に目をつけられる可能性がある。つまり、真面目に聞いていますよアピールをしつつ、いかに自分に有意義な時間を過ごせるかがポイントだ。こういう時はバスケの試合のシュミレーションをするのだが、それがしにくい状況なのだ。

(言っちゃ悪いが、あの成績で全国のビジョンは見えないのが現状だ。強豪校だとシュミレーションしやすいのだが…)

まずは、この高校のバスケ部の練習内容を見てみないとわからないのは確かだ。練習内容が悪いのか、メンツが悪いのか、そこをはっきりさせなければならない。チーム全体の悪い部分を洗い出さないと、チームは向上しない。洗い出せていないから、一昨年から成績が変わってないのだ。そこをしっかり洗い出し、改善していかないと…、などと考えていると瀬戸内に声をかけられた。

「佐根村君、お昼一緒に食べない?」

まさかのお昼のお誘いだった。誘われたこともあり、時計を確認すると昼休みの時間だった。お誘いを断る理由などない。ありがたくお受けしよう。

「おう、いいぜ」

なるべくナチュラルに、スマートにお誘いを受けた。

「ありがとう!一人で食べるのは寂しかったんだよね!」

爽やかな笑顔…というよりはパァァっと輝いたように見えた。

(案外子供っぽいのか…?)

意外な一面を見たような気がした。と言っても、第一印象だけでしか見ていなかったので、意外もクソもない。昼食用に持ってきていた弁当を広げ、「いただきます」と小さな声で言う。箸に手をつけ、食べ進めていると瀬戸内から話しかけられた。

「さっきの時間、難しい顔して何考えていたんだい?」

どうやら、考え事をしていたのを見られていたらしい。夢中になってて気が付かなかった。

「バスケ部のこと考えてたんだよ」

実際、バスケ部のことしか考えていなかったと言っても過言ではない。

「考えるようなことでもあったのかい?」

首を傾げながら聞いてくる瀬戸内。そう思うのも無理はない。まだ、所属すらしてない組織のことを考えるやつがどこにいるのだろうか。

「一昨年から成績に変化がないのがおかしいなって思ってよ。チーム全体に悪い点があって、それが改善できてないから、結果的に成績が変わってないんじゃねぇかなって思ってな」

一概にこうは言えないが、可能性としては十二分にあり得ると言えるだろう。もちろん、個人の技量なんかもあるかもしれないが。

「へぇ。さすが、中学最強と呼ばれる慶真中出身だね。目の付け所が違う」

あはは、と冗談交じりに返してくる瀬戸内。しかし、すぐに真面目な表情になり、続けてきた。

「佐根村君の言うことは一理あると思うよ。個人の技量が全く関係していないって訳じゃないだろうけど、改善点が改善されないままになっていると成長はできないからね」

瀬戸内も同意見のようだ。つまり、目に見えて成長出来ていない、ということになる。成績が初戦敗退のまま動かないのは、試合や練習内容に改善点があるにも関わらず、それを見落としているからだ。それを1つずつ拾い、1つずつ直していけば、今より強いチームになれるはずだ。

「あぁ、試合や練習の改善点が見えていないんだろう。故に、成績が動かない」

弁当を食べ進めながら、部活動について話していると、立花と渡辺が話に入ってきた。

「佐根村君と瀬戸内君、だよね?」

会ったばかりでどっちがどっちか区別がつかないが、声のトーン的に渡辺だろう。

「あぁ、俺が佐根村だ。こっちが瀬戸内」

「よろしくね」

相も変わらず爽やかな笑顔で対応する瀬戸内。イケメンはちげぇや。

「よろしく!私は渡辺優香!この子は立花由美!」

渡辺に促され、前に出る立花。オドオドしながら自己紹介を始めた。

「た、立花…由美…です。よろしく…」

どうやら人見知りのようだ。すぐに渡辺の後ろに隠れてしまった。それとも、俺が怖かったのだろうか…。不安だ。

「よろしくね。渡辺さんと立花さんは元々仲が良かったのかい?」

気さくに話しかける瀬戸内。こういう奴がいると結構楽で助かる。

「うん!中学は違うんだけど、通ってた塾が一緒なの!それで、今日偶然会って、同じクラスだったってわけ!」

同じ塾の友達が同じ高校だったとは、偶然なのか疑ってしまうな…。などと考えていると、次は渡辺から質問が飛んできた。

「佐根村君と瀬戸内君は今日が初対面?」

今度は俺が答えようと思い、口を動かした。

「あぁ、今日の朝初めて話したよ。同じバスケ部で、話が盛り上がってな。今に至るって感じだ」

「へぇ〜、バスケ部なんだ!佐根村君って慶真中なんでしょ?あそこバスケで強くなかったっけ?」

なんでそんなこと知っているのだろうか。という疑問は置いといて、聞かれたことに答えよう。

「全国常連校ではあったな。一昨年と去年のインターハイで優勝したってのが唯一の自慢だ」

「え!そうなの!?すごいじゃん!!」

終始明るく返してくれる渡辺。話しやすいが、嘘のような笑顔にも見えてしまうな。

「瀬戸内も強豪校出身だぜ。一昨年のインターハイで慶真が1位で東邦が3位。大会でも名前を聞かないって方が少ないくらい有名なところだぜ」

俺だけおだてられるのも嫌な気分なので、瀬戸内もすごいんだぞ!って旨を伝えた。

「そうなんだ!!今年の1年は期待されるんじゃない?」

ニヤニヤしながら茶化してくる渡辺。あーだこーだと話していると、気がつけば昼休みが終わっていた。

「お、昼休み終わったな」

「みたいだね」

弁当を片付けて、カバンの中に入れる。すると、渡辺が笑顔で俺らに手を振ってきた。

「じゃ、また放課後ねー!」

元気よく手を振る渡辺と軽く会釈をする立花。相反する2人だが、仲はいいように見える。


てか、放課後も絡まれるのかよ…

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