ひょっこりエピソード 瀬戸内 翔
今日は高校の入学式。自宅からほど近い私立霞ヶ丘高校の1年生として、僕、瀬戸内翔は登校の準備を進めていた。新しい生活に胸を躍らせながらカバンに物を入れていく。筆記用具、メモ帳、ハンカチ、ティッシュはもちろんのこと、お弁当や水筒も入れて準備はOK。カバンを持ち部屋から出てリビングへと向かう。これから朝食を食べるのだ。
「母さん、おはよう」
先にリビングにいた母親へ挨拶をする。どうやら、朝食を作って待っていてくれたようだ。
「おはよう、翔。朝ごはん、できてるよ」
食卓テーブルを見ると、トーストに目玉焼きが乗った物が置いてあり、隣にはコップの8割りくらいに注がれた牛乳が置いてあった。僕は母の前の席に座り、朝食を頂く。
「いただきます」
感謝の意を込めて、トーストを貪る。朝のニュースで天気や時事ネタを確認する。どうやら、今日は一日中晴れているようだ。
(入学式の日が晴れだと、気分がいいね)
手早く朝食を食べ、玄関へと向かう。
「行ってきまーす!」
母親はまだ朝食を食べているので、少し大きな声で言った。すると、間髪入れずに母親が「行ってらっしゃーい」と言ってくれた。玄関の扉を開け、自転車に跨る。
(今日は入学式か。楽しみだな)
時間には余裕があるので、ゆったりと自転車を漕ぐ。さっきも言ったが、自宅からほど近い高校なので、15分程度で着くことが出来た。指定された駐輪場に自転車を停め、教室へと向かう。時刻は午前8時30分。時間も時間なので、教室には数人の生徒しかいなかった。
(余裕を持って着くことが出来たが、することがないな…)
早く着くことは良いことだと思っているが、早過ぎるとすることがなく暇を持て余していた。
(近場の高校なはずなのに、知り合いが一人もいないなんて…。はぁ、なんでいないのかなぁ)
別に友達がいなかった訳では無い。部活の仲間や仲の良い友達もいるにはいるが、みんな別の高校に行ってしまったが為に、高校では『ぼっち』である。悲しいなぁ…。
ゆったり時間が過ぎるのを待っていると、50分になりかけていた。
(たしか、50分までに来ないと遅刻なんだよな。覚えておかないと)
が、隣の席を見るとまだ来てないことに気がついた。
(あれ、隣の人、遅刻なのかな?)
と思った矢先に、教室のドアが勢いよく開けられた。汗だくになり、少し息が上がっているようにも見える。おそらく、隣の席の人だろう。黒板で自分の席を確認し、こちらに向かってくる。隣の席に座り、横目で彼を見てみる。170後半くらいの身長に筋肉質の体、黒の短髪でクールな顔をしている。俗に言う、『イケメン』と言うやつである。
(やっぱり、この高校は美男美女が多いんだなぁ…)
美男美女が多いことで有名なので、あまり不思議ではないが、こうもイケメンがいると少し居ずらい気持ちになってしまう。だが、3年間ぼっちというのも嫌なので、勇気を振り絞り、彼に話しかけてみる。
「君、なんて名前なの?」
そう聞くと彼は、少し戸惑った様子で答えてくれた。
「俺は佐根村大紀、よろしく」
運動部だったのだろうか、上がっていた息はすっかり元に戻っていた。
「佐根村君か、よろしくね。僕は瀬戸内翔って言うんだ」
これが、僕と彼が初めて話した時だった。
そして、僕の高校生活がここから始まった。
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