第2話 新しい生活と友人(入学式と自己紹介)

「え〜、皆さん、まずは入学おめでとうございます。え〜、私が本校校長の…」

体育館に移動して真っ先に校長先生の長い長い昔話かよってくらい長い話を聞かされること約10分が経過。校長先生の話って心身ともに疲弊するんだよなぁ…などと、考えてると部活動紹介が始まっていた。バスケ部に入る身として、部活動紹介を聞かないわけにはいかない。正直、他の部活の話は興味ないが一応真面目に聞いてるフリをする。

「続いては各部活動の紹介です。各部活動の部長は前に来てください」

この高校は野球部、サッカー部、バスケ部、テニス部、吹奏楽部、写真部の6種類の部活しかない。だが、どの部活も全国大会や関東大会に駒を進めるほどの強豪としても有名である。写真部に関しては特に大会などはないらしいが、運動部でこの高校の名前を聞かない時は殆どない。スポーツをするためにこの高校に来る人もいる。文武両道で容姿端麗な生徒が集まる高校は、全国規模で見てもここだけだろう。

「では最初に、野球部の紹介をします。野球部部長、お願いします」

野球部、サッカー部、バスケ部、テニス部、吹奏楽部、写真部の順に紹介が始まる。

「1年生の皆さん、おはようございます。野球部部長の山崎です。野球部は夏の甲子園で4連覇中なので、今年の夏で優勝し、5連覇を目指しています。野球経験者や未経験者でも歓迎しますので、興味のある方は野球部部室まで来てください」

「ありがとうございます。続いてサッカー部、お願いします」

「みなさん、おはようございます。サッカー部部長の宮西です。サッカー部は昨年の大会で惜しくも全国2位という結果だったので、今年は全国制覇を目指して練習しています。サッカー経験者大歓迎です。よろしくお願いします」

「ありがとうございます。続いてバスケットボール部、お願いします」

俺が待っていたバスケ部の部活動紹介だ。野球部やサッカー部もすごい成績を納めているが、バスケ部も負けず劣らずの成績を納めているはずだ。これは期待できるぞ…!

「おはようございます。バスケットボール部部長の幸野秀也です。バスケ部は一昨年のインターハイからウインターカップ、国体でも初戦敗退しています。ですが、今年の目標はインターハイ、国体、ウインターカップの3大大会で優勝することです!バスケ経験者大募集していますので、よろしくお願いします」

…は?今、なんて言った?初戦敗退…?嘘だろ…

「な、なぁ、瀬戸内。今、バスケ部の成績、なんて言ってた…?」

あまりにもショックで隣にいた瀬戸内に聞いてしまった。

「ぼ、僕もびっくりしてるよ…。強豪校として有名だと聞いていたのに、初戦敗退しているなんて…。しかも、一昨年からずっとそうだったなんて驚きだよ…」

瀬戸内もまた、俺と同じ反応だった。それもそうだ、インターハイでも国体でもウインターカップでも負け知らずの高校として有名だったはずなのに、この成績はあまりにも聞いた話とかけ離れている。

「お、俺たち、大丈夫かな…?」

「な、なんとか、勝てるように、が、頑張ろう」

お互いに苦笑いしながら、頭の中真っ白になっていた。俺たちが現実に戻ってきた頃には部活動紹介が終わっており、既に隣のクラスが教室への移動を開始していた。

「続いて3組、移動を開始してください」

俺たちのクラスが移動するように指示され、ゾロゾロと立ち上がり、教室に向かって歩いていく。

これからやることはシンプルで残酷なものだ。その名も、自己紹介!なぜか緊張してしまうのが自己紹介というもの。俺は自己紹介が世界で一番苦手だ…。

「入学式お疲れ様でした。では、これから自己紹介を始めたいと思います」

亜麻音先生は教壇に立つと、残酷なゲームを始めてしまった…。順番はおそらく出席番号。となると、俺はかなり早い方だ。この時間に終わる可能性は限りなく低い…。つまり、俺が今日自己紹介する確率は高いと言える…!最悪だ…。

「では、出席番号順に始めます。では、1番の方前に来てください」

始まったものは仕方ない。覚悟を決めて、臨むしかない。このデスゲームに…!

「では、出身中学校と氏名、入ろうとしてる部活を教えてください」

自己紹介、というが案外手短に終わるものらしい。言うことは至ってシンプルだ。

「明豊中学出身の上野です。野球部に入ろうと思っています。よろしくお願いします」

パチパチパチ、と拍手が起こり、自席へと戻る上野。そして、詰まることなく自己紹介が進み、俺の番になってしまった。

「次は、佐根村君ですね。お願いします」

「はい」

返事をして前へ出る。教壇に立ち、深呼吸をして、喋る準備はOK。

「慶真中学出身、佐根村大紀です。バスケ部に入るつもりです。1年間よろしくお願いします」

俺が慶真中出身でバスケ部に入るというのが不可解だったのだろうか。クラスがざわつき始めた。

「え、慶真中出身なのにこの高校のバスケ部入るの?」

「宝の持ち腐れになるだけだろ」

などといった声が聞こえる中、立っているのも変な気分なので自席に戻ることにした。席に着いたら、瀬戸内が爽やかな笑顔で話しかけてきた。

「やっぱり、あの成績を聞いた上に慶真中出身も相まって、バスケ部に入るのは異様に見えるみたいだね」

「たしかにな。だが、全国大会に出ているだけでも十分だと思うがな。出れない高校なんてたくさんあるわけだし」

出れない高校がザラにあるわけなのに、この高校では、これを言うと少し目立つようだな。

「次は、瀬戸内。お願いします」

「はい!」

話していると、瀬戸内が呼ばれていた。瀬戸内は元気のいい声で返事をし、教壇に向かって歩き始めた。

「東邦中出身の瀬戸内翔です。佐根村君と同じでバスケ部に入ろうと思っています!1年間、よろしくお願いします!」

相も変わらず、爽やかな笑顔で自己紹介を終えた瀬戸内。クラスの拍手が今までで一番大きかったようにも感じる。あれはモテるタイプだな。ちくしょうめ…。などと考えていると、次の人が呼ばれていた。

「続いては、立花さん。お願いします」

気弱そうな女子生徒が教壇に立っていた。そして、か細い声で自己紹介を始めた。

「琴海中出身の立花由美です。吹奏楽部に入ろうと思っています…。よろしくお願いします…」

後ろの席では、聞こえるか聞こえないか微妙なラインの声量で自己紹介をしていた立花。どこにでもいそうな女子生徒だが、俺の中では何かが引っかかったような感覚になっていた。

(立花由美…。どっかで聞いたことある名前だな…。それに、どこかで見た記憶もある…)

うーん、と唸っていると最後の人の自己紹介が始まっていた。

「景明中学出身の渡辺優香です!吹奏楽部を希望しています!よろしくお願いします!」

立花とは正反対の性格の渡辺。後ろでもはっきり聞こえるくらいのボリュームで話していた。そんなに大きな声が出る女子は珍しいな。いや、うるせぇな、やかましい。

「なんか、個性的なやつが多いな」

「そうだね」

独り言のつもりが、瀬戸内には聞こえていたらしい。地獄耳かこいつは。兎にも角にも、俺はこいつらと1年間過ごさなければならないわけだ。悪目立ちはしたくないな。入学式当日に早々の遅刻ギリギリに、個性の強い奴らと同じクラス。


やっぱ不安しかねぇ…

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