君を好きな理由

あまみや

第1話 新しい生活と友人(朝)

「やばい、やばいやばいやばい!!このままだと遅刻する!俺だけ入学式に出席できないことになるぅぅ!!」

時刻は朝の8時42分。入学式の開始時間は9時だから、50分までに教室に入らないと間に合わない。

まさか入学式当日に寝坊することになるとは思わなかったが、寝坊したのには理由がある。昨日の夜、入学式が楽しみすぎて寝れずにいた結果、寝たのは午前2時過ぎだった。そりゃあ、寝坊するわなぁ…と、思った人もいるだろう。うるさい、それは俺が一番わかってる。とにかく、あと8分以内に学校の4階にある1年生の教室まで行かないと俺の高校生活の出鼻が折れることになる。それだけは避けたい…!俺の高校生活のために…!

信号を渡り、駐輪場をすり抜け、階段をダッシュした結果、49分に教室に滑り込むことが出来た。黒板にある座席表で自分の席を確認し、席に向かう。自宅から離れている学校であるが故に、友人はもちろん、見知った顔ひとつもない。まさに、ぼっちである。しかも、後ろの角の席。相乗効果でぼっちの中のぼっちである。

(しかし、本当に美男美女が多いんだなこの学校は)

これから俺が通うこの高校は、美男美女が全校生徒の約9割を占めていることで有名だ。この高校出身の俳優や女優もたくさんいる。入学基準に顔も含まれているとか、身内に俳優や女優がいれば特待で入学できるとか、根拠の無い噂話がたくさんある。特に目立つ噂は

、この高校に入るために娘を整形させた、という噂がある。学校側はどの噂も否定しているが、それは当たり前のことで真実は教職員の上層部しか知らないらしい。

(まぁ、これだけ美男美女がいるとそういう噂が出てくるのは仕方ない気もするがな)

事実、俺のクラスにも美男美女が大半を占めている。この高校は容姿の校則がない。髪がどんな色でも怒られないし、私服で来ても何も言われない。ピアスやネックレスをしていてもOK。それが目当てで来る人も少なからずいるだろう。周りを見ても、入学式当日なのにも関わらず金髪や白髪、ピアスやネックレスをしている人もいるし、私服で来ている人もいる。とにかく、目立つ容姿の生徒が多い印象だ。

(俺、こいつらと仲良く出来んのかな、不安でしかない…)

などと、この先の不安を思い描いていたところ、隣の席の男子生徒に話しかけられた。

「君、なんて名前なの?」

初対面の典型的な会話の切り出しをされた。にしても、唐突すぎないか?てか、聞く前に名乗れよ…。俺は少し戸惑いながら質問に答えた。

「俺は佐根村大紀、よろしく」

「佐根村君か、よろしくね。僕は瀬戸内翔って言うんだ」

瀬戸内翔、か。なんとも平凡な名前だな、なんて口が裂けても言えない。だが、悪い奴ではなさそうだな。友達第一号になってもらいたいものだ。

「瀬戸内はどこの中学出身なんだ?」

当たり障りない話題を投げかける。

「僕は東邦中学出身だよ。佐根村君は?」

「俺は慶真中学ってとこ。ここから結構離れてる中学だけどな」

「慶真中!?ここから電車でも1時間はかかるじゃないか!」

「あぁ、かなり遠いな。今日も遅刻ギリギリに着いたから」

「これから毎日大変そうだね。お互い頑張ろう!」

爽やかな笑顔を浮かべながら激励してくれる瀬戸内。しかし、俺が気になっているのはそこでは無い。

「慶真中を知っているのは珍しいな?もしかして、中学時代バスケ部だったりしたか?」

慶真中はここからかなり離れている。東邦中はこの周辺の中学だから慶真中を知っているのは珍しいと言えるだろう。慶真中はバスケで全国常連として有名だ。もしかしたら瀬戸内はバスケ部なのかもしれない。そう思ったのだ。

「ん?よくわかったね。もしかして、佐根村君もバスケ部なのかい?」

やっぱりか…。この返答を予想していた。故に、答えるべき回答はただ1つ。

「俺もバスケ部だぜ!慶真中を知ってるって聞いた時、もしや?って思ったんだよ!」

まさか、高校で初めて話した人が同じ部活だったとは!これはぼっち卒業間違いなしだな!…フラグじゃないぞ?

「佐根村君は慶真中のバスケ部なのかい!?ということは中学時代スタメンだったりするのかい?」

「1年生の後半からベンチに入って、2年生でスタメンだったな」

勉強はそんなに出来ないが、何故かバスケだけは人並み以上に出来た。それが故に、異例の1年生のベンチ入りを果たした。

「2年生でスタメン!?佐根村君はバスケが上手いんだね!僕なんて慶真中に手も足も出ないようなチームだったよ」

あはは、と乾いた笑いを言いながら言う瀬戸内。だが、東邦中はここら一帯では不動の王者として君臨していたはず。全国大会でその名前を聞くことも少なくはない。それに、俺が2年生の時はインターハイで全国3位だった。下手なわけが無い。つまり、これは嘘!ダウトだダウト!

「東邦中は一昨年のインターハイで全国3位だったはずだろ?慶真に負けず劣らずの実力なんじゃないのか?」

率直に気になったことを聞く。それに瀬戸内は爽やかに答えてくれた。

「強かったのは僕たちの1個上の代だよ。僕らの代は全国初戦敗退さ」

「そうなのか。なんか、無神経に聞いてすまん」

「大丈夫だよ、気にしてないから!」

笑ってるが、笑顔が怖い…。これは怒ってるな…。マズいぞ…。

「俺が言うのもなんだが、全国大会出場ってだけでも十分凄いんじゃないか?予選でもかなり有名な強豪校が沢山あると思うが」

実際、東邦中は地区予選を超えたら全国常連校と当たる。慶真中と五分五分くらいの成績を全国大会で納めてるはずだ。

「確かに当たるけど、決勝まで進めれば確実に全国大会は出れるからね」

真面目な顔で答える瀬戸内。それに対してすかさず反論する。

「毎回予選決勝は東邦中と銘醸中じゃないか。ほぼ確実に全国大会に行けるってことは東邦中も全国常連校だと思うぜ?」

バスケで有名な関東中学と言えば、慶真中、東邦中、銘醸中の3校だ。十分に強豪校と言えるのに言わない。瀬戸内は謙虚だな…?

「そうかい?ありがとう。話は逸れるけど、佐根村君はバスケ部に入部するのかい?」

「あぁ、バスケ部に入るつもりだ。せっかく中学で入ったからな」

「そうなんだね!そしたら僕たちはチームメイトってことになるね!」

ほう、瀬戸内もバスケ部に入るのか。これは楽しみになってきた!

「チームメイトとして、よろしくな、瀬戸内」

「まだ入るって決まったわけじゃないよ…」

苦笑いしながら瀬戸内は言った。

「…うるせぇよ」

瀬戸内に聞こえないように小さな声でそういった時、教室の前方のドアがガラガラと音を立てながら開いた。

「みなさん、おはようございます」

入ってきたのは若い女性教員だった。おそらく、このクラスの担任だろう。

(随分と若い人だな。20代前半といったところか)

「みなさんのクラスの担当になりました。亜麻音美紅です。1年間よろしくお願いします」

手短に自己紹介をし、軽く頭を下げる亜麻音先生。そして、入学式についての説明をし始めた。

「入学式は9時から始まります。新入生は9時10分から会場に入ります。それでは、体育館前に待機するので、廊下に並んでください」

これから待ちに待った入学式。ほかのクラスにはどんな人がいるのかを見るいい機会だ。

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