第57話 自分の帰るべき場所。その4
「直ちにサイラスを此処へ。真意を確かめる」
「御意」
兵達は王様の命令で伯父上を迎えに行った。
しかし、住まいには居らず、方々を捜索したが数日経っても見付からなかった。
ただ国を離れているのか、それともこうなることを知っていて雲隠れしてしまったのか。
伯父上の話を聞かない限り、この件は解決しない。
他に容疑者がいるのか、いないのか。
とにかく、王様の命を奪われる前に事が発覚して良かったよな……。
その後、父上が大臣を解任した日から城内の雰囲気がすっかり変わった。
勿論、良い雰囲気にだ。
新たな大臣に任命されたのが、なんと姉上のホワイト。
史上初の女性の大臣の誕生で、国中が喜び、祝賀ムードで賑わっていた。
しかし、俺は姉上を祝いつつも、胸中はそういう気分ではなかった。
未だに美羽が目覚めないのだ。
医師に見せても原因は分からず、俺達は途方にくれていた。
「こんな時間に来てすまない。美羽はまだ目覚めないのか?」
「あぁ。俺の部屋でずっと眠ったままだ。このままこの状態だったらと思うと……どうしていいか分からないよ」
俺が落ち着く時間を見計らって、ラツィオ、カイル、ダラスが美羽を心配して訪ねてきた。
いつもはパーティーで浮かれている奴等だが、俺と心境は同じらしく、参加しただけですぐに会場から出てきたらしい。
「美羽、起きてよ。起きないと、遊べないだろ。せっかく僕達の世界に来たのに、色々案内したかったのに……悲しいよ……」
「クロノ、カイル、不吉な事を言うな。美羽は必ず目覚める。俺達が信じないでどうする?クロノ、お前らしくないぞ」
「そうだよな。ダラス、弱気になってすまない……」
いつもは無口なダラスは俺を励まし、元気付けてくれた。
こんな姿を美羽に見られたら、叱られるだろう。
それでも、俺は美羽に叱られてもいいからすぐに目覚めてほしいと、思ってしまった。
「クロノ……ずっと考えていた事があるんだが」
「何をだ?」
「美羽に何を食べさせたんだ?普通なら、もう人間の姿に戻ってもいいだろ。だが、ずっと俺達と同じ姿のままだ。どえ考えても変じゃないか」
「そうだよね。どのくらい食べたかにもよるけれど……普通だったら元の姿に戻っていてもいい頃だよ」
確かに、俺も変だと思っていた。
美羽の本当の姿を見られてしまうのではと、常に気にしていたが……あの騒動ですっかり忘れていた。
いくら意識がなく、眠った状態だとしても、人間の姿になっている頃だよな。
……俺達が食べさせたのは一度きり。
他に食べたとしたら、ナディアに出されたモノだろう。
でも、ナディアの部屋には変なモノなど無さそうだし。
まさか、出された菓子が美味すぎて腹一杯食べたとか?
いやいや、そんな食い意地……って有り得るな。
だが、それでもそんなに効果は長続きしないと思う。
余程強烈な何かが入っていたなら別だが。
「……ナディアに聞いてみるか?」
「でもそうなると、美羽が人間だって知られちゃうよ」
「知られないように上手く聞き出すんだよ」
「バレないかなぁ?」
「さぁな。でも、他に方法がないだろ」
「だよね……」
気が乗らない俺達だが、ナディアから話を聞き出す……という方法しか思い浮かばず、仕方なく重い腰を上げて会いに行くことにした。
しかし、兄上の婚約者を諦めたナディアは城の中にはいない。
父親である大臣のような重い罪ではないにしても、事実を偽った罪がある。
その罪を償う為に、今は辺境の地にいる。
その場所まで俺達は足を運ばなくてはならなかった……。
辺境の地……。
ここは辺境の地といっても想像していたのとは違い、草原が一面に広がり、とても景色が良く、のんびりと住むには快適な土地。
心穏やかに暮らしていきたいというナディアの願いから、この地が選ばれたらしい。
本来だったら、誰もいない荒れた土地に移送され、寂しい生涯を送る。
しかし、今回は違った。
兄上がサーラを想っているからこそ、その姉に対してこのような恩情をかけたのだろう。
仮にも元婚約者でもあったしな。
「すごく良いところだね」
「あぁ……城下と違って騒々しさとは無縁の場所だな」
俺についてきたカイルとラツィオも、この地が気に入ったらしい。
辺りを見回してみると、草原の中にポツンと大木があり、その隣に小さな家が建っているのが見える。
その家にナディアが住んでいるらしい。
「あこそだ、見付けたぞ」
「あっ、本当だ」
「情報通りだな。早速、行くとするか」
「お先に~」
「おいっ、勝手に行くな」
カイルの気持ちも理解できるが、はしゃぎすぎだろ。
見付けた俺より先に駆け出し、小さな家の扉を叩いていた。
「どなた?」
「王子だったクロノの友人のカイルです。こちらにナディアがいると聞いて訪ねてきました。中に居ますか?」
「……少々お待ちくださいませ」
中にいるのかな?
ナディアじゃない声がしたけれど。
「おいっ、カイル……勝手に扉を叩くなよ。知らない奴が急に来ると、余計に怪しまれるだろ」
「……そう?もう話し掛けちゃったけど」
「カイル……焦りすぎだろ」
だって、クロノ達が遅いのが悪いんだし。
余裕ぶっているけれど、二人(匹)とも同じ気持ちでしょ?
だから僕が代表してみただけなのに……。
カチャリ……。
「どうぞ、皆様お入り下さい」
「ありがとう」
ゆっくりと扉が開き、ナディアの世話係が俺達を招き入れた。
家の中は無駄なものがなく、必要最小限の家具が置いてあるだけ。
派手に暮らしていた割にはシンプルすぎるというか、意外すぎて驚いた。
それから間もなく、目の前にナディアが現れた。
豪華なドレスではなく、この家と同じくシンプルな民と同じような動きやすい服装だった。
「皆様、このような所までお越しになられて……如何しましたか?」
「ナディア、突然訪ねてすまない。聞きたいことがあるのだが……」
「私に?」
「あぁ、そうだ。急を要するので、事前に知らせもいれず申し訳ない」
ナディアは、とりあえずお座り下さいと俺達に言い、世話係に飲み物を持ってくるように促した。
「それで、私に聞きたいこととは何ですか?」
「美羽が未だに目覚めないんだ。城にいた頃、ナディアと二人(匹)きりで話していた事があっただろ?その時に、何か特殊なモノを食べさせたりしていないか?」
「特殊なモノですか…………」
「あぁ。菓子とか飲み物とか、何でも良いんだ。何か思い出してほしい」
どんな手がかりでも良い、眠り続けている原因……それが分かれば対処出来るのだが。
ナディアは当時の事をしばし考えていたが、何か思い当たったらしく、ハッとした。
「あの日……亡くなったサーラが来てくれたと思って、嬉しくなってしまって。でも別人だと知ってガッカリしました。それで、クロノ王子の連れだったから意地悪したくなって、特殊なお茶を出しましたわ」
「特殊なお茶?それはどんなモノだ?」
「とても気分が良くなるお茶ですの。でも、私は一杯だけ。その後は……彼女を置いて王太子様のお部屋に行ってしまったので分かりませんわ」
特殊なお茶……か。
気分が良くなるって……どんなお茶だろう。
ナディアのイタズラ心が働いたとしたら……?
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