第54話 自分の帰るべき場所。その1
ドンドンドン、ドンドンドン!
「王太子様、王太子様、御無事ですか!?」
「……クロノ、このままここにいろ」
「兄上……?」
兄上の気持ちがようやく落ち着いてきた頃、部屋の扉を強く叩き、大声を上げて騒ぐ者が現れた。
俺が兄上の代わりに席を立ち、応対しようとしたのだが、動くなと言われてしまった。
「王太子様、私です。大臣のユダルです。どうか扉をお開けください!」
「……煩いな。これでは考え事が纏まらない」
「兄上!?」
初めて兄上がキレた所を見た気がする。
婚約者の父親相手にキレるなんて……。
温厚で年上の方には敬意を表す方だったのに、目の前で見ているのに信じられない。
「兄上、変わりましたね」
「当たり前だ、いつまでもあの時の私ではいられないだろ」
「そうですよね」
「クロノが居なくなってから色々あった。お陰でこのような姿を見せてしまった。申し訳なく思っている」
「兄上、兄上は悪くありません。私の思慮が足りませんでした……。兄上なら大丈夫だと勝手に思い込んでいましたし、私が側にいるとご迷惑がかかると一人で判断して国を出てしまったのですから」
頼りたい王である父上は病床にいるし、その代理をしなくてはならない兄上は、頼れる者もなく心細い思いをしていた。
当時は落ち着いて暮らせる日々ではなかった。
王太子の座を目前にしていた兄上とその取り巻き。それを覆そうとしていた者達も。
権力争いの中に身を置きたくない私は、兄上に別れを告げ、逃げ出した形になってしまった。
「本当は賢いお前を側に置いておきたかった。だが、国の掟が大事だと……国の主になる方がそれを破るなどあってはならないと強く反対されて。父上は病床で未だに回復なされていないし、大きな後ろ楯も無かった。だから私は……黙ってそれに従うしかなかった」
「兄上……」
兄上は、これまでの事を俺に話してくれた。
民には冷酷な国の主になってしまうと噂され、それに気が付かず代理政治を行っていた。
何が正しいのか、麻痺してしまっていたのだろう……と。
「クロノ、私は変わりたい。サーラの為にも」
「兄上……私も微力でありますが、陰ながらお支え致します」
「ありがとう」
兄上は俺の手を取り力強く握手をすると、何かを決心したように部屋の扉を大きく開けた。
そしてそれと同時に、部屋の中に多くの兵が押し寄せ、俺の周りを取り囲んだ。
「おぉ、王太子様。御無事なようで何よりです。指名手配犯であるクロノ王子が逃げ出し、王太子様の部屋に潜んでいたと聞いて心配しておりました」
「そうだったのか。心配かけたな」
「いいえ。こうして無事な姿を確認出来て、私は嬉しゅうございます。私が来たからにはもう安心です」
「そうか」
「皆の者、その指名手配犯を捕らえ、牢へ連れて行け」
「あはははは!」
「クロノ王子、何が可笑しいのです?再び捕らえられると知って、気でも狂いましたか?」
俺に対する対応が面白すぎて、思わず大声で笑ってしまった。
大臣……何年ぶりに見ただろうか。
俺とサーラが初めて会った時だから、まだ幼い頃か。
あの時と比べて、随分と人相が悪くなっているな。
例えるならば……人間の世界で見た時代劇の悪い大名にすり寄り金儲けをしている商人のようだ。
こんな人相の奴が兄上についていたなんて、判断力が鈍っていたとはいえ、あり得ないだろ。
「ユダル大臣……いえ、サーラの父上、挨拶が遅くなりましたね。お久しぶりです」
「あぁ、そうですね。クロノ王子、国を離れていても御無事だったのですね」
「えぇ、お陰さまで。大臣、私を捕らえる前に聞きたいことがあるのだが、嘘偽り無く正直に答えてもらえますか?」
「王子様に嘘偽り等言える訳がありません。勿論、正直に答えて差し上げます。ですが、大人しく牢へ入っていただけるならば……という条件付きですが、宜しいですか?」
そうきたか。
俺が聞こうとしている内容がわかっているのか、それとも知らずに……ただの牽制か。
どちらにしても、俺は答えを聞かなければならないが。
「大臣……の答え次第だな」
「そうですか。では先に質問を伺いましょう」
「……俺はサーラを殺したと疑いをかけられている、そうだよな?」
「疑いではなく、事実です。クロノ王子、貴方が私の娘……サーラを殺して国から逃げるように出ていきました」
「事実……か」
「はい」
何故、いかにもこの話は本当だという顔をするのか。
それに、何故そんな嘘を思い付いたのか。
この話を聞いてから、ずっと知りたかった真実。
誰がサーラの命を奪ったのか……。
「私は殺してなどいない。何故なら、この国を出る時に会った最後の人物は、ユダル大臣だったよな?」
「さぁ?そうでしたか?以前の事で、記憶が曖昧ですね……」
「そうか……やはりそう答えるか。正直に答えると言ったばかりなのに」
「正直に答えていますとも。私の記憶が不確かなもので、断言できないだけです」
どう質問したら答えるのか。
核心に触れられないならば、別の方法しかない。
少し考えたのち、再び質問をした。
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