第51話 聖なる王。その2

「ちょっと、勝手に想像して変なこと言い出さないでよ。それより、今はこの国の問題解決が先でしょ」

「まぁな。ふぅ……さてと、どうやってこのこの格子の外に出るか」


「それは簡単だよ。俺がやってあげようか?」

「カイル……出来るのか?」

「任せて」


カイルはニッコリと微笑んで立ち上がると、自分の体をごそごそと触り始めた。

そして急に動きが止まったと思ったら、今度はニヤリと笑うと、格子の側まで歩いていった。


「ねぇ……誰か、見張りが来ないか様子を見ていてくれない?」

「俺がやるよ」


「サンキュー」


カイルさんの問いにラツィオさんが答える。

そして、ラツィオさんは辺りの気配を探る役に。

それに加わったダラスさんとその様子を冷静に見ているタマ。

何が始まるのだろうと、私だけそわそわしていた。


カチャカチャ、カチャ……カチャ……。


「?」


まさか、牢屋のカギを開けてる!?

いわゆる、時代劇でいう牢破りをしようとしてる!

もっと恐ろしい言い方だと、脱獄……。

大人しく捕まったのに、そんなことをしてまた捕まったらどうするの!?


「ね、それ……まだ続けるの?」


事の重大さに気付いた私は、小声でそう話し掛け、やんわりと実行中止を……とお願いしてみた。

だけど、私の言葉は作業中のカイルさんの耳には届かずだった。


「よしっ、成功」


カイルさんが振り向き、笑顔で作業の終了を告げた。


本当に牢屋のカギを開けちゃったんだ……。

どうやって開けたかは聞かないけれど、本当にそんな事が出来ちゃったなんて驚きだった。

ただの軽いノリで言っただけだと思っていたから。


「お前にそんな特技があったとはな」


「クロノが知らなかっただけだよ。カギを開けるなんて、何度もやってるから。僕って手先が器用だからさ何でも出来ちゃうんだよね~」

「……何度もって、それ自慢にならないでしょ」


どこのカギを開けたか、それ聞いちゃダメなやつ?

カイルさんが自慢気に言ってる間に、ラツィオさんが牢の扉から外に出た。

そして辺りを見回した後、早く出て来いと私達に催促した。



「はぁ……やっぱり外は良いね」


「まだ牢がある地下だろ。格子の外に出ただけで呑気だな。早く兄上の所に行くぞ」

「だな。抜け道はこっちだ」


「美羽、行くぞ」

「うん」


牢を出ただけで呑気なカイルさん、冷静なラツィオさん、口数は少ないけれどすぐに行動に出るダラスさん、王子なのにその中に違和感もなくいるタマ。

性格も違うのに、息がピッタリ。

すごく良い友達であり、信頼しあっている仲間なんだなと羨ましく思った。


皆の後に続いて抜け道を進む。

薄暗い道だけど、猫だからか身軽だし、夜目がきく為、難なくついていく事が出来た。

しかし、もう少しで外に出られるかな?と思った時、道は行き止まりになり、皆の足が止まってしまった。


「あれ?この道で合っていたよね?」

「ここで間違いない」


「でも、これ以上は進めないよ」

「大丈夫だ、俺達に任せろ」


道案内していたカイルさんが困っている中、ダラスさんとラツィオさんは余裕の表情で周囲の壁を調べ始めた。


「これだ」


ラツィオさんがそう呟き、壁を押した。

すると、その壁が扉のように押した方向に動き始めた。


「隠し扉?」

「あぁ。昔からあったみたいで、俺も初めて見た」


「二人とも良く知ってたね」

「いや、知らなかったさ。でも、本当にあったとはね」


「俺達、城の昔の文献調べて偶然知ったんだ。だから、もしかしてと思って試してみた」

「えぇ!?じゃ、もしそれが嘘の情報だったら俺達どうなってたの?」


「さぁな。今頃は……牢に逆戻りだろうな」

「あはははは……笑えない」


「談笑している場合じゃない。早くここから出るぞ。のんびりしていたら、誰か来る」

「だね。早く行こう」

「うん」


隠し扉の中へ順々に入っていく。

更に続く道を進み、ようやく道の終わりが来たらしく、外の景色が見えてきた。


「出口まであと少しだ」

「でも、すぐに出るなよ」

「ラジャー」


警戒しながら表へ出たが、運良く誰も居なかった。

それだけ平和なのか、ただ警備する者がが少ないだけなのか……。

こうしてようやく私達は外の空気を吸うことが出来た。



「クロノは、今……牢の中か」


「はい、婚約者様の言う通りの場所で捕らえました。でも、何故居場所が分かったのでしょうか?」

「誰かから情報が入ったのかもな」


「そうかもしれません。あのお方は、人脈が沢山おありですから」


ナディアは大臣の娘だ、裏の情報屋からでも聞いたのだろう。

そうでなければ、あの慎重なクロノが簡単に捕まる筈がない。

多分、私の事も調べ尽くしているのだろう。

隙を見せたら、私まで何かされそうで恐ろしい女だ。


「王太子様、捕らえた者達をどう致しますか?」


「放っておけ、どうせ出られないだろ」

「かしこまりました」


城の入り口の警備は万全だ。

もし牢から脱出出来たとしても、城からは出られないだろうからな。

……いや、待てよ。

クロノがこの国に来た理由……。

もしかしたら、ナディアがわざわざクロノを城に引き込んだやもしれぬ。

それで、私ではなくクロノを伴侶とする策略だったら……。


「私の周辺の警備を特に強化しろと伝えろ。奴等が来るかもしれぬ」

「はっ、直ちに伝令致します」


そうだ、クロノは私の命が目的。

それをナディアが手助けしているに違いない。

この王太子の座は、絶対に守り抜いてやる。

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