第50話 聖なる王。その1
「無事、城内に入り込めたな」
「……これが無事なのか?」
「まぁ、まぁ……とりあえず、二人とも落ち着こうよ」
「これが落ち着けるか!?城の地下廊だぞ!」
「あはははは……」
そう、私達は今、この国の城内の牢屋の中にいる。
どうやって潜り込もうと策を練っていた時、思いがけない事件が起き、今の状態に至ってしまった。
「クロノ様、こちらに居るのでしょう?」
「……?」
隠れ家の外から声がした。
そーっと窓の隙間から様子を覗いてみると、着飾った女が一人(匹)、その後ろには兵士が大勢待機していた。
「おい、何故ここがバレたんだ?」
「さぁ?」
「この中に内通者はいない。ただの偶然だろ」
「ねぇ、どうするの?返事しちゃうとバレるよ」
「おとなしく出ていくしかないだろ」
「えぇ!?」
ここで抵抗しても、この人数じゃ太刀打ち出来ないし、ただ無駄に怪我人を出すだけ。
何より、美羽に危害を加えられたら……俺が耐えられない。
「私、待つのは嫌いですの。ですから、早く出てきた方が良いですよ。お連れの方も怪我をしたくないでしょ?」
誰だか知らないが、身なりの割には気性が粗っぽい女だ。
武力行使されたくなければ……と俺に脅しをかけてくるとは。
やはりここはおとなしく出ていくしか方法は無いようだ。
「今から出ていく。ただし、誰にも危害を加えないという事を約束してほしい」
「わかりました」
俺が外の者へと言葉を発したことで、皆が驚いた。
他に方法が無いのだから、仕方ないだろ。
勝手に決めるなんて信じられない、というような目をするなよ……。
「おい、クロノ……正気か!?」
「あぁ」
「何をされるかわからないよ?」
「お前達は大丈夫だろ。されるとしたら、俺だけだから安心しろ」
狙いは俺なんだし、俺さえ捕まえれば美羽やコイツ等は逃してくれるだろ。
それにしても、俺を捕らえる為にこんなに大袈裟な事をするとはな。
ただ着飾っただけの女ではないという事はわかるが。
一体、何者なんだ?
「僕達意外と人気者だからさ……止めておこうよ、ね?」
「いい加減諦めろ。ほら、外に出るぞ。待たせたら、それこそ何をしてくるかわからないぞ」
俺が居ない間、お前達がどれだけの悪行をやったのかは知らないが、それならついでにさっさと罪を認め悔い改めるんだな。
そうしたら、俺と仲良く牢獄暮らしが出来るんだ。
ありがたいだろうが。
「……仕方ない、とりあえず出るぞ」
「えぇ~!?」
「カイル、諦めろ……」
「はぁ……わかったよぉ」
諦めモードのカイルさんをはじめ、隠れ家にいた全員が建物の外へ出た。
そしてそのまま兵士達に連行された。
私は初めての体験に緊張しつつ、城への道をゆっくりと歩いていった。
「ほら、おとなしく中に入れ!」
「……入ってやるから、そんなに大声を出すな」
「そうだよ、そんなんじゃモテないよ?」
「だな」
「煩い、余計なお世話だ!」
ガチャン!
タマ達の余計な一言のせいで乱暴に扱われ、牢屋に押し込められてしまった。
こんな危機的状況なのに、全く慌てない精神力がうらやましい。
私なんか城に近付いて来た途端、ノミのような心臓が、破裂するんじゃないかというくらいドキドキしすぎて倒れそうだったのに。
「はぁ……ここじゃ、何も出来ないね~」
「まぁな。でも、追われる心配は無くなっただろ」
「そうだな。ここなら、ゆっくり出来る」
「ちょっと、そういう問題!?」
「うん。だって疲れたでしょ?」
「美羽、休める時に休んでおけよ」
「はぁ……」
牢屋に入ってからは、余裕な表情で寛いでる。
落ち着かなくて不安だらけなのは私だけみたいで。
どんな生活をしたら、こんなに強い心臓になれるんだろうか……。
「美羽、こんな所に入れられて不安だろう。だけど、そんなに心配するな。お前だけはどんな手を使っても無事にあの世界に帰すから」
「大丈夫だよ。皆がいるし、それに帰る時は……」
「美羽、どうした?」
「ううん、何でもない」
タマも一緒だよ……って言いそうになってしまった。
行く宛が無いから、仕方なく私がいた世界に来ただけなのに。
本当はこの国に居たい筈。
もしお許しが出たら王子に戻れるだろうし、庶民的な生活をしなくても楽しく暮らせるんだもの。
「もしかして、変な考えをしているんじゃないか?」
「一人で国に帰るって言い出しそうだな」
「当たり前だろ、クロノはやっとこの国に帰って来たんだから、美羽はお前を置いていくだろ」
「そうなの?そんなの嫌だよ。美羽もこの国に居ようよ」
皆、勘が鋭すぎる。
そりゃ、皆と一緒に居られたら楽しいだろうけど。
私は私がいた世界に帰らなくちゃいけないし、タマ達はこの国の人(猫)。
お互い、それぞれの居場所に帰らなくちゃって思うのは誰もが思う当然の事。
着いてきちゃった私だけ、今回の件が終わったら……元の世界に帰してもらう。
それが、皆の為にも自分の為にもなると信じたい。
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