第49話 王太子の選択。その3
「クロノは何もしていないんだ。ただ、王子として暮らしていて、後継者ではないから身分を剥奪され、国を追い出されただけの可哀想な奴なんだ」
「だけど国が廃れていくうちに、国民が変な噂をし始めちゃって……」
「かつての王太子はもういない」
「城で行われる毎夜行われる贅沢な宴のせいで、私達の生活が苦しくなってしまった」
「もし王が亡くなってしまったら、これからこの国はどうなってしまうのか……」
「この国を救ってくれる方は現れないのか」
「誰でもいい、あの住みやすかった私達の国を返してください」
恐怖に震えながらも、国民は願っていた。
私達を救ってくれる神はいると。
その願いを叶える為、三匹の猫が異国へ旅だった。
私達の希望……クロノ王子を連れ戻す旅に。
「と、まぁ……民に噂されている話はこんな感じなんだけど」
「国が大変な事になっているのね」
タマのお兄様の王太子様が、国民に悪い影響を及ぼす政務を行ってしまっているなんて信じられない。
血の繋がったお兄様だから、国も平和そのものかと思っていたのに……。
「いくつか内容が美化されているけどな」
「そうだね。例えば、最後のクロノを連れ戻す旅に……辺り?」
「あぁ。俺達が異国に行ったのは、ただの暇潰しで、クロノを冷やかしたかっただけだし」
「真実ではない箇所もある」
「まぁな。噂は噂だし」
タマは国を出ていった後の話は初耳だったらしく、腹を立てていた。
そうだよね、尊敬していたお兄様が……暴君に変わっていたんだもの。
「クロノの……その好きだった女性、お前が殺したって噂も出てるんだよ」
「そんな訳ないだろ!」
「だよね……俺も信じてないけど。でもさ、一時期大騒ぎだったよね」
「あぁ。お前がサーラを殺して、異国に逃亡したって御触れも出ていた。未だに指名手配されてるしな」
タマに好きだった人がいたと聞いた途端、ズキンと胸が痛みを感じた。
そりゃ……私にも過去はあるし、好きだった人がいたけれど。
その人が殺されただなんて……悲しすぎるし、その容疑をかけられているなんて、やりきれないし、苦しいよね。
「それなのに俺を連れてきたのかよ」
「俺達だってこの国は暮らしにくいんだよ。だから、元凶のクロノに何とかしてもらわないとだろ」
「元凶って……やっぱり悪者扱いかよ」
「だって、悪者だし。美羽を泣かせたりしてるでしょ」
「それとこれとは話が別だろうが」
「別じゃないだろ、な、美羽?」
「……いや、別かも」
こんな会話も、猫の姿ではじゃれあう可愛らしい光景にしか見えない。
だけど、それも束の間の事。
これから私達がどうなってしまうのか、とても不安でいっぱいだった。
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