第45話 猫の王国へ。その1
「ここが俺達の国だよ」
「可愛いお家がいっぱいだね」
秘密の扉を通り、私はタマの故郷にやってきた。
勿論、この国に入る前に猫の姿になって。
「美羽、可愛い~」
「ありがとう。初めてじゃないけど、やっぱり変な感じ」
以前、ホワイトさんとお茶会をした時に用意されていたクッキーを今回も食べて猫になった。
前回は早く元の姿に戻りたかったけれど、今回はその逆の気持ち。
すぐに解決すれば大丈夫だけど、長引いてしまったら……。
効果がどのくらいなのか不明らしいから、すごく怖い。
「美羽、怖がらなくても大丈夫だよ」
「う、うん……」
簡単に助けたいって名乗り出たけど、浅はかだった気がする。
カイルさんは私の緊張を和らげる為に、笑顔で言ってくれた。
私の初めての場所だし、私はよそ者。
悪く言えば、外敵とか侵入者とかでしょ?
もし見つかってしまったら、どんな仕打ちを受けるのだろうか……。
「俺が守る」
「俺がじゃなく、俺達がだな」
「だね」
不安な表情を見せてしまった為、タマとダラスさんが心強い言葉を掛けてくれた。
これからどうなるかなんて誰にもわからないのに、私だけ不安になっていちゃダメだよね。
「ありがとう」
少しでも力になって、足手まといにならないようにするからね。
「さてと、まずは安全な場所へ移動するぞ」
「美羽、走るからちゃんと着いてこいよ」
「はい」
ラツィオさんが真面目な声で私に話し掛けると、皆で一斉に駆け出した。
街とは反対の方向……さっき出てきた森の中へ走っていったが、ずっと森の木々ばかりで景色は変わらない。
いや、私には変わらないように見えただけなのかもしれない。
慣れない猫の体だけど、思ったより走れている自分に驚きつつ、皆とはぐれないように一生懸命ついていく。
そしてもう走れない……と思った頃、やっと森から脱出した。
森を抜けると農村の風景が広がっていた。
「美羽、疲れただろう?あともう少しだから頑張れ」
「うん」
私の走る速度が遅くなっていたから、疲れているのがバレていたみたい。
タマが小声でを話し掛けてきたので、まだ大丈夫だという意味で返事と共に大きく頷いた。
それが聞こえてしまったのか、ラツィオさんが私を気遣い、ここからは歩いて行くぞと言ってくれた。
そのお陰か、この地の農村には様々なものが植えられている事がわかった。
小麦や芋のような食べ物になるものや、私達が知る通称猫じゃらしとかすすき等の植物まで。
季節を問わず育つ環境なのか、それとも自分達が楽しむ目的の為に植えたのか、面白い光景だと思った。
「ここは、俺達の庭みたいなものなんだ」
「そうなのね」
「うん。でも、久しぶりに来たよね」
「クロノが国を出る前にも来ただろ」
「そうだった」
道行く人(猫)達が、ラツィオさん達を見て親しげに声を掛けてくる。
その中にいる私を珍しそうに眺めては、タマに何か小声で話しては笑顔で去っていく。
とても意味ありげな感じなんだけど、タマに聞いても『気にするな』と言うだけ。
そう言われると、余計に気になるよね……。
「クロノ様……皆様もご無事でなによりです」
「じいやは相変わらず大袈裟だな」
村外れにある立派な家に着くと、上品そうな年老いた三毛猫が現れ、真っ先にタマに挨拶をした。
「じい様、泣くなよ~。僕まで泣いちゃうだろ」
「仕方ないだろ、感動の再会だ」
「ナキ様、ご無沙汰しております」
ナキ様と呼ばれた三毛猫は、タマが王子だった頃に執事をしていたらしい。
そしてタマが城を出る年齢になると、ナキ様が現役を引退し、老後の人生をのんびりと過ごすために、この村外れの屋敷に移り住んだとか。
タマもそうだけど、それ以外の三人(匹)もナキ様にお世話になっていたみたいで、会えてとても嬉しそうだった。
「皆様、こんな田舎にまで足をお運び下さいまして……ありがとうございます。狭い家ですが、どうぞ中へお入りくださいませ」
「あぁ、私としたことが失礼致しました。つい長話になってしまいました。さぁ、どうぞ」
家の中から上品そうな三毛猫が現れた。
話し方から察すると、多分……ナキ様の奥様かな?
二人(匹)ともとても感じの良い方で、何故国に戻ってきて真っ先にこの場所に来たのか、分かる気がした。
家の中に入ると、日本の田舎にあるような造りになっていた。
板の間に、囲炉裏、まさかの台所にかまどまで……。
お城に住んでいて執事までしていたから、豪華な暮らしをしているかと思ったのに、質素な暮らしぶりに驚いた。
「じい様、不思議な家だね」
「この国では見かけない内装だよな」
「でも、何故か落ち着く……」
「だな」
不思議な家だなと、皆が家の中をあちこち歩き回り眺めていた。
私も実際に見たのは初めてだった。
あっ、観光地とかではあったかも。
茅葺き屋根の家で、囲炉裏があってその火でお鍋の料理を食べたり、串に刺さった魚やお芋が焼いてあったり……。
そして、その煙で良い感じに燻された家の中の薫りがまた落ち着くというか癒されるというか。
異世界に来たのに日本を感じられるなんて、なんとも言えない不思議な感じだった。
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