第42話 一難去って、また一難!?その3

「まぁ、そんなところだ」

「それで?」


それで?

なんだか他人事みたいな言い方……。

タマってそんなに冷たい人(猫)だっけ?


「だから、クロノに会いに来たんだよ」

「何故?俺は国を出た身だぞ」


「それでもだよ」

「うん、それでもなんだよ」


ラツィオさん、ダラスさん、更にカイルさんがだめ押しでタマに助けを求めるように詰め寄っていった。


「俺には何も出来ない」

「そんな……」


「おい、クロノ」

「クロノ、お前な……」


三人(匹)が話を続けているのに、タマはプイッと背を向けてソファでふて寝してしまった。

それはまるで諦めて帰れと言っているように見えた……。


「……どうする?」


「こうなったら何をしても無駄だろ」

「まったく……何年たっても頑固のままだ」


タマの性格を理解しているからか、これ以上は言っても無駄だと三人(匹)は諦めモードになってしまった。

でもせっかく来てくれたのに、このまま帰すなんて可哀想。

それに、タマの母国で何かが起こっているのに、知らないフリなんて出来ないよ……。


「ねぇ、私に出来ることは無い?」


「美羽!?」

「だって、タマが無理なら私しかいないでしょ?」


タマは驚いて、ふて寝していたのにソファから飛び起きた。

本当は、タマだってきっと何かしてあげたい筈。

だけど国に帰れないから意地を張っているんだ。

それならば、私が代わりに何かしてあげられれば、少しは気持ちが軽くなるかなぁって思ったんだけど……。


「美羽、俺達の国に来てくれるの?」


「ダメ……かな?」


国を出された王子でさえ入れないのに、他国というか異世界の者が入り込むのは、もっと許してもらえないかな……。


「ダメじゃないよ。むしろ……」


「うん。良いんじゃないか」

「大歓迎だよ」

「本当に?」


良かった、私の提案を喜んでくれて。

そうと決まれば、早速何かしらの準備をしなくちゃね。

あっ、長期戦になったら困るから……有給休暇使ってしまおうかな。

初めて行くタマの母国、どんな世界なんだろう……。

大変な事が起きているというのに、私は遠足に行くようなワクワクする気持ちになっていた。


「ダメだ!」


「何故?」

「ダメなものは、ダメなんだ!」


盛り上がる私達とは反対に、タマは激怒している。

私じゃ役に立たないって言いたいの?

理由を聞いてもダメしか言わないし、怒ったまま。

これじゃ、皆が困っちゃうじゃない……。


「クロノ、そんなに怒っちゃダメだよ。ほら、美羽が泣いちゃいそうだよ」

「そうだぞ。お前は昔からそうだけど、ちゃんと相手に話さないと通じないんだからな」

「美羽、大丈夫か?」


タマが怒った事で、私を心配して皆がタマを責めている。

私が泣きそうになったのは、怒られたらからではなくて、ただ大声にビックリしたからだった。

だって、タマが怒鳴るなんて初めてだったから……。


「俺が悪者かよ……」


「そうだね~」

「美羽を泣かせたからな」

「美羽に謝れよ」


美羽が泣きそうな表情で俺を見ている。

俺が言い過ぎたからだろうか……。

それを見て、アイツ等はここぞとばかりに俺を攻撃してきていた。

美羽が力を貸してくれると言ってくれたのは、とても嬉しい。

だが、俺にはそれを許可してあげる事は出来ない。

何故ならば、俺が国に帰ったとしても『王子』という力は無い。

もし何かが起きたとしたら、美羽を守りきれる自信がないんだ……。


「美羽、怒鳴って悪かった。だけど、これも美羽の為だ。理解してくれ」


「……理解は出来るよ。でも、諦めるのは無理。だってそんな苦しそうな表情のタマを見ている方が辛いよ」

「美羽……」


美羽は泣いてしまった。

いや、俺が泣かせてしまった。

美羽の気持ちを知っていて、俺の我儘で国へ行くことを拒否しているのだから。


「クロノ、お前、美羽を泣かせるなよ……」

「美羽、泣かないで」

「全く。男なら大切な女の気持ちを受け止めるくらいの覚悟をしろよ」


おい、お前達だって女を泣かせているクセに。

自分の事を差し置いて、説教できる立場かよ……。


「お前達に頼みがある」


「何?」

「なんだ?」

「?」


「少しの間、俺と美羽だけで話したい。だから、この部屋で大人しく待っていてくれ」


外野がギャーギャー煩いから、美羽と話が出来ない。

だから、せめて少し二人きりにして欲しいのだが……。


「まさか、二人きりになったら変なことするとか?」

「……クロノ、エロいな」

「俺達がいるのに、少しは遠慮しろよ」


「えっ!?」


おい、お前達が変なことを言うから、美羽が警戒しまくっているだろうが。

寝室で話し合いをするだけなのに、何故そっちの方向に行くかな……。


「わかったよ。俺達はここで待っているから、話し合いをしてこい」

「でも、早く帰ってきてね?」

「美羽に変なことをしたら、ドアを突き破ってやるからな」


おい、ドアを突き破るって……恐ろしい事をするなよ。

ここは借りている家なんだ、美羽に迷惑がかかるだろうが。


「美羽、俺達は隣の部屋に行くぞ」

「う、うん……」


美羽はアイツ等をチラリと見ると、寝室の扉を開けた。

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