第41話 一難去って、また一難!?その2
「さてと、私はそろそろ帰るわ。あとそこのあなた……」
「あっ、俺はクロノと言います」
「くろのさんね。くろの……名前は?」
「……えっ?」
名前?
どういう意味だ?
「お母さん、そうじゃなくて……くろのが名前。外国の方なの」
「あぁ、そうなのね。どうりで日本人っぽくないなと思ったのよ」
「見た目からして違うじゃない」
あはは……どうやら美羽の天然っぷりは、母親譲りのようだ。
日本人の名字の『黒野』と思ったらしい。
美羽に説明してもらって、やっと俺も理解できたよ。
「それで、クロノさん。この家にいる間は、行動に気を付けてね」
「えっ、あ……はい」
「それじゃ、また来るわね」
「うん。お母さん、わざわざありがとう」
美羽の母親は、笑顔で家に帰っていった。
行動に気を付けてね……とは、美羽に手を出すなという事だろう。
俺の存在が親に知られてしまったからな……変なことは出来ないが。
まぁ……美羽から行動してきた場合は、考えるけどな。
今のところはそんな気配が無いから、母親も心配はしないだろう。
だが、突然現れるのだけは心臓に悪いから止めて欲しいものだな。
「ふぅ、なんとか乗りきったな」
「うん。悪いことはしてないけれど、焦っちゃった」
お母さんは安心して帰ってくれたけど、もしお父さんが来ていたら大変だったかも。
どう説明したとしても、強制的に帰宅させられていたよね……。
「次に美羽が怒られるとしたら、俺のせいかもしれないな」
「何故?」
「わからない?」
「…………」
王子はニヤリと笑うと、私にジリジリと近付いてくる。
もしかして……このシチュエーションは。
いやいや、さっきお母さんが帰ったばかりなのに、ダメでしょ!
といいつつも、嫌じゃないと思ってしまう私がいた。
「……あっ」
「時間切れか」
もう少しでキスされると思った時、王子の姿から黒猫に戻ってしまった。
ちょっと残念のような、ホッとしたような……。
「……タマ、今、変なことを考えたからじゃない?」
「おっ、久しぶりに聞いたな。その名前」
「そうだっけ?」
「そうだよ。俺の事、王子、王子って……」
「だって、そうじゃない」
「正確には、元……王子だ」
特に言われるまで意識していなかったけど、家に帰ってきて安心したのか、元の呼び方に戻ってしまっていた。
皆がいたし、『タマ』なんて呼び方は出来なかったもん。
それなのに、タマはムッとした様子で私を見ていた。
「元でも、王子でしょ。だからそう呼んだのに」
「他のやつならともかく、美羽にはそう呼ばれたくなかった」
「何故、私だけダメなの?」
もしかして、私だけ違う国の住人だから?
そんなの差別じゃない。
王子を王子って呼んで怒られるなんて、嫌ならその時に言ってくれれば良かったのに。
「何故かって?簡単には教えられないな」
「ケチ。教えてくれても良いじゃない」
「簡単に教えたら面白くないだろ。美羽への宿題な」
何それ?
宿題って……答えを焦らされても。
全く、タマが意味あり気な雰囲気を醸し出すから、期待しちゃうじゃない……。
「猫の姿で言われても、こわくないんだから」
「……へぇ、そんな事言っちゃうんだ?声が震えてるけど?」
タマが意地悪な顔で近付き、私をからかっている。
人間の姿な時にそんな事されたらドキドキするけれど、今はただ可愛いって感じ。
だから、大丈夫……って思っていたのに、何故かイケメンな姿が浮かんできて、鼓動が激しくなっていた。
「ちょっと……来ないでよ」
「本心じゃないくせに」
うっ……見抜かれてる。
タマは私が強く拒否しないから、調子にのっている。
私の顔の手前ギリギリまで近付いてきて、フッ……と笑った。
「はいはい、じゃれあうのはそこまで」
「だね~」
「えっ?」
タマにキスされるかと思った時、背後から声がして振り返ると、つい数時間前まで一緒にいたカイルさん、ダラスさん、ラツィオさんが部屋に入ってきていた。
「お前達、何故ここに?」
「……クロノ、じゃまして悪いな」
「いや、それは良いけど。ただ遊びに来た訳じゃないだろ」
「さて、どうでしょう?」
そうなの?
カイルさんは楽しそうにしているし、ダラスさんは呆れているし、ラツィオさんはニヤリと笑っている。
私は、せっかく親友に会えたのに帰りたくなくてここに寄り道したのかと思ったけど……。
「美羽、また会えて嬉しいよ」
「う、うん、私も嬉しいです」
カイルさん、ち、近いです。
さっきまで窓側にいたのに、瞬時に肩の上に乗って顔を覗いてきた。
「……おい、カイル。お前、どさくさ紛れに美羽に近付くな」
「いいじゃん、ダラスも美羽に会いたかったでしょ?」
「……別に」
「またまたぁ、強がっちゃって」
「うるさい」
「クロノ、あれ……良いのか?」
「良くない」
あぁ、耳元で喧嘩しないで欲しい……。
タマもラツィオさんも呆れて見ていないで止めてください。
「あの……カイルさん、ちょっと聞いても良いですか?」
「うん、良いよ」
「私に会いに来た訳じゃないですよね?」
何を言われても肩から降りる様子が全く見えないので、話題を変える質問をしてみた。
すると肩から床にストンと降り、真面目な表情で私を見た。
「あ~、うん。違う」
「それじゃ……私達ではなく、誰かに何か起きたって事ですか?」
「おい、そうなのか!?」
長年の付き合いのタマに会うのに回りくどい事をしないだろうし、私に用事じゃない。
とすると、何かが起きて引き返してきたって事しか想像出来ないんだよね。
「……クロノの女、勘が良すぎ」
「だな」
「あ~ぁ、美羽ともう少し遊びたかったんだけどな」
えっ、本当にそうなの?
タマの女というのはスルーするけれど、直球で聞いてそれが当たってしまった事に、動揺してしまった。
「もしかして……」
「ん?」
「国で何か起きているのか!?」
タマは緊迫した雰囲気でラツィオさんに問い掛けた。
カイルさんとダラスさんは、何も言わず黙ったままでラツィオさんからの言葉を待っていた。
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