第39話 麗しのお茶会。その3

「美味しかったわ」

「それは良かったです」


赤毛の魔女は、とても満足そうだった。

これまでに見たことがない笑みを浮かべていた。


「えぇ。赤毛の魔女様、私達も嬉しく思います。貴女のそのようなお姿も拝見できましたし」

「私の姿?」


「はい。先程までのお美しいお姿が、今では微塵も見られませんよ」

「何!?」


「どうぞ、鏡をお持ち致しました」

「ギャー!こ、こんな……。お前達、み、見るな~!」


赤毛の魔女は、本来の姿を見られてしまったからか、煙のように一瞬で姿を消してしまった。

私達は黙っていましたが、若々しくて妖艶な姿の魔女だったのに、食べ終わる頃には、年老いた醜い姿の魔女に変わっていたのでした。



「やった~!」

「全て終わったな」

「どうなることかと、内心ヒヤヒヤしたけどな」


「あぁ、皆、ありがとう」


王子は、皆に感謝の気持ちを伝えた。


「本当に、良かった。クロノを助けることが出来たのも、皆のおかげよ」


王子の姉のホワイトさんも、笑顔でお礼を言った。


「良かったです。でも、皆様がいらっしゃらなくても、私だけでも解決出来ましたわ」

「よく言うわね……。さっきまで、心配しすぎて胃が痛いとか言ってたのに」


「そんなこと無いわよ!堂々としてたでしょ」

「足がガクガクするとか、平気に見える?とか、直前まで人に聞いていたけど?」


ローズさんとサファイアさんのやり取りが、いいコンビだなと思ったけど、全否定されそうなので私の心の中にしまっておくことにした。



「ところで、何故、魔女はあの姿になっちゃったの?」


皆が盛り上がっている中、ふと浮かんだ疑問を王子に聞いてみた。



「あぁ……それは」


「出したデザートは、プラムじゃなくて桃だったんだよ」

「桃?」


王子が説明しようとした時、すかさずラツィオさんが説明し始めた。


「……おい、俺が説明しようとしたのに」


「俺のアイデアなんだから、別に良いだろ」

「俺が聞かれたんだろ」


「クロノの名前は言っていなかっただろ」

「俺の方を向いていたんだよ」


「そこの二人、そんな事でケンカしない」


カイルさんは呆れて間に入ってくれた。

せっかく平和になったのに、私のせいでまた騒がしくなってしまう所だった……。



「プラムが好きだったのに、何故、魔女は気が付かなかったの?」


好物だったら、気が付きそうなものだよね?


「まぁ、昔からある原種に近い小さめで硬めの桃だし、王室から持ってきた特別なものという前情報があったからな、ちょっと違和感はあっても、こんなものだと思ったんだろ」


「それに、美味しいものとデザートが好きだからね、それで勢いよく食べちゃったんじゃないかな」


そうなんだ……。

それでも、何故、姿が変わっちゃったのか……その理由がわからない。

ちょっと待って。

桃って、不老長寿とか、魔除けの意味がなかったっけ?

だから、桃からうまれた太郎さんが鬼退治に出掛ける話があったんだし。



「ね、その桃には魔除け効果があったってこと?」


「当たり。さすがクロノの女だな。勘が良い」


いや……その褒め方って、どうなの?

しかも、王子の女って言われちゃってるし。


「クロノの女ですって!?美羽は違うわよ、それはここにいる私。ローズですからね」


「クロノ、そうだったのか?」

「違う。……おい、勝手に決めるなよ。お前とは縁が無かっただろ」


「クロノ、ローズ、その件は後にして。今は説明が先でしょ」


「そうでしたね……すみません」

「ごめんなさい」


騒々しくなってしまった場は、ホワイトさんの一声で元通りになった。

いつも以上にオーラを感じ、さすが一国の王女様だなって思った。



「コホン……。話の続きをしようか。この桃は、建国当初から王国の護りも兼ねて植えられていたんだ。最初は小さな木だったらしいが、今では聖なる樹として崇められている大樹なんだ」

「その実が、力を発揮して大活躍してくれたんだよ」

「なるほど」


見た目が少し違っていたけど、そんなに凄い桃が使われていたのね。


「でも、これも賭けだったけどな。実際に効果を試したことが無かったし。それに、食べなかったら作戦は終わってた」


「かなりスリルがあったよな」

「うん、またそれも楽しかったよね」


「あはは……」


この人達は……恐れ知らずというか、無謀というか。

私みたいな庶民とはハートの強さが違うな、と感じてしまった。



「さてと……クロノの問題が解決したことだし、帰るか」

「そうだな」

「そうしましょ」


「え~、もう帰るの?せっかく久しぶりに会えたのに、淋しいよ」


そっか、王子は皆と一緒に国に帰れないのか。

次にいつ会えるかわからないから、もっと話したいこともあるよね……。


「また会えるだろ。お前達が俺に会いに来れば良い」


「そうだな」

「そうしよう!」


「次は、人間界でな」

「あぁ」


さっきまでしんみりしていたけど、私達の世界で再会すると約束し、森の奥へと消えていった。

去り際、ラツィオさんは私にコッソリと耳打ちし、こう伝えてきた。


「それじゃ、またな。美羽……クロノを宜しくな」

「はい」


ラツィオさんは、まるで王子のお兄さんみたいだった。

仲間で、友で、兄弟みたいな……。

皆、素敵な人達でした。

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