第38話 麗しのお茶会。その2

「夢のようだわ。もしかして、夢なんじゃないかしら?」

「いいえ、夢ではありませんよ」


赤毛の魔女はもてなしに満足し、カイルさんの満面の笑みに頬を赤らめた。



「お嬢様、これが最後のデザートです」


「まぁ、何かしら?」


執事姿のラツィオさんがワゴンに乗せてデザートを運んできた。

しかし、そのデザートは箱に入ったまま。

何が入っているかは見えない。


「このデザートは、お嬢様がとてもお好きなものですよ」

「えっ?それじゃ……」


「ですが、これを食べるには条件があります」


「条件?」

「はい」


ラツィオさんは笑顔で返事をすると、そのタイミングで粉まみれの王子が現れた。



「どんな条件ですの?そのデザートが、私の大好物であるならば、早く食べたいわ」


赤毛の魔女は、好物と思われるモノを目の前にして興奮している。

もしかしたら、イケメンより好きなんじゃないかと思ってしまう。

まぁ、イケメンは食べ物じゃないけど……。


「そう急かさなくても無くなりはしませんよ」

「……でも、条件を受け入れなかった場合は、俺達が食べてしまうけどね」


ラツィオさんは苦笑し、王子はニヤリと笑った。



「先にその隠してあるデザートを見せて。それからその条件を聞くわ」


「……クロノ、どうする?これを見た瞬間、俺達に変な魔法をかけて拘束するかもしれないぞ」

「そうだな。そうなると厄介だよな」


「ちょっと、二人とも早くしなさい」

「いや、でもね……」

「催促されても困るよな……」


赤毛の魔女は、デザートを早く見たくてウズウズしている。

ラツィオさんと王子は悩み、赤毛の魔女の言う通りにするか相談している。

いくら決断力がある二人でも、相手は赤毛の魔女……そう簡単に答えは出せないよね。



「わかったわ。それじゃ、先に条件を言ってちょうだい。私、待つのは嫌いなの」


「じゃ、遠慮無く言わせてもらいます。このデザートを食べたいなら、クロノをこれより赤毛の魔女……貴女から永久に解放してもらいたい。それが条件です」


「それだけ?」

「はい」


ラツィオさんは、難しくない条件ですよね?と赤毛の魔女に優しく問い掛けた。

赤毛の魔女は、そんな簡単な条件なの?みたいな表情をしていた。

それでも、やっと自分のものに出来た王子を永久に解放するなんていう事は、赤毛の魔女にとって難しいのかもしれない。

……どう返事をするのかな。

私達は、赤毛の魔女が言葉を発するまでじっと待っていた。



「……良いわ。その条件を受けましょう。ただし、そのデザートが私の大好物であった場合です」


「お嬢様のご期待は裏切りません。条件をお受けいただき、ありがとうございます」


ラツィオさんはそう言うと、デザートが乗っているワゴンを赤毛の魔女の側まで運んでいった。

まだ安心は出来ないけれど、とりあえずは受け入れてくれて良かった。

どんなデザートが入っているんだろう?

美しいものが好きな魔女だから、綺麗にデコレーションしてあるケーキとか……。

それとも、美しい飴細工とか。

ラツィオさん以外の皆が、デザートが披露される時を期待の目で見ていた。



「さぁ、それを開けてちょうだい……」


「はい。お嬢様、こちらのデザートは『プラムのケーキ』です。今回は特別に人間界で作らせたものです。果実は私達の国にある、建国当時から栽培されている貴重なプラムを使用しました」

「お嬢様、プラムの赤ワインコンポートもご用意致しました。大人な味になっております」


ラツィオさんがケーキをお皿に取り分けている時、王子はガラスの器に入ったコンポートを運んできた。

赤毛の魔女は、じっと自分の目の前に置かれるのを待っている。

大好物なモノを用意したんだよね?

でも、見た目は特に華やかとか美しいとかではないから……反応が無いのかな。

もしかして、違ったものだった!?

あぁ、見ている私が一番ドキドキしているかも。



赤毛の魔女の前に、切り分けられたプラムケーキが置かれた。

そこには、生クリームも添えられている。

見ただけでも美味しそう。

その脇に、王子がプラムのコンポートを置いた。


「お嬢様、どうぞお召し上がりください」

「えぇ、いただくわ」


皆は静かに見守っている。

辺りもそれを注目しているかのように、とても静まり返っていた。

赤毛の魔女は目の前のケーキに釘付けだ。

フォークを持つと、ケーキの真ん中辺りから勢いよく下ろした。

そのせいか、カツンとお皿の音がし、それが辺りに響き渡った。



しかし赤毛の魔女は食べるのに夢中で、そんな音など気にしていない。

しかも、半分に切ったケーキを、二口でペロリと食べてしまった。

しかもかなり大きな口を開けて。

今までお上品に食べていたのに、別人になったみたいに、コンポートまであっという間に食べ終わってしまった。


「ねぇ、それ……全部食べていいのよね?」


「え、あ、はい」


「ねぇ、コンポートは、まだあるの?」

「はい、今、お持ちします」


赤毛の魔女は、ラツィオさんから残りのケーキを台ごと受け取ると、ガツガツと食べ始めてしまった。

コンポートは、残っていたものを受け取ると、汁物を飲むみたいに飲み込むし。

まるで餓えた獣みたい。


「……凄いな」

「あぁ、これ程とは思わなかったよ」


皆、唖然としながら食べる光景を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る