第35話 華の貴公子、見参!?。その3
遠く離れた地の俺達の国の後継者争いのせいで、人間の女までが巻き込まれたとはな……。
赤毛の魔女を使うなんて、精神的に相当追い詰められているのか。
「君、誘拐されるなんて大変だっただろ」
「いえ。王子に比べたら、私は平気でした」
「良い娘だね」
「あぁ、そうだな」
クロノが惚れた異世界の女だ、並の女じゃないだろう。
それとも、ただ好みだっただけなのか。
どちらにしても、貴重な存在である事には間違いはないようだ。
「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい。ダラスも頑張って」
「あぁ。カイルもな」
留守番役で彼女達の担当になったからか、カイルは上機嫌だ。
俺とダラスは、そんなカイルを見て苦笑し、部屋を後にした。
「おや、もう話は済んだのですか?」
赤毛の魔女は、俺達が部屋に入ったばかりなのに、もう出てきたのかと不思議に思ったようだ。
「いや。でも、こっちを優先にしたいから戻ってきたんだよ」
「それは、私の事ですか?」
「それはどうかな」
迂闊に答えたら、こっちの身が危うくなる。
惚けた答えに、赤毛の魔女はニヤリと笑った。
全く油断なら無いヤツだ。
まぁ、簡単にいくヤツならクロノだってこんな状態にはなっていないだろうがな……。
さてと、作戦を続行するか。
俺はダラスに視線を送ると、家の外に出た。
「ラツィオ様はどちらに行かれたのですか?」
「さぁ?俺は聞いていないけど」
「……本当ですか?」
「あぁ。俺は嘘をついていない」
本当に俺は行く先を聞いていなかった。
だから嘘はついていないのだ。
もし、聞いていたら赤毛の魔女にバレてしまうと言われた。
確かに、この魔女ならどんな方法を使ってでも自白させてしまうだろう。
そうなったら、この作戦は完全に失敗する。
だから、肝心な事は教えてもらわなかった。
リーダーのみ知っているということだ。
「王子、久しぶりの友との再会は嬉しいでしょう。もしかしたら、華の貴公子の皆様ともこの家で暮らせるかもしれませんね」
「……そうなれば、毎日が刺激的な日々になるだろう」
「まぁ、それは楽しみですわね」
赤毛の魔女は、俺達四人との生活が待ち遠しいと上機嫌だ。
もう実現間近だと思っているのかもしれないな。
でも、そう簡単に上手くいくと思うなよ。
俺達は、このお菓子の家のようには甘くないんだからな。
「……この辺りかな」
俺はとある作戦を遂行中。
その作戦に必要なものを手にする為、ある人物がいる家を探していた。
その家は俺達の国にあるのではなく、人間の家。
自分の国に帰っても良かったのだが、短時間で行ける場所を探した結果、こうなってしまった。
「……美羽の地図、わかりにくいな」
目的の場所は、人間の美羽に聞いた。
簡単な地図を急いで描いてもらってここまで来たが、こんな森の中にあるのだろうか……。
「おっ、ここだ」
森の中にある喫茶店、ここで間違いない。
ログハウス風で木の良い風合いが出ている店だな。
今日は定休日だと聞いたが、誰かいるだろうか。
俺は店の表側に行き、窓から店内を覗いた。
「……奥のキッチンなら明かりはついてるんだけど、人の気配は無さそうだな」
さてと、どうするか。
このままの姿では猫という種族のままだから、人間の姿にならないと会話も出来ないな……。
本来、姿を変えるには月の光の力を借りるのだが、今は昼間なので無理は出来ない。
またあの世界に戻る為に、使える力は極力温存しなくてはならないからな。
「別の手段を使うか。でも、他の方法となると難しいよなぁ……」
やはり、人間の力を借りるしかない。
でも、どうしたものか……。
「ねこさん、どうしたの?」
「……ん?」
悩みすぎて唸っていたら、小さな人間の女の子が俺の側にちょこんと座り話し掛けてきた。
「ほかのほうほうってなに?」
「は……?」
「いま、そういったでしょ?もえがききまちがったかなぁ……」
おいおい、これはどういう事だ?
力を使っていないのに、俺の言葉が理解できているのか!?
「お前の名前、もえ……と言ったか?」
「うん。もえ。みきもえっていうの」
……みきもえ?
あ、名字がみきで、名前がもえか。
「そうか。もえ、俺の言葉がわかるんだな」
「うん、そうだよ」
これが天の助けというやつだな。
幼い人間の女の子が頼りになるかは謎だが、さっきの状況から考えると、少し良い兆しが見えてきたということだ。
でも、待てよ。
この状況だと、小さい女の子が猫と遊んでいる図にしか見えないよな。
それに、もえの親が迎えに来て連れ去ってしまうかもしれない。
そうなると、振り出しに戻ってしまうじゃないか。
早く作戦を実行するしかないな……。
「……もえ、頼みたい事があるんだが」
「たのみたいこと?」
「あぁ」
「うん、いいよ」
「この店の人と話したいんだ」
「わかった」
良かった。
このまま俺の話を聞いてくれれば、難なく終わりそうだ。
もえは俺を抱き抱えると、店主がいる方へと歩いていった。
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