第31話 魔女と王子の同居生活。その3
「王子、もう逃げられませんよ?」
「くそっ、魔術を使うなんて卑怯だぞ」
ずっと逃げまくっていたのに、急に大蛇が現れて俺に巻き付いた。
そしてその蛇は、俺の動きを封じたとわかると、太いロープに変わったのだ。
「追いかけっこに飽きたものですから。こういうプレイはお好きではないですかと」
赤毛の魔女はニヤリと笑うと、俺を拘束したロープの端を持った。
「俺はこういうのは趣味じゃない。痛いのは嫌いなんだ」
「あら残念ですわ。私の得意な分野ですのに」
「そうだろうな……」
「さて、どこから攻略しようかしらね~」
「おい、攻略って何をするんだよ……」
わざわざ言われなくても、想像はついていたよ。
でも、か弱い猫の俺をロープで縛るなんて、どんなプレイをするのか興味はあるな。
だが、決して赤毛の魔女に興味がある訳ではないからな。
って、俺は何を考えているんだよ。
さっきまで逃げまくっていた俺の思考が、ここに来たせいで変になってきたか!?
「この家にいるのですね」
「はい」
私はホワイトさんと共にタマを救出する為、再び魔女の家までやって来た。
どういう方法で救出するのだろう……。
ドアの前で迷っていると、ホワイトさんはドアをノックし、魔女の返事を待たずに勢い良く家の中に入っていってしまった。
「あ……」
「誰だい?」
魔女は突然現れたホワイトさんを警戒し、睨みつけた。
しかしホワイトさんは全く動じず、笑顔でこう答えた。
「赤毛の魔女、私の弟を受け取りに来ました」
「おやおや、王女様までお越しとは……この私も有名になったものだね」
「えぇ、そうですわね。とても有名になっておりますわ。だって、一国の王子を捕らえた魔女ですもの」
ホワイトさんと魔女は、笑顔で挨拶を交わしている。
でも内心はきっとその反対で、ピリピリムード。
まるで戦が始まったように見える。
そしてその近くには、ロープで縛られたタマがいた。
私の姿を見つけると、呆れているのか溜め息を吐いた。
「美羽……何故、戻ってきた」
「王子、無事で良かった」
何故……か。
理由は分かっているクセに、意地悪な質問をするのね。
だから、あえてその問いに答えなかった。
「……おまえ、いつまでもその呼び方止めろよ」
「だって、王子ですから」
美羽がいつもの美羽じゃない。
魔女に拐われてから様子が変だ。
違う姿にされて言動も制限されていた時は仕方がなかったが、元の姿に戻ってからもそうだった。
「おい、美羽」
「何です?」
「いや、いい」
せっかく来てくれたのにケンカはしたくない。
でも、他人行儀な美羽に腹が立ってしまっていた。
「王女様、まさかタダで王子を受け取りに来た……なんて言わないですよね?」
「えぇ、勿論ですわ。もしかしたら、弟よりお気に召していただけるかもしれませんわ」
「それはそれは、楽しみですね」
ホワイトさんはタマを取り戻す為に、魔女と笑顔で交渉をしていた。
私なんかは口を挟む隙もないくらい。
ここに来る前、『私が指示をするまでは、魔女と会話をしないで下さい』と言われてしまったから、何も言えないんだけどね。
それにしても、王族の余裕というやつなのか、魔女の威圧にも全く動じていないのが凄い……。
「伯父様の指示ですわよね?」
「何がです?」
「この美羽を使って私の弟と同居して誘惑し、あわよくば子種を残そうと策略した」
「何の事でしょうか」
「そうでなければ、弟の居場所を知る訳がありませんもの」
……タマの伯父さんの指示?
何故身内なのにそんな酷いことが出来るの?
ホワイトさんの話に驚いてタマを見ると、怒りが頂点に達てしいるのか、それともただ驚きすぎて動揺しているのか、見たことがない表情になっていた。
「サイラスという名を知っている筈です。ほらこの通り文書までありますわ。赤毛の魔女、貴女宛です」
「……私宛の手紙を、何故お持ちなのですか?」
「それは、聞くまでも無いことですわよね。ここに届く前に手に入れたからですわ」
ホワイトさんは、その手紙を読んでくれた。
その内容は、甥のクロノ王子を永久に魔女の家から出すなということ。
そして、どんな手を使っても良いから王族の品位を落とすような行為をしろと命じた内容だった。
そうする事で噂が国にも届き、二度と後継者にという声が上がらなくなるからだと……。
「酷い、酷すぎる」
美羽が激怒している。
俺の為に怒ってくれているのか。
「……美羽が怒る事じゃないだろ」
「だって、実の伯父さんだよ?その人がこんな事を仕掛けて来るなんて、有り得ないでしょ!」
「どうしても後継者になりたいからだよ。今のところ、兄の次の後継者は決まっていないからな」
そう、後継者の候補は他にもいる。
俺には上に3人の兄がいるからな。
だが俺の方が人気があるらしく、次代の後継者にと言われてしまっているんだよな……。
だから俺が標的になったんだろう。
いや、もしかしたら兄達も何かしら攻撃を受けたのかもしれない。
それで俺を守ろうと、兄達と姉が証拠を探して気軽に動くことが出来る姉が俺を助けに来たんだろう。
離れていても、絆はまだ繋がっていたんだ。
感謝してもしきれないな。
「この手紙にはその方の名前が書いてありませんね。それなのに、何故これが証拠になるのですか?」
「それは……」
ホワイトさんは魔女に痛いところを指摘され、答えに詰まってしまった。
確かに、赤毛の魔女に依頼している内容ではあるけれど、差出人の名前が無いなら証拠にならない。
ただ赤毛の魔女に出した手紙だと言われればそれまでで終わってしまう。
それなのに、何故証拠になると言ってしまったのだろう……。
このままじゃ、魔女からタマを返してもらうことが出来ないのでは?
どうしよう、せっかく光が見えたと思ったのに……。
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