第26話 願いの代価。その2

「本物の美羽を出せ。さっきまで話していた美羽は、赤毛の魔女……お前だろ」

「王子、突然何を言う?先程会われていたのは、王子が探していた者。自分で名前を呼ばれたではありませんか」


魔女は丁寧な口調で完全否定してきた。

だが、俺だって譲れない。


「見た目は完璧だった」

「それなら何故、否定するのですか?もしや、代価を払いたくない為の言い逃れですか?」


魔女も譲らなかった。

俺の言葉に、全く動じていない様子だな。

だが、俺は確証がある。

美羽を必ず返してもらうからな。



「言い逃れか……。そう思うなら、この場に美羽を呼ぶんだな。それが出来れば、俺の非を認める」

「…………すぐに呼べないとしたらどうなる?」

「本物の美羽を返してもらうだけぞ。魔女のお前には難しい事ではないだろ」


先程の美羽が本物だったら、呼べばすぐに来るだろう。

だが呼ぶことをせず、魔女はただ悔しそうに顔を歪めているだけ。

俺の勝ちだな。



「今から美羽を呼んでくる。……少し席を外しても良いか?」

「いや、それは許可出来ない。美羽を呼ぶフリをして、また美羽になるつもりだろ」


この俺が何度も同じ手に引っ掛かると思ったのか?

世間知らずの王子と思われているかもしれないが、そんなに馬鹿ではないからな。


「許可出来ないのであれば、私は呼びに行けないではないか。それでも良いのか?」

「……いい加減諦めろ。美羽はこの家の中に居るのは知っている。だから、早く解放しろ」


魔女は俺の発言に驚き、後退りし、よろめいた。

まさか俺にバレていたとは思わなかったんだろう、魔女の顔色が徐々に悪くなっていった。



「美羽がこの家の中に居るのですか?」

「あぁ。上手く隠していたようだがな」

「……何故、そう断言できるのだ!?私は完璧な魔女なのだ。間違いなんてある筈がない!」


完璧か……。

それは自分がそう思っているだけだろ。


「確かに、完璧だった。俺も最初は騙されたよ。だが、俺の本能は最初から見付けていたんだよ。だから、気付くことが出来たんだ」


まさか、こんな場面で自分の本能が役に立つとはな……。

自分の本能が正直すぎて笑えてくるよ。



「本能だと!?アハハハ!そんなモノに私の魔法が負けたと言うのか。馬鹿馬鹿しい……」

「そうだな。でも、事実だ」


だからいい加減負けを認めて、この茶番を終わりにしようぜ。


「そこまで断言できるならば、探している者が何処にいるか言い当ててみるといい」


俺が探し出せないと思っているのだな。

実際は見破られる事を恐れて、内心焦っているのだろうな。

あえて強気な発言をしているのが、痛々しい。



「そうだな、言い当ててやる。正解ならば、無条件で俺達を元の世界へ戻せ。良いな?」

「……わかった」


「よし、約束したからな。今言ったことは必ず守れよ」

「あぁ。でも、もし不正解の場合は……代価を払ってもらう。この家に一生住むことになるのだぞ」

「その時は、俺も男だ。赤毛の魔女……お前を受け入れてやる」


これでやっと美羽と帰れるな。

あと少し待っていてくれ。

俺が助け出してやるからな!



数分後、家の中にいる者達が俺の前に集まってきた。

と言っても、赤毛の魔女と金色の髪の少女……そして、先程会った美羽らしき者。


「この者達の中に、本物の美羽がいるのですか?」

「あぁ、そうだ」


間違いなく、この中にいる。

俺の勘は間違っていない筈だ。


「……さて王子、この家の中にいる者はこれで全員だよ。早速、言い当ててみるといい」

「あぁ、そうするよ」


俺は魔女、少女、最後に美羽の姿の者の前を通り、気配を確認した。

やはり間違いない、美羽を見付けた。



「さぁ、王子!答えを」


「本物の美羽は……『金色の髪の少女』君だ」


俺は答えを出した。

そう、最初に出会った時から気が付いていた。

何故かこの少女に惹かれていたんだ。

まさか、姿を変えられて俺の前に出されているとは気が付かなかったがな。


「ほぉ、それで本当に良いのかい?」

「王子、私が本物の美羽です。どうか惑わされないで下さい」


俺の答えを聞き、魔女はニヤリと笑った。

それを見て美羽の姿の者は動揺し、俺に懇願した。

涙目で……自分を選んで下さいと。



美羽をよく知らない頃だったら、その姿に騙されていただろう。

だが、俺の選択は間違っていない。

あの少女が『俺の美羽』だ。


「クロノ様、あんなに必死になっている美羽ではなく、あの少女を選ぶのですか?」

「あぁ、そうだ」


「誰が見ても、あの者を選ぶと思います。だって、姿も声も間違いなく美羽ですのに……」

「さて、王子……本当にその答えで良いのかい?」

「あぁ。変える気はない」

「間違えたら、私と暮らすんだよ?本当に変える気はないのかい?」


ローズは考えを変えるように言ってきた。

魔女もあれこれと言い、俺を惑わしていた。



「本物の美羽は『金色の髪の少女』だと言っただろ。グダグダ言っていないで、早く正解を言え」


俺は外野の発言に苛つき、魔女を急かした。

すると魔女はスッと顔色を変え、美羽らしき人物の前に立った。

そしてその人物の頭上に手をかざすと、美羽の姿からメスの黒猫になってしまった。

魔女の使い魔だろうか、やけに色気のあるヤツだな。


「クロノ様……あれが美羽の正体だったのですね」

「あぁ。俺は間違っていなかっただろ」

「私、クロノ様を信じていました」


ローズ……俺が間違っていると言っていたのに、正体が判明した途端、意見を変えるなよ。

これでもし答えが外れていたら、文句を言いまくるんだろうな。

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