第23話 誘惑の魔女。その4

「……見つけたぞ」


「本当か!?美羽は何処にいるんだ!」


怪しげな魔女だが、ちゃんと探すことが出来たんだな。

あとは魔女から美羽の居場所を聞き出さなくては。

だが、俺の問いに魔女は返答しなかった。

場所を言わない上に、水晶玉を見るのを止めて顔を上げると、俺を見てニヤリと笑った。

……何やら嫌な感じだ。

やはりタダでは教えない気だろうな。


「魔女様、美羽は何処に居りますの?早く教えて下さいませ」


俺は魔女の出方を待った。

しかしローズは痺れを切らし、魔女の側へと駆け寄っていった。



「代価を払った後に、探している娘の居場所を教えてあげるよ」


「……やはりな。このまますんなり教えないか」

「勿論だよ、私はタダ働きはしない主義なんだからね」


はぁ……、後少しで美羽に会えると思ったのに。

意地が悪い魔女だから、代価は高くつきそうだ……。


「それなら、私が代わりに少し上乗せしてお支払致しますわ。ですから、早くクロノ様に教えてあげて下さいませ」


ローズは魔女にそう言うと、何処からか取り出した高価そうな袋から宝石を取り出し、魔女にそれらを見せた。



「お嬢さん、私は依頼主以外からは払ってもらいたくないんだよ。だから、王子の役に立ちたいと思う事は諦めな」


「そんな……。せっかくの機会ですのに、酷いですわ」


ローズは自分が何も出来ないと知ると、がっくりと肩を落とした。

俺的には借りを作りたくないから、断ってもらえて好都合だけどな。


「ローズ……気を使ってもらったのに、悪いな」

「クロノ様、今回はダメでしたが……次こそはお役に立って見せますわ」


おいおい、労いのつもりで言ってやっただけなのに、急に元気になるなよ。

これじゃ、言って損した気分だ。



「もう話は終わったかい?王子には代価を払ってもらいたいんだが」


「あぁ、構わない。ただし、美羽に間違いなく会えるという確証が無いとダメだぞ」

「あはは、そう来たかい。見た目は坊っちゃんだから上手くあしらえるかと思ったが、意外としっかりしていたんだね」


……この魔女、俺をかなり見くびっていたんだな。

大体の場所とか教えられるだけならば、聞く意味が無い。

美羽を確実に探せるという希望があるから、こんな怪しげな魔女だが頼りにしているんだからな。



「……で、美羽は何処にいるんだ?」


「王子にお茶を差し上げなさい」

「畏まりました」


返事が聞こえたと思ったら、奥の部屋から金の髪の少女が出てきた。

そして、俺の前にお茶を運んできた。

今度は薔薇の香りがする紅茶だ。


「どうぞ」


「ありがとう」

「喉が渇いただろ?それでも飲んでゆっくりするといい」


再び話を濁されてしまった。

お茶などのんびり飲んでいる余裕は無いんだが。

もしかして、俺に教えたくないのだろうか?



「私の分もいただけます?出来れば早く飲みたいわ」

「畏まりました」


ローズは喋りすぎて喉が渇いたのだろう。

図々しくも、魔女の使用人にお茶を催促している。


「あぁ、このお嬢さんには別の飲み物を差し上げなさい」

「畏まりました」


「別の飲み物?私もクロノ様と同じものが良いですわ」

「タダで飲むんだから、贅沢を言うんじゃないよ」


この紅茶は俺の為に淹れただけで、ローズの分は無いみたいだ。

この魔女の家では、飲み物までしっかり代価が発生するんだろうな……。



「ちょっと出掛けてくるよ」


「おい、何処に行くんだ?まだ俺の願いを叶えてもらっていないぞ」


それなのに、急に出掛けるなんて無責任すぎるだろ。


「王子、焦らなくても大丈夫だよ。そのお茶を飲み終える前には帰ってくるからね」


お茶を飲み終える前って、ポットごと置いていった訳じゃないのに、カップ一杯分なんてすぐ飲み終えるだろ。


「絶対に戻って来いよ」


「疑り深い王子だね、少しは私を信用したらどうだい?」

「……信じて良いんだな?」


「それは王子次第だよ。じゃ、行ってくる」


初対面で見た目からして怪しい人物なのに、信じるっていう方が難しいだろ。

魔女は捨て台詞を吐くと、出掛けていってしまった。



本当にこのお茶を飲み終える頃に戻ってくるだろうか?

一気飲みをすれば、瞬時に現れたりするのか?

でもせっかく淹れてくれたお茶だし、味わうことをしないのも勿体ないな。

ゆっくり飲んで、じっくり帰りを待つか。


コトン……。


「……?」


思ったよりなかなか減らないお茶を飲んでいると、ドアの向こうで音がした。

魔女が帰ってきたのだろうか?

しかし、ドアが開く気配は無かった。



「王子!」


「あ!」

「!?」


数分後、開く気配の無かったドアが勢いよく開き、会いたかった人物が部屋の中に飛び込んできた。

魔女が帰ってくるかと思っていたのに、まさかの展開で驚く俺とローズ。


「……美羽だよな?」

「はい、私です。王子にやっと会えました」


どういう事だ……予告も無しに美羽がここに現れるなんて。

無言でローズに訴えかけたが、アイツも状況を把握できずにいた。



「……どうしてここにいる事が分かったんだ?」

「森の中で迷子になって、親切な赤毛の魔女に助けてもらいました。それで、ここに王子がいると教えてもらったんです」


なるほどな……。

あの不親切そうな魔女でも、困っていた美羽を見て見返り無しで助けてやったのか。

絶対に無料奉仕なんてしないと思ったが、良いところもあるじゃないか。

少しだけ見直したぞ。



「美羽、本当に大丈夫なのか?見知らぬ土地で不安だっただろ」


朝からずっと今まで迷っていたなら、心労も疲労もあるだろう。

やっと無事な姿を確認できて、一安心だな。


「はい、私は大丈夫です。それより、王子……顔色が悪くなっていませんか?」

「そうか?俺は別にいつも通りだ。少し疲れているくらいだ」


「……あっ、それなら良いものがあります。これを食べてみませんか?」


美羽はバッグから赤い木の実を取り出し、俺に差し出した。



美羽から受け取った木の実は赤というより深紅に近い色で、見たことが無いものだった。


「これを何処で手に入れたんだ?」

「赤毛の魔女にもらいました。食べると力が沸き上がる木の実みたいです」

「……あの魔女に?」


「はい。ですから、遠慮なく食べてください」

俺には何処までもケチだったのに、美羽には親切にしていたんだな。

もしかして、あの魔女は男が嫌いなのだろうか?


「クロノ様、美羽が言うのですから食べては如何ですか?」

「……あぁ」


本当にこれを食べても良いのだろうか……。

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