第21話 誘惑の魔女。その2
「この辺りですわ」
「この森の中の何処かにいるのか……。それにしても、気味が悪いな」
ローズからの情報によると、願いを叶えてくれる魔女ならば美羽を探せると思う……と。
現に、ローズは願いが叶って俺と再会出来たというのだ。
だから、間違いないと。
その魔女が、狭間の森の中に住んでいるらしい。
そして俺達はその森の目の前に来ている。
森と言えば緑というイメージだが(紅葉時期を除いて)、この森は……紫、橙、赤、黄、青などの色の木々が生い茂っていて、異様としかいえない雰囲気。
怪しげな何かはいそうな感じはするよな……。
「この森を奥へ進むと、お菓子で出来た家が見えてきますわ。その家に間借りしている筈です」
「……魔女があの有名な物語の家に住んでいるのか?」
「はい。でも、期間限定みたいです。今は家主が留守だからその間だけらしいです」
「童話の中なのに、部外者ウェルカムなんだな」
家主は物語で永久に戻らない結末だったような?
違ったか……?
そうなると、元の家主から間借りしている魔女に主が変わる可能性もあるよな。
とにかく、お菓子の家を目指すか。
「あら、クロノ王子がこっちに向かってくるようね」
「王子が!?何で?」
私は会社へ向かう途中、急に現れた霧の為に迷子になった。
そしてその霧の中にいたのに、不思議な森に迷い込んでいた。
森をさ迷っていた時に赤毛の魔女と出会い、私は助けを求めていました。
「お前がいなくなったから私の力を借りに来たんだろう。こんな価値の無い人間の為に私に会いに来るなんて、何処までもお人好しだね」
私の為に?
タマはまだ本調子じゃ無いし、力だって戻っていない。
それなのに、私を探しに来るなんて無謀だよ……。
「王子が来る前に、私の願いを叶えて」
「それは構わないが、お前の願いを叶える代わりに何をくれる?私は自分が損をする取り引きはしない主義だからね」
「……私、これしか持っていない。これで良いですか?」
私が差し出したのは、初給料で買った誕生石が付いているネックレス。
身に付けている中では、これしか渡せるモノがなかった。
「そんなモノ要らないよ。願いは、諦めるしかないね」
魔女は安物には興味が無いらしく、私のネックレスには見向きもしなかった。
ど庶民に高価なものを期待するなんて、それのほうが間違っていると思う……。
「諦めるなんて……出来ません。王子の命が危ないかもしれないのに」
タマのお陰で元に戻れて、私は元気になれた。
今度は私が助けてあげたい。
「お前の願いは、王子の命を助けることなのかい?」
「そうです。力を戻してあげて欲しいんです」
「そうかい、でもそれは高くつく願いだね」
「……それでも叶えて欲しいです。どうすれば良いですか?」
私の願いは高度なものだった。
それでも、私なりに精一杯お願いすれば叶えてくれるかもしれない。
「そう、そこまで言うのであれば……叶えてあげようか」
「本当ですか!?」
良かった、これでタマは元気になれるんだ。
突然現れた魔女には驚いたけれど、この為に出会ったのね。
「ただし、それには私が出した条件をのめば叶えてあげるよ。それが無理なら、この話は無かったことにしてもらうよ」
「どんな条件ですか?」
お金や宝石を出せと言われる訳じゃないなら、私でも出来そう。
赤毛だけど見た目は優しそうだし、きっと無理難題じゃ無さそうだよね。
「王子を私に差し出す……これが条件だ」
「王子を!?そんなの無理です!」
酷い……。
タマの力を回復してもらうだけなのに、そんな酷いことは出来ないよ。
「無理と言われても、私はこれしか望まないんだ。私は美しいものが何よりも好物なんだよ。私の力で命が助かって、安全なこの家にいられるなら王子にとって良いことじゃないのかね」
「……そうかもしれません。でも、王子の身を私の一存で差し出すことは出来ません」
タマが望むなら……そうする他は無い。
でも、そうなったらタマは自由が無くなって、ここから離れられなくなっちゃうかもしれない。
そんなの、私だって嫌だ。
「私の条件を拒否するなら、この話はこれで終わりだね」
「そんな……」
タマの力を回復させる唯一の方法を見付けたと思ったのに……。
「そんなにガッカリする事は無いよ。ほら、すぐそこに王子がやって来た。楽しみだね~」
「えっ、王子がもう来たの!?」
願いを叶えてもらってから会おうと思ったのに、来るのが早すぎるよ。
「さてと、お前には協力してもらおうかね」
「…………?」
魔女は不適な笑みを浮かべ私に近付くと、何やらぶつぶつと呪文らしきものを唱えていた。
その後は、何をされたか分からない。
そこで私の意識が途絶えてしまったから……。
「まだ着かないのか?」
結構な距離を進んだのに、木ばっかりでなかなか家らしき建物が見えてこない。
いい加減見えてこいよ、俺の体力にも限界があるんだよ……。
「ほら、あの家ですわ」
「……やっと着いたか」
家の近くに来ると、甘い匂いが周辺に流れている。
間違いなくお菓子で出来ている家だと分かる匂いだな。
コン、コン、コン……。
「すみません、誰か居ませんか?」
俺達はお菓子の家の前に着くとドアをノックし、魔女の所在を確かめる為にドア越しに声を掛けた。
「……誰だい?」
返事が来た。
この声の主が例の魔女なのだろうか?
「願いを叶えてくれる魔女を探しに来ました。こちらの家に居ると聞いたのですが、間違いないでしょうか?」
「………………」
返事が無いな。
ここじゃなかったのか?
隣にいるローズをチラリと見ると、『間違いないですわ』と小声だが自信満々に答えていた。
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