第15話 ライバルは婚約者!?その2

「……ローズさんは猫語以外も話せたのね」


「当たり前でしょ。今までは人目があるから、この世界の猫語を話してあげただけだもん」

「……なるほど」


「まぁ、本当はずっと猫語で話していても良かったけれど、あなたが理解できないだろうから仕方無く人間の言葉を話してあげたのよ」


あはは、そうですか。

それならわざわざタマに通訳を頼まなくても良かったのにね……。


「美羽、気にするな。コイツはただ美羽をからかっているだけだからな」

「あ、うん。別に気にしてはいないから大丈夫」


だって、タマの元婚約者は私の存在が気に入らないっていう事に気付いちゃったから。

それに、普通だったら立て続けに言われている酷い言葉に凹んでいるだろうけど、猫の姿で言われているからか、嫌みも可愛く感じてしまうのよね。


「別にからかってはいませんわ。ただ、私との婚姻を拒んでまでこの世界に来たのに、クロノ様のお側にこんな庶民がいることが許せないだけです」


「えっ、婚姻を拒んだの?」

「拒んでは無いけど。ただ、コイツと婚姻したくなかっただけだよ」


……それを拒んだと言うのでは?

もしかして、ローズさんはタマを諦めたくなくて追いかけてきたのかな。

そうだとしたら、本気でタマの事が好きなんだよね。

それなのに、やっと会えた婚約者の側に知らない人間の私がいるんだもん……驚いたよね。


「呆れるね。許せないとか、どの口が言うんだか……」


「あれは誤解です。私と国に帰っていただければわかることです」

「俺はあの世界には戻れないんだ。俺に構わず一人で帰れ」


「嫌です。私はクロノ様と共に帰ると決めたんです」

「俺の許可無しに勝手に決めるな」


「勝手に婚約破棄したのは、クロノ様です」

「俺にだって選ぶ権利はあるんだよ。嫌なものは嫌なんだ」


「何故ですの?私の何処が嫌なんですか」

「嫌なものに理由はない」

「そんな言い方……酷いです」


あぁ、またヒートアップしちゃったよ……。

お互いに譲らないから話の終わりが見えない。

私が口を挟む問題じゃないし、でもこのままじゃ堂々巡りだよね……。



「ねぇ、とりあえずご飯食べよう。話はそれからでも良いでしょ?」

「あぁ、そうだな。コイツは食べないらしいから、構わなくて良いぞ」


そう言えば、さっきそう通訳してくれたもんね。

ローズさんも、必要ないわよっていうアピールなのか、こっちを見ない……。


「そういう訳にもいかないでしょ……。ローズさん、食べたいものある?」


「そうね、上質な新鮮な白身の魚のソテーと、デザートに王室御用達のミルクで作ったプリンが良いわ」

「それは無理だよ」


「そうよね。ここには材料を揃えることすら無理だと思いましたわ」


ローズさんは育ちが良いから、庶民食を食べると具合が悪くなるらしい。

それならそう言ってくれればいいのに、さっきの言い方では、私を馬鹿にしていると勘違いしてしまうよね……。



「お前、国に帰れ。俺の美羽に無理難題を言う女なんて、眼中に無いんだよ」


「クロノ様……。私を捨てるのですね」

「最初から拾ってなんかいない」


「ひ、酷いです!」

「タマ、言い過ぎだよ」

「コイツは、これくらい言わないと理解できないヤツなんだよ」


タマの強烈な一言で、ローズさんが泣いちゃった。

俺の美羽……だなんて心にも無いことを言うからだよ。

せっかくの食事が、また中断されてるし。

これじゃ、消化不良で胃薬飲むようになっちゃうよ……。



「……わかりましたわ。私、今日のところは帰ります」


「もう、二度と来るな」

「いいえ、私はクロノ様を絶対に諦めませんから!」


ローズさんは捨て台詞を吐くと、玄関から飛び出していってしまった。


「……タマ、ローズさん行っちゃったね」

「あぁ、先が思いやられるな」


ローズさんは、また来ると言っていた。

すごい執念というか、パワーというか……諦めが悪いというか……。

また家に来るのかな。

来るなら、私がいない時にして欲しいな……。



「おはよう……」


「おはよう。美羽……朝食が終わったら、散歩にでも行かないか?」

「うん、行こう。それじゃ、顔洗ってくるね」


いつもは寝起きが悪いタマが、今朝は先に目覚めていた。

しかも、朝食まで作ってあった。

昨日の事があったから、眠れなかったのかな?

朝から誘ってくるなんて珍しいし、あんなに嫌がっていたけれど、ローズさんの事が気になっているのかもしれない。



「「いただきます」」


今朝のメニューは、トースト、ハムエッグ、コンソメスープ、たまごサラダ。

ハムエッグを半分に切ってトーストに乗せて食べるのが好きなんだよね。

以前に見てそれを知っているのか、半分にしてくれている。

ちょっとした気遣いが出来るから嬉しい。


でも、昨日はローズさんに対する扱いが酷かった……。

本当に嫌いなのか、それとも好きだから故郷に帰そうとしているのか……タマの真意はわからない。



「タマ……ローズさんとの事、聞いても良い?」

「……何が聞きたい?」


……うっ、急に不機嫌になっちゃった。

禁句だったのかも……。


「嫌なら無理しなくても良いよ。ただ、気になっただけだから……」

「それなら話さない。アイツの話題なんて、特に無いからな」


「そ、そうなんだ……」

「あぁ」


タマはそれ以上話してくれなかった。

そういう態度を取られると、ローズさんとの事が余計に気になってしまう。

きっと二人の間に何かあったから、婚約を破棄してしまったんだ……とも思ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る