第13話 恋せよ乙女。その4
「でもな……美羽が嫌がる方法かも」
「大丈夫だよ、元にもどれるなら嫌がっている場合じゃないもん。だから教えて」
どんな方法でも、嫌だなんて言っている場合ではない。
短時間なら猫のまま過ごすのも楽しいかもしれない。
でも、ずっとこのままでいる方が不安だし、嫌だもん。
「本当に実行して良いのか?後で怒ったりするなよ?」
「うん。絶対に怒るなんてしないよ」
「よし、わかった。それじゃ、目を瞑れ」
「目を……?うん、瞑ったよ」
「俺が良いと言うまで、絶対に目を開けるな。それと、驚いても絶対に動くなよ」
「わかった」
見てはいけないなんて、どんな方法なんだろう。
驚く事って、何が起こるんだろう……。
言われるがまま目を瞑り、ドキドキしながらタマの出方を待った。
「覚悟は出来たか?」
「うん」
タマの言葉を聞いてから数十病後……。
「!?」
私の唇に何かが当たった感触がした。
しかし、約束を守る為にそのまま微動だに出来ずにいると、今度は私をあたたかく包み込むように抱き締められ、そのまま不思議な感覚に襲われていった。
今のは……キス?
そう頭の中で認識出来たのは、それから暫くしてからの事。
それまでは、ぼーっとした感覚で何も考えられる状態ではなかった。
「美羽、大丈夫か?目を開けても良いぞ」
「あ……キャット」
声を掛けられて目を開けると、目の前にはキャットがいた。
「立てるか?」
「あ……えっと、体に力が入らない」
タマに何をされたんだろう?
立ち上がりたくても、全く動けなかった。
「刺激が強すぎたみたいだな。ごめん、やり過ぎたかも」
「……キャット、私に何をしたの?」
「ん?何をしたかって?詳しく聞きたいのか?でもそれを聞いたら、美羽が激怒するから止めておく」
激怒するような事をしたの?
キス……されたような気がしたけれど、もしかして……その後も無意識のうちにされたって事!?
「……もしかして、私に言えないことをしたからこうなったの?」
「いや、過激な事はしていないけど?」
「ど?って、何故疑問系なの?やっぱり、やましいことしたのね!?」
酷い、私が許可したとはいえ、そんな事をするなんて、最低すぎる。
「美羽、勘違いするな。俺は無意識の相手に襲ったりしない」
「じゃ、何故……こんな状態になったのよ」
「それは、美羽が俺を受け入れたからだろ」
「はぁ!?」
受け入れたって、どういう事?
まさか、私がタマ……いや、キャット?どちらかに身をゆだねたって事!?
「……美羽、もしかして変な想像していないか?男女の関係になったとかじゃないからな。美羽を人間に戻す為に、唇から俺の力を注入したんだ。それを受け入れたから、一時的にそういう感覚になったんだよ」
「あ……そうなのね。あはは、私もそうだと思ったんだ」
「……絶対、違うだろ。俺を最低男扱いするような目で見てた」
「そんな訳が無いじゃない。キャットが私にそんな事する人じゃないって信じていたもん」
「……おい、その嘘くさい言葉は何だ?絶対に疑っていただろ。はぁ……美羽に信じてもらえていなかったなんて、悲しいよ」
行程はどうであれ、キャットのお陰で元の人間の姿に戻ることが出来た。
疑ってしまったのは申し訳無いけれど……。
今更だけど、満月じゃないのに私の為に力を使わせてしまって大丈夫だったのかな……。
「あぁ、心配していないかもしれないが、美羽に力を使ったくらいじゃ弱らないから大丈夫だからな。ここは俺の住んでいた世界と繋がっているし、力を消費しても負担になら無いんだ」
「別に心配はしていなかったけれど、それなら良かった」
私がキャットを心配していたとバレたのが恥ずかしくて、思わず可愛いげの無い返答をしてしまった。
多分、この頃くらいだろうな……キャットを男性として意識してしまっていたのは。
だけど素直じゃない私は、気持ちに気が付かないフリをし、自分を偽ってしまっていた。
「さてと、帰るか」
「うん」
キャットは道案内を兼ねて少し先を歩いている。
そして見慣れた道まで来ると、タマに戻ってしまった。
ここはもう私が暮らす世界。
時間軸が同じなのか、来た時は明るかった筈なのに、夜になっていた。
後ろを振り返っても、さっきまでいた世界の景色はどこにも見当たらなかった。
「美羽、どうした?」
「どうもしないよ。ただ、あの世界にいたのが夢みたいだなって思っただけ」
「……また連れてきてやるよ」
「……ありがとう」
周囲には誰もいない静かな夜、タマと二人で歩いていると、また他の世界に道が繋がるような気がしてしまう。
もしそうなったとしても、何処にいてもタマと一緒ならば安心だと思ってしまう私。
だけど、キャットといると思ってしまうと……落ち着かない私でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます