第11話 恋せよ乙女。その2

「着いたぞ」

「わぁ、凄い」


キャットに案内されて辿り着いた場所には、見たことが無い色とりどりの花が咲き乱れていて、その中に白い洋風のテーブルと椅子が置かれていた。

ここはまるで別世界。

おとぎの国のお話に出てくるような世界に似ていた。


「ほら、驚くのはまだ早いぞ。その椅子に座って」

「うん」


一体何が始まるんだろう。

私はキャットに言われるがままついてきて、そして椅子に座って綺麗な景色を眺めてのんびり時を過ごしている。

少し前まで家でぐうたらしていたのに、そんな自分がこんな素敵な場所にいるなんて、夢でも見ているようだった。



「クロノ、久しぶりね」

「ホワイト来てくれたんだ、久しぶりだね」


さっきまで周りに誰もいなかったのに、言葉を話す白猫が突然現れた。


ホワイト?

クロノ?

そっか、キャットの名前はクロノだった。

何が始まるかとワクワクしていたのに、驚く事ってこれなのかな?

不思議な光景なのに、違和感が無くて絵になるな……。


「……あの、キャット」


声を掛けたのはいいけれど、その猫は誰?と聞いても大丈夫なのだろうか。



「あぁ、ごめん。美羽、こちらは……」


「はじめまして。私、ホワイトです」

「は、はじめまして」


ホワイトさんが右の前足を差し出したので、握手して挨拶を交わした。

キャットと同じ世界の猫なのかな?

知り合いみたいだし、顔立ちも毛並みも良いし、王族の系統だったりして……。



「ここに来たりして大丈夫なのか?」

「黙って出てきちゃったけれど、多分大丈夫よ。私、貴方の気配がしたから来てみたの。そうしたら、異世界の女性といたから驚いちゃった」


「女性って……。あぁ、美羽の事か。俺が世話になっている住まいの家主だよ」

「まぁ、そうでしたの。クロノがお世話になってるのね」

「いえ、お世話っていう程の事でも無いですけど」


さりげなく私を紹介してくれているけれど、世話をしている家主って……。

確かにそうだけど、響きが嬉しくない。

どちらかというと、私がキャットにお世話になっている感じだし。

それにしても、キャットは楽しそうに話すんだね。

やっぱり同じ国の人(猫)だから、嬉しいんだろうな。



「そうだな、俺が世話をしてやってるもんな」


どや顔のキャットは、私を見てニヤリと笑った。

謙遜して言ってあげたのに、その通りだから否定できない。


「まぁ!あなた達、そんな仲なのね」


「いや、違う」

「いいえ、違います」


「まぁ、恥ずかしがることないのに」

「恥ずかしがってなんかいないから」


「そういう事にしておいてあげるわ」


ホワイトさんは交互に私達を見ると、意味ありげにウフフと笑った。

きっと、私達が良い仲なんだって勘違いしていると思う。

でも、キャットには恋をしている相手がいるから……早めに誤解をといてあげなくちゃ。



「あの、ホワイトさん。盛り上がっている所申し訳ないのですが……キャットには恋している相手がいるんです。ですので、誤解しないであげてくださいね」


「あら、そうでしたの?」

「はい」


ホワイトさんは、私の話を聞いて驚いていた。

このまま勘違いさせてしまっていたら、キャットの相手に悪いものね。


「でも、私の勘違いではないと思うわ。だって……そうよね?」


「さぁな……」


うーん……。

キャットは何故、話を誤魔化して否定しないんだろう。

せっかくキャットの為に話してあげたのに、これじゃ相手の女性にも悪いよ……。



「美羽さん、今居るこの場所……何処かご存知?」

「いえ、キャットに連れてこられたので知りません。今日初めて来ました」


こんなに癒される綺麗な場所なら、他の誰かに知られている筈だけど、私達の他には誰もいない。

途中までの道は覚えているけれど、一人で来るとなると辿り着く自信がないかも。


「ここはね、私達の世界と繋がっている特別な場所なの。あなたの住む世界とは違う次元にあるのよ」


「違う次元?」

「えぇ、そうなの」


だから見たことが無い景色だったのね。

でも、私はただ歩いていただけなのに、どうやって来れたんだろう?



「美羽、ここは俺が美羽を連れてきたかった場所。それだけ覚えていてくれれば良いから」

「あ、うん。わかった。それなら覚えていられる自信ある」


思わず断言してしまった。

だってこんなに綺麗で素敵な場所だもの、しっかり記憶に残しておかなくちゃ。


「美羽さん、また連れてきてもらうと良いわ」

「はい、そうします」


「美羽次第だけどな」

「……それ、どういう意味よ」


「さぁな……」


また誤魔化したキャット。

私を連れてきたかった……と言ってくれた気持ちが嬉しかった。

だけど、『……キャットが好きな相手は、ここに来たかな』そんな考えが思い浮かんだ途端、私の胸がチクリと傷んだ。



「あら、こんな時間になっていたのね。もう帰らなくちゃ。楽しい時間はあっという間ね」

「俺達も帰るか」

「あ、うん」


ここに来てから2~3時間が経っていたらしい。

テーブルに置いてあった時計が、帰宅の時間を知らせていた。

太陽がずっと同じ位置にあるし、過ごした時間が楽しかったのでそんなに経っていたなんて気が付かなかった。


「あら、こんな時間になっていたのね。もう帰らなくちゃ。楽しい時間はあっという間ね」


「俺達も帰るか」

「あ、うん」


ここに来てから2~3時間が経っていたらしい。

テーブルに置いてあった時計が、帰宅の時間を知らせていた。

太陽がずっと同じ位置にあるし、過ごした時間が楽しかったのでそんなに経っていたなんて気が付かなかった。

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