第7話 イケメンさんの正体。その1

「タマ~、ご飯できたよ」


……あれ、タマがいない?

家の中にいる筈なのに、何処かに出掛けたのかな?


「おぉ、旨そうだな。俺、肉じゃが好きなんだよ」


イケメンさんが台所に立って鍋の中を覗いていた。

すごく嬉しそうな顔をしているから、私まで笑顔になってしまった。


「そうなんですか?良かった。あの……タマが居ないんですけど、見掛けました?」

「あぁ、タマか……。食べ終わった頃に帰ってくるんじゃないかな」

「それなら良いけど。出掛けるなら、一声掛けてくれても良いのに……」


佐川さんの件、タマがイケメンさんに頼んでくれたお陰で解決したから、お礼も込めてご飯作ったのにな。



「そんなに心配?」

「はい。知り合ったばかりですけど、家族ですから」

「そっか、そう言ってもらえて嬉しいな」


イケメンさんは、私の言葉を聞いて自分の事のように喜んでいた。

本当に仲良しさんなんだな……。


「あの、今回お世話になった縁もありますし、良かったら貴方の名前……聞いても良いですか?」


「俺の名前?知りたいの?」


「はい、もし嫌でなければ」


「キャットだよ」


「キャットさん?名前通りで猫が好きなんですね。私、外国の方だとは知りませんでした……」

「ん~、キャットで良いよ。まぁ、そういうことになるのかな。俺はこの国の人じゃないし」


なるほど、だから日本人離れしたすらりとした体型で綺麗な顔立ちだったんだ……。

黒髪だから、日本人って思い込んでた。



「あ……もうこんな時間。タマ……まだ帰ってこない」


時計を見ると21時を過ぎていた。

キャットと話していたら、時間があっという間に経っていたみたい。


「俺はそろそろ戻るよ。タマは戻ってくるから心配しなくて良い」

「はい」


キャットが言うと本当に戻ってくる気がするのは何故だろう。

それだけタマとの信頼関係があるのかな。


「それじゃ、ごちそうさまでした。また遊びに来るよ。美羽が嫌じゃなかったらだけど」

「嫌じゃないです。キャットさえ良ければ、また来てください。タマも喜びます」

「ありがとう。それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」


キャットは見送りは良いよと、玄関先で挨拶すると帰っていった。

最初は怪しい人だと思っていたのに、こんなに仲良くなるなんて不思議だな。



「美羽~、ただいま」


「あっ、タマ!何処に行っていたの?ご飯作って待っていたのに」


キャットが帰って数分後、タマがベランダから家の中に入ってきた。


「悪い、用事が出来たから、すぐに戻れなかったんだ。ご飯もご馳走になった」


ご飯も食べてきたんだ……残念。

でも外で食べるご飯って、誰かの家に上がってって事?

猫とか人間の知り合いが多いのかな?



「そうなの?それじゃ、明日作ってあげる」

「サンキュー、楽しみだな」

「タマにもお世話になったしね、お礼だよ」

「美羽の頼みだったし、困っていたからな。でも、玉の輿チャンスを逃すなんて、美羽は変わってるな」


私、変わっているのかな?

だって、好みじゃない人とそういう関係になる方が嫌だよ。

それ以前に、佐川さんとはそんな話にも関係にもならないと思うけど。


「佐川さんと恋仲になったら、贅沢は出来るかもね」

「金持ちでも、ケチはいるぞ」


タマ、猫なのに人間の事情まで知ってるなんて凄い。

確かにそう言う人もいるよね。

ケチというか、倹約家?と言うかもしれないけれど。



「そう言えば、キャットの家ってここから近いの?」

「あぁ、まぁ……近いかな」


タマは知り合いだけあって、キャットの家まで知っているんだ。

もしかしたら、私が居ないときは遊びに行ったりしているのかな。


「そうなのね、それなら良かった。長居させちゃったから、家が遠いと申し訳無いなって思っていたの」

「キャットは男だし大丈夫だよ。それより、美羽には警戒心っていうのは無いのか?こんな時間まで男と二人きりになるなんて、女の身の方が危ないだろ」


タマはちょっと怒っていた。

タマ曰く、私に危機感が無さすぎるらしい。



「そうかな?タマの知り合いだし、安全でしょ?」


だから家に招待したんだし。

佐川さんなら身の危険を感じたけれど、キャットは爽やかで安心できる感じがしたんだもん。


「……美羽、男っていうのはな安全じゃない。昼でも夜でも隙を見て獣になるんだぞ」

「獣に?でも、キャットは違うんじゃないかな。レベル高い男性だし、私みたいなごく普通な人は相手にしないでしょ」

「……わかってないな。次、もし家に入れる機会があったら覚悟しておけよ。俺、どうなっても知らないからな」


次?そんな機会があるのかな。

いくらタマと仲良しでも、そんな用事もないのに来ないでしょ。



「もしそうなったら、タマが守ってくれるんだよね?」

「助けて欲しい時は、俺を呼べ。それ以外は、邪魔をしない主義なんだ」

「……タマって冷たい猫だったのね」

「冷たいって言うな。ちゃんと空気が読める猫って言って欲しいね」


空気が読める猫って……。

とにかく、余計な事はしないって意味でしょ?

……番猫なのに、無責任な発言。

もし何かあって守ってくれなかったら、ご飯を作ってあげないから。


「もし私に恋人が出来たら、邪魔はしないって事なのね」

「あぁ、そうだよ。この話はもう良いだろ。時間も遅いし、早く風呂に入って寝ろ」

「あ、うん……」


タマは急に不機嫌になってソファへ行ってしまった。

私がしつこく質問したからかな?



「タマ、おやすみ」

「おやすみ」


タマと私は寝室で寝ている。

でも、タマは同じ布団で寝ている訳じゃなくて、大きめのクッションを敷いてあげて、そこで寝ているんだけど。

初日はソファで寝かせていたけれど、可哀想かなって思うようになってからは、同じ部屋に寝てもらっていた。


「タマ……今度キャットに会う時があったら、私が感謝していたって伝えておいてね」

「あぁ、言っておくよ……」


眠そうにしているタマは、私に黙って早く寝ろと催促している。

出掛けていたから疲れているみたい。

キャットとはいつ会えるのかな。

連絡先を知らないし、タマを通じてしか会えない。

神出鬼没で、謎が多そうだよね。

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