第6話誰なん?

『GNPP』第6話。「誰なん?」


God.no.psyche.program。ラスボス降臨。神を否定する物語の蝶達の出会い。



ー水族館ー


 水族館の入り口で入場料1500円也を払い終わり中に入る俺達。中に入ると相変わらずの事だけど、ファンサたんがマジマジと観察してる。別に魚達を見るのは普通なんだが、どちらかと言えば建物を見てる。鏡の大きいのが置いてあるフロアでは自分をマジマジと見てるし。サメも何種類も居るんだけどさ? ファンサたんときたら、人間観察の方にも夢中。



一体何しに来たのか解んないよ。なんなん?


「ジンベイザメも居るし、ここのサメ達さ顔怖いなー、な、ファンサたん?」


「あ、あの人絶対ヤーさんだよ? 夏場なのに長袖のジャケット着込んでる。腕に少し刺青見えた!」


何観てはしゃいでるん? もー! デートなのに台無しじゃん?


 こんな感じで一番見せ場のイルカも、全然見て無いし、何処に居るか解んない。こんなグダグダ続いて、とうとう最深部に着いた。



-ペン銀の魔-


 看板にそう書かれてるのをファンサたんが見つけて、はしゃいでる。ラスボス戦かも知れないのに呑気な物だ。扉を開けて中に入ろうかな?って思い扉に手を掛けた。だが。


「あれ?カギ掛かってるん?」


「あー留守なのかな?」


 ペン銀の魔は静かだ。ここだけ見物客が寄り付いて無い。何故かは解らないが、通路を見渡すと、誰も居ない。違和感をやっと感じる俺。ファンサたんは恐らく解っていたみたいな気もする。すると、ファンサたんがペットボトルを取り出した。何をするのかとマジマジと見てみる。……ただお茶を飲んだだけだった。一息ついたって感じに「ぷはあ」って言ってる。すると、扉が開いた。


「え? なんなん?」


「呪文だよ、ゴッ殿には“ぷはあ”って聴こえたみたいだね?」


呪文なん? まあ良いか。ドアが開いたからオープンザドアとか? まさかね?


「そーなん? まあいいか。此処に肯定ペン銀が居るのか?」


「あー、うん普通のペンギンに交じって生活してるって思う暑がりだからさ。」


 そう言いながら中の様子を伺うと、一面氷の大地だ。まるで北極をそのまま切り取ってきたみたいな寒々としてる空間が広がる。ファンサたんが一歩中に入ると、氷の大地で大袈裟に転んでいる。「ズザあ」と転んだ時に擬音まで丁寧に発音してる。


「何こけてるん? 大丈夫なん?」


「大丈夫だよ。ゴッ殿もおいで扉閉まるよ。」


「え?そーなん?」


 一歩踏み出すと、ファンサたんが言った通りに扉が閉まった。


「ずざあってまさかね? これも呪文なん?」


「そーだよ。」


こける必要無いよな?呪文も多分クローズザドアだろうし……



 辺りを見回すと、一面銀世界。居るのはペン銀と、と? 白い熊……


「うそやん!? 北極熊居るぞ? ヤバいって! どーするん!?」


ちょおま。洒落にならん!


「あー、ご飯の時間だったか。食後になるまで待ってた方が無難だね。」


落ち着き過ぎ! もー! なんなん?


 とか言う会話してると、一匹のペンギンが、冠を被ってるペンギンが……北極熊に突進していくってか? サーフボードに乗って空中を滑走してる。


おいおい洒落にならんって。此処は御伽の国か?


「ファンサたん? ま、まさかね? あれが肯定ペン銀なん?」


「そーだよ。」


 空中のサーフボードを器用に乗りこなして、巨大な北極熊を翻弄してる。肯定ペン銀を追いかける北極熊は……


ズドン!


 大きな地響きがした。肯定ペン銀も音がした方にサーフボードを滑らせて行く。目測で現在地から500メートルって距離。


「なんなん? 今の音?」


「あー、行けば解るよ。行ってみよう。」



 平な氷の大地を歩んで行く。ペンギン達がこちらに気付いた様だ。なんか?睨んでくる。まるで人間観察されてるみたいだ。


「よそ者が来た時の村人……みたいな目をしてるなー。なんなん?」


「まあ、元々は村人ってか、元は人間だからね。」


「うそやん?」


「本当だよ? 僕達もアイツに負けたらペン銀にさせられる……」


アイツ? 肯定ペン銀に負けたら、ペンギンの姿になるって事か? 聴いて無いぞ!?


「うそやん!? そんなリスク背負いたくないぞ?」


てっきりボケ老人一人倒す、簡単なお仕事って思ってたら、話が壮大だ。負けたらペンギンとか嫌過ぎる。


「まあ、戦うのはまだ先の話だよ。ゴッ殿落ち着いて。」



 俺がパニくってると、一匹のペン銀が現れて、どうも道を塞いでるつもり……の様だ。手を左右に大きく開いて、通せんぼの形をしてる。


「王様は食事中だ、お帰り願おう。」


 横ががら空きなので、スっとす通りする。


「無視か! ちょまてろ!」


こんなん?無視無視。ローキック一発で倒して、先を目指す。



 北極熊が消えた地点には、大きな落とし穴があり。穴を覗くと、串刺しになってる北極熊と、確かに食事中の肯定ペン銀が居た。


「うそやん? 肉食系だっけ? ペンギンって?」


「爺やは肉食だったからね。ペンギンって言っても、何を食べるかは個人の自由なんだよ。」


「フムフム。」


そーいやご飯まだ食べて無いや。まあこんなグロいのみたら、食事する気分も失せるが。


 するとムシャムシャと北極熊の死骸を食べてる冠のペンギン……肯定ペン銀が、こっちに気付いた。


「んーファンサたんか、よう来たの。飯にせんか? 肉あるぞ肉。」


俺は眼中に無いみたい?


「要らない。今日は爺ちゃんにお話しにきた。」


 肯定ペン銀が眉をピクりと動かし、「ふぉお?」と小さく声を漏らす。


「隣におるのは友達かの? お名前聞いても良いかな?」


 ファンサたんと目が似てる。こちらを観察……いや値踏みしてる様な険しい眼つきだ。


「ゴッ殿だ。初めまして。」


「なんと! ゴッ殿ちゃんかえ! よー来た!」


なんだ? 急にさっき迄の殺気が薄れた様な?


「え? 何処かで会ってるん?」


 すると、肯定ペン銀は目を丸くして、こっちに向かって来る。サーフボードに乗って。


「ゴッ殿ちゃん挙式はいつにする? ふぉふぉファンサたんも爺想いじゃの!」


はいいい!??


「ダメ! ゴッ殿に寄るな触るな近づくな! 僕の友達だぞ!」


色々と助けて! こんなん無理!


 俺が固まってると、二人で話を進める。


「僕はのー。ずっとゴッ殿ちゃんの事を見守ってきたんじゃ! 嫁にするぞ! 僕のモノだ!」


は?い?


「ダメ! ゴッ殿から手を引いて貰う! 諦めろロリコンジジイ!」


 肯定ペン銀が俺を狙う?狙うって言っても嫁として?


 二人が口論してると、段々と硬直してた気持ちがほぐれてきた。


「ちとストップ! この状況なんなん?」


 身振り手振りして口論してた、二人はこっちを見やる。


「ん? 御見合いってか挙式の話をしに来たんじゃろ?」


「コイツ倒そう! 人類の敵!」


二人して勝手な事言ってる。どーするん?


「これ? 倒せば良いん?」


そう、目的は肯定ペン銀の討伐だ。さっきファンサたんが言ってた。アイツに負けるとペンギンにされるって話も人語を話してるペンギンが目の前に居る事からも確定だろう。


「押し倒すとは、積極的になったのゴッ殿ちゃん。大胆なのは嫌いじゃないぞ。」


ん?何か勘違いしてるみたいだな?


「タイマンだ。お覚悟願おう。」


 俺は両拳をコメカミの部分に親指が当たる位置に構えて、腰を落として、後ろ脚に重心を置く。ファイティングポーズを取る。「はて?」と声を漏らす肯定ペン銀。


「じゃあ、仕方無いのー。負けたら……解っておるな?」


 肯定ペン銀もサーフボードを構えて、こちらの意図をくみ取ってくれた様だ。


「負けたら嫁にでも何にでもしろ。」


此処は氷の大地。完全に相手の土俵だ。勝算があるとすれば、この母の形見のフルアーマのみ。相手は裸同然ってか裸だし、防御力でこちらが優る。それに奥の手もある。


「負けないでね。ゴッ殿。」


 ファンサたんが一歩下がる。運命を決する戦いが始まった。負けたらペンギンにされたうえに、肯定ペン銀の嫁にされる。


負けられない。



 俺は牽制のローキックを放つ……すると、肯定ペン銀はローキックの起動より低く地面を滑り、さっきの北極熊の落ちた落とし穴に滑り込む。サーフボードを途中から滑らせて、器用なものだ。逃げる訳では無く。恐らく何か狙いがあるのだろう。


「罠嵌るのは癪だが、だがチャンスだな。」


 俺もスライディングの要領で斜面を滑り落ちて、肯定ペン銀を追いかける。見守るファンサたん。先に穴底に着いたのは肯定ペン銀の方だ。何やら背中に背負ってる袋?から箱を取り出した。



「食後の一服を忘れておったの。」


ん?煙草か?今流行りの『SK8 CIGARETTE』を吸ってる。


「随分と余裕だな?」


 近づいて一撃かまそうとしたら、煙を吹きかけられた。


「これで僕の勝ち確じゃ! 奥義分身の術!」


ん?なんなん?視界に肯定ペン銀が、1匹、2匹、3匹……


「ふふふ、ははは。肯定ペン銀ってのは頭弱いみたいだな?」


「なんじゃ? 悔しいのか? 僕には勝てないよ。」


肯定ペン銀は複数居る。数は10以上は居る。だが、間抜けだな。



 まるでスローモーションだ。肯定ペン銀達が、距離を詰めてサーフボードに乗り突撃してくる。もう少しで全弾命中する距離。


此処は穴倉の中、狭い。ましてや分身の術とか、絶好のカモ……否ペンギン。


俺の勝利条件を満たしてくれた。これで終わりだ。


 眩い光が走り。俺の右の手甲の文字が煌く。


『逆装!』


 まるでスローモーションだ。鎧が弾け飛んで、全弾命中した。


 「ぶべら」と軽い悲鳴を上げた肯定ペン銀は10体以上居るが、トドメを次々に差そうと地面に崩れた一体目にストンピングをかます。……手応えは無かった。次から次に踏みつけに掛かる。4体目で直撃。


「ぐえー! 辞めるんじゃ死んでしまう!」


形振り構わないのが俺の良い処。


「くたばれ! ロリコンジジイ!」


「ぐええええ!」


 ガシガシと、何度も踏みつけて、肯定ペン銀の冠が落ちた。


「……」


「気絶した見たいだな」


 分身達は霞の様に消えた。飛び散った鎧を「逆装」とキーワードを言って回収装着して、気絶してる肯定ペン銀も回収する。ファンサたんが何処からか持ってきた梯子を掛けてくれて、穴底から脱出。


「凄い! ゴッ殿強い!」


「コイツ倒したけど? どーするん?」


「んー取り敢えず純水の自由の集会に持ってくよ」


††


 気絶してる肯定ペン銀って言っても冠はもげてしまって今は普通のペンギンしか見えないのを、手を引いて運ぶ事にして、ペン銀の魔を後にした。


 水族館の出口方向に抜け様とした。鏡のあるフロアでの事だった。俺のソックリさんが居た。ペンギンの手を引いて。こちらをチラっと、鏡写しの様なソックリさんだった。桃色の髮と灰色の瞳。漆黒のスーツに身を包んで、そして異常なまでの殺気を纏っていて、横をすれ違った時にこちらはピクリとも動けなかった。


「あれソックリさんだったな、誰なんだろ? 殺気でこっちが見動き一つ取れなかった。」


「アイツ……またペン銀増やしてる。」


「知ってるん?」


「うん。ゴッ殿はいずれ戦う事になるって思う。」


「誰なん?」


「アイツの名前は……オリ刃。人間狩をしてる悪魔だよ。」


ー続くー

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