4ー2 妹は新年から気合十分である。
お昼からは気を取り直して想いも新たに、家族で初詣。
去年までは私服だったけど、今年は一味違います。
なんと、着物を着ています! 茜色の華やかな着物です。普段は下ろしがちな髪だって、今日は気合十分のアップアレンジ! 綺麗なお花の髪飾りも完備! いつもは見えないうなじをご覧あれ!
ふっふっふ。高校生の扉を開き、今年はついに後輩だってできる妹は去年までの甘ちゃんではないのです。
一段と大人っぽくなった妹でおにいちゃんの心を射止めてみせる!
「おにいちゃん、どうかな?」
少し目を伏せて、遠慮がちに問いかける。お母さんに着つけてもらったから大丈夫だと思うけど……いざとなるとちゃんとできてるかちょっぴり不安な私が現れる。
「あー、まぁ似合ってるんじゃないか?」
「かあいい?」
「おう。めちゃくちゃ可愛い」
「えへへ……じゃあじゃあ、大人っぽい……?」
「ん……そうだな。普段よりだいぶ大人びて見える」
「でへ、でへへ~♪ そうかなぁそうかなぁ大人っぽいかなぁ♪」
「お、おおう……その浸り顔は少し封印した方がいいかもな……」
「え゛」
慌てておにいちゃんに背を向ける。
危ない危ない。せっかくの世界一可愛い妹の顔面が崩壊してしまうところでした。今年の妹のテーマは「大人っぽい」です。やっぱりやめます。「大人」です。ぽいじゃありません。ぽいぽいうるさいです。
え? 今朝の時点でそんなのムリ? そんなことを言う人にはお仕置きなので今日の夢にいらしてください。きっと楽しい夢になります。
そろそろいいかな? 表情が戻って来た気がする。
振り返って、笑顔を作る。
「おにいちゃんも、すっごくカッコイイよ!」
「そうかぁ? 着慣れなくて正直落ち着かないんだが……今からでも私服にしない? 少なくとも俺は私服でいいよね?」
怠そうにつぶやくおにいちゃん。今日はおにいちゃんも着物姿です。端的に言ってやばいです。ゾッコンです。元からだけど!
この素敵な光景がなくなってしまうなんてそんなことあっていいはずがない。なんとしてでも引き留めなくては。
「ダメだよ~! 今年は一緒に着物でって約束でしょ?」
「そうだけどさぁ……由奈は可愛いからいいけど俺は……」
「大丈夫! カッコイイから! 妹が言うんだから絶対だよ!」
「そうかねぇ……」
おにいちゃんはやっぱり居心地悪そうに頭をかく。あんまり容姿を褒められるのとか慣れてないのかな? 着物姿はもちろんだけど、ちゃんとすればおにいちゃんって間違いなくカッコイイのに! これは今度機会があれば大改造を施すべきかも……。
とりあえず納得言ったふうではないけれど私の言葉で私服に着替えるのはやめてくれたみたい。よかった。
「ねね、写真撮ろう?」
「お、いいな」
あれ、案外乗り気なおにいちゃんです。嫌がるかと思ったんだけど……。
「じゃあ撮るな。何千枚まで撮っていい? ポーズ指定してもいいか? 笑顔! 笑顔プリーズ!」
「え? こ、こうかな……?」
にこ♪
「ってちっがーーーーうっ!」
そうじゃないよ! なんで流れるようにおにいちゃんがカメラマンになってるの!? ま、まぁ撮られるのも嬉しいけど……。おにいちゃん、今撮った写真待ち受けにしてくれないかなぁ……。
「違くて! こう!」
おにいちゃんに腕を絡める。
「は? いや、え? これじゃ撮りにくいんだが? ってか俺写っちゃうじゃん」
「それでいいの! ふたりで撮ろうってこと~! せっかく兄妹で着物なんだよ!?」
「あー、なるほどそういう……。えーマジで? 俺カメコじゃだめ?」
「だめ! お母さーん!」
おにいちゃんと問答していては埒が明かないのでお母さんを呼ぶ。するとすぐさまお母さんがやってきてくれた。
「はいはーい」
「写真撮って~」
「いいわね! 何千枚撮ればいいかしら!?」
「ええ……そんなには撮らなくていいよぉ……」
おにいちゃんもお母さんも桁がおかしい。そんなに撮ってたら日が暮れちゃうよ。でも、やる気は満々みたい。
「じゃあ撮るわよ~。ふたりとももっと近づいて! もっともっと~!」
「かっしこまり~!」
「うおっと。おい近いって」
「いいのいいの~写真撮るならこれくらいがふつうだよ~」
「ふたりとも笑って笑って~」
「に~♪ ほらおにいちゃんも!」
「雪斗くんスマイルスマイル~表情硬いぞ~」
「うぐっ……に、にー……」
「そのままね~。はい、チーズ!」
パシャっとシャッターが切られた音がした。
すぐさまお母さんに駆け寄る。
「どんなどんな!? あはは、おにいちゃん笑顔引きつってる~!」
「いや、写真とか慣れてねえんだよ……笑えって言われても笑えねえだろふつう。なに? 何が面白くて笑えばいいの?」
「え~? すぐ笑えるよ? ほら!」
しかめっ面捻くれ全開中のお兄ちゃんに笑いかける。これが世界一可愛い妹(ver.着物)の全力全開です!
「今がとっても楽しくて幸せなんだから! だからいくらでも笑えるよ! おにいちゃんもそうだよね?」
「……まぁ、そうかもな」
おにいちゃんは渋々ながらも頷いてくれた。そんなおにいちゃんの手を取って、私は再び引き寄せる。
「じゃあもう一枚撮ろう! たっくさん撮ろう! ぜんぶぜんぶ、大事な幸せのアルバムだもん!」
「あ、お母さんも雪斗くんとラブラブツーショット撮りたいなぁ」
「ちょっとお母さん!? なんでラブラブなの!?」
「だって由奈と雪斗くんがあまりにもイチャラブしてるからぁ……お母さんもアオハルしたくなってきたわ♪」
「べ、べべべべつにイチャラブしてないよ!? それにそういうことはおにいちゃんじゃなくてお父さんとやってよ! おにいちゃんは私のー!」
抱き着いておにいちゃんを確保! もうおっぱいまであてます! あててんのよ! あれ!? 着物だから私のサイズじゃ存在感が!?
「しょうがないわねぇ……じゃあついでにお父さんも呼んで家族全員で撮りましょうか」
「うん! それがいい! 絶対いいよ!」
家族写真ももちろん撮らないと! それからもう一回おにいちゃんと撮って。お父さんお母さんともそれぞれツーショットで撮りたい。たくさんたくさん写真に残したい。
あれ、いつになったら初詣にいけるんだろう。まぁいっか! オトナだけど青春真っ盛りなJKの妹は何よりも今が大切なのです!
「えへへ」
「どした? いきなり笑って。いやいつでも笑えるんだったか……やっぱそれ異能力じゃね? 人間やめてない?」
「やめてませーん。なんでもありませーん。えへへ~」
やっぱり自然と笑顔は漏れちゃって、止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます