4-3 兄妹の初詣とほろ酔い気分。

「うわあ、人多いね~」

「元旦だしな、みんな来るんだろ」


 お父さんの車に乗って家族で神社にやってきた。このあたりの地域では一番大きくて初詣には人気の場所。それもあってかやっぱり人が多い。知り合いもいるかもしれないし、あんまりおにいちゃんとイチャイチャ出来ないのが残念です。でも恥ずかしいし、しょーがないのです……。


 ふぅっと息を吐いてみるとすぐさま白く染まった。冬の寒さは健在。でも雪が降ったのはあのクリスマスイブだけで、積もることはなかった。積もってたらそれはそれで嬉しいけど、今年は着物でちょっと寒いし結果オーライかな?


「二人とも行くぞ~」

「はぐれないようにね」


 先を歩くお父さんとお母さんに続いて、私とおにいちゃんも歩き出した。人が多いので、付いて行くのも一苦労。草履だから少し歩きづらい。お母さんが言うようにはぐれないようにしなきゃ。


 そんな中でもおにいちゃんは私と歩調を合わせて隣を歩いてくれている。


「ほんとすげえ混んでるな……手、繋ぐか?」


 おにいちゃんがあ手を差し出してくれた。おにいちゃんから手を繋ごうと言ってくれるなんて……! あ、でもここはお外。人の目が多すぎる。


「うぅ……」


 すぐさまおにいちゃんに飛びつこうとしたものの、視線は周囲を右往左往してしまう。やっぱり恥ずかしいよぉ……。


 伸ばした手も、視線も、心も、迷うばかりで。意気地のない私。


 もたもたしていると、人の波にのまれそうになる。


「わ、わわ……!?」

「由奈……っ」


 しかし寸前、私はおにいちゃんの腕にぐいっと引き寄せられて、大きな身体に抱きしめられた。


「だいじょぶか?」

「……え? う、うん。だいじょーぶ……でしゅ」


「でしゅ?」

「な、なんでもないよ! そ、それよりおにいちゃん! ……く、くっつきすぎだよぉ……み、みんな見てるし……」


「ん? おう、すまん」


 おにいちゃんが抱きしめる手を緩めるのと同時に、私は飛びのこうとする。だけどまたしてもおにいちゃんの伸ばした手に私の手は優しく包まれた。


「え?」

「やっぱ繋いでないとはぐれそうだからな。強制だ」


 ずいずいと人波を分けて、おにいちゃんは私の手を引いいたまま歩き出す。おっきくて、あったかい手だ。


 周りの視線がまだ集まっている気がして恥ずかしいけれど、それ以上に……


「……ありがと、おにいちゃん」

「おう」


 どきどき。どきどき。心臓の音が大きすぎて、おにいちゃんのことしか考えられなくて、それ以外はもうどうでもよくなってしまいそうだった。


 

 人通りの多い境内を抜けると、次はお参り。


 家族四人、並んで参拝をする。えっと……まずはお賽銭を入れて、その後は二拝二拍手一拝、だっけ? 毎年のことなのによく分からなくなって慌ててしまう。


 横目で家族の様子を盗み見て、動きを合わせた。お父さんとお母さんはもちろん、落ち着いてお参りができるおにいちゃんがとっても大人に見える。


 少しでもそれっぽくしようと、私も丁寧にゆっくりと祈る。


(もっと大人っぽくなれますようにおっぱいが大きくなりますように身長ももう少し伸びますように頭が良くなりますように美味しいものがいっぱい食べれますように楽しいことがたくさんありますように! ……家族がずっと幸せでありますように。それから、おにいちゃんと……)


 ううん。これは、違うね。これだけは、神さまを少しでも頼ったらダメだ。


「ようしっ……!」


 これで完璧! 気持ちも新たに! 今年はきっと妹の年になります。


 隣を見ると、同じように祈っていたおにいちゃんが一瞬遅れて瞳を開き、顔をあげる。


「行くか」

「う、うん」


 おにいちゃんは何を願っていたんだろう? なんとなく、聞くタイミングが見つけられなかった。


 それからおみくじを引いて、少し屋台を回る。お祭りって程じゃないけど、美味しそうな匂いが立ちこめています。もう願いがひとつ叶ったかも!


 ちなみにおみくじは大吉でした。おにいちゃんは末吉っていうのだったみたい。よく分からないけど、あんまり良くはなさそう。これは私がずっと一緒にいて、大吉のパワーを分けてあげないとだね!


 だから、引き続き手を繋いでいるのも仕方ないのです。冷静になってきたらやっぱり恥ずかしいけれど、仕方ないのです。でへへ……。


「由奈、甘酒飲むか?」

「甘酒? お酒? 今日は大人だから飲んでいいの……!?」


「いやよくねえよいつ大人になったんだよ。アルコールはないから安心しろ」

「ふーん?」


 少し残念なような。


「あったまるし飲んでみないか? 寒いだろ?」

「うん。じゃあ飲む!」


 心も身体もどきどきのぽかぽかだけど!


 それから家族分の甘酒を貰うと、人混みを抜けてベンチにやってきた。

 きゅうけーい。着物はちょっと疲れる。人目がないから、今だけはだらけた妹です。


「あまーい! 甘々だよこのお酒!」

「甘酒だからな」


 甘酒を一口飲むと、柔らかい甘さが口の中いっぱいに広がった。

 アルコールはないみたいだけど、なんだかすごく大人っぽい。それなのに甘い。美味しい。お酒って苦いんだと思ってた。


「にゅふふ……これで名実ともに大人になった気分……」

「ならんぞ」


「でも、なんか……身体がぽかぽかしてくるよ? これやっぱりお酒なんじゃ……」

「熱いからってだけな。あとは本当に気分で、だろ」

「そうかなぁそうかなぁ。あーなんだかあたまもくらくらしてきたかも~」


 こてん、と隣に座るおにいちゃんに頭を預ける。ほろ酔い気分の妹は人目さえなければイケイケなのだ。


「重いんだが……」

「妹は重くないーい重くなーい」

「まぁ、いいけど……」


 さらに隣のベンチから、お母さんたちの声が聞こえる。「相変わらず二人は仲が良いわね~」とか、そんな感じ。でも、あっちはあっちでイチャイチャしています。私もおにいちゃんとイチャイチャしたい……。


「にゃぁん」

「モード入ったな」

「ほろ酔いの妹猫だにゃん♪」

「だから酔ってなーい酔ってなーい」

「むぅ……」


 お酒を呑んでいい気分の妹に付き合ってくれないおにいちゃんにはこうです。


「おにいちゃんおにいちゃん」

 

 おにいちゃんの胸に手をついて、渾身の上目遣い。それから、耳元に囁く。


「今なら、お持ち帰りできちゃうよ……?」

「んなっ」

「おにいちゃんのしたいこと、あんなこと、こんなこと、何でもし放題。なーんにも、逆らえないかも……♡」


 どうですか! これぞいつかおにいちゃんとお酒を呑んだ時のために考えていた秘策! これで堕ちないおにいちゃんなどいません! お母さんが「あらあらあらぁ♪」とか言ってるけど気にしません! 由奈、これからお持ち帰りされるのでお母さんたちはどこか行っててください!


「アホ。このマセ妹め」

「にゃうん!?」


 痛い!? おにいちゃんに頭を小突かれました。お母さんにも小突かれたことないのに! あんまり痛くないけど痛いです。


「どうせ同じ家に帰るんだから、何も意味がねえだろうが。家族だろ」


 おにいちゃんは少しだけ頬を赤くして呟いた。

 少しは効いたのかな。どきどきさせられたかな。それとも、あったかい甘酒のせい? 答えは見つからなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園では天使系清楚美少女の世界一可愛い義妹が無防備に誘惑してくるけど俺たちは家族だって言ってんだろ!? ゆきゆめ @mochizuki_3314

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ