第2話 ともだち
「美由希のこと、好きなんだ。俺と付き合ってくれないか?」
突然の告白に私の頭の中は真っ白になった。
好き? 久遠くんが? 付き合ってって……異性として好、き?
親友からの告白は、私の心をぐちゃぐちゃに掻き乱した。
それでも私の答えは決まっていた。
「ごめん、なさい」
ありったけの勇気を振り絞っても聞こえるか聞こえないかの声。
それでも、彼にはしっかり届いていた。
「……そ、か。うん。……わかった」
楽しいはずの彼との時間がツライと思ったのは初めてだった。
♢♢♢♢♢
高校に入学してからの私は幸運続きだった。
「私、林渚。よろしくね」
たまたま同じクラスで前後の席になった渚ちゃんは、引っ込み思案でコミュニケーション能力に問題のある私をいつも助けてくれた。
「あ、私は早川美由希、です。よろしくお願いします」
初対面の渚ちゃんは私に積極的に話しかけてくれるだけでなく、みんなの輪にも入れてくれた。久遠くん曰く、渚ちゃんは天然ものの陽キャ。誰とでも話せ、誰とでも友達になれる。羨ましい限りです。
そんな彼女の存在もあって、私は思いのほか早く学校に馴染むことができた。
周りを見る余裕も、できた。
ある日の放課後、部活見学に行こうという渚ちゃんのお誘いを断った私は一人、図書室へと向かった。
『ギィ』
学校では珍しい両開きの扉は、ウチの高校でも図書室だけらしい。国語の前曰く「趣があるでしょ?」。昭和に建てられた校舎は改築がなんどかされているらしいが、この図書室の扉と棚は建築当時のものらしい。
一歩足を踏み入れると木と紙の匂いがしてきた。
ん。なんか安心する。
特にアテもなく本棚を眺めながら歩いていると、一番奥の席に人影が見えた。
大きな身体で静かに本を読む姿は、この図書室にいる誰よりも様になっていた。その様子をしばらく見ていると、難しい顔になったり、うれしそうな表情になったり。この人は本当に本が好きなんだろな。身体が大きく、ちょっと強面の彼がどんな話しで表情を綻ばせているのか、ちょっと気になった。
きっと彼は知らない。これが私と彼が出会った最初のとき。
♢♢♢♢♢
「美由希。部活決めた?」
体験入部の2週間が過ぎ、みんなが本入部していく中、いつまでも態度をハッキリさせなかった私に渚ちゃんが聞いてきた。
「……うん。やっぱり部活は入らない、かな」
小さい頃から運動はあまり得意ではない。強制だった中学時代は合唱部に入っていたけれど高校でもやろうとは思えなかった。
「そっか。それもありかもね。自分の時間も増えるし、これから趣味や彼氏ができたときはそっちに時間使いたいもんね」
「ふぇ? か、彼氏? そんなのできないよ〜」
からかうような笑みを浮かべながら私の様子を伺う渚ちゃんには、何か思い当たる節があったみたい。
「ふ〜ん。でも、好きな人、いるよね? 朝練終わる時間と午後練が始まる時間。いっつも外眺めてるよね? 誰を、見てるのかな〜?」
その指摘に思わず顔が熱くなるのがわかった。両手で頬を押さえながら、つい無意識に視線を窓の外に移した。
「ん?」
私につられて外を見た渚ちゃん。その目には私と同じ人が映っているのだろう。
「へぇ〜、ひょっとしてあのジャージ姿のどっちか———、あの爽やかイケメンくんかな?」
爽やか、イケメン。彼を表すときによく使われる単語だ。
恥ずかしさのあまり言葉がでなくなり口だけがぱくぱくと動く。
「照れちゃってかわいいな〜。で、彼はどこの誰?」
全てを白状するまで許してもらえなさそうな状況に、息を整え、ため息をついた。
「もうっ、……1組の
「1組の森本くんね。なるほど、噂のサッカー部のイケメンくんとは彼のことか、同中ってことはそれなりに仲良かったりするの?」
私は首を横に振り苦笑い。
「話したことないの。きっと彼は私のことも知らないはず。だから、こんなこと言うの恥ずかしいんだけど、好きって言うよりも、あ、憧れって感じかな?」
「ふ〜ん。でも憧れも好きの一種じゃない? 話したことないなら、話してみて、ともだちになってみて確認してみればいいじゃない」
渚ちゃんらしい前向きな考えだと思った。私にとって、この思いは自然に消えていくまで待つだけの思いだと思っていた。だから、それ以上踏み込むなんて考えてもみなかった。
「と、ともだち? 無理だよ。話したことないし。接点もないから話すときっかけもないもん」
正直、この話題から離れたかった私は、あきらめるための理由を考えていた。
「接点? たぶん大丈夫、だと思う。ほらっ、さっき一緒にいた人、実は私の幼馴染なの。ここのとこ、交流はないけど、せっかくの機会だし話しかけてみるよ!」
そして迎えたあの日。
「早川美由希、です」
「俺、久遠巧、よろしく」
あっ、この人。図書室のあの人だ。
間近で見上げた彼は、厳しそうな表情をしていたがどことなく緊張しているようにも思った。
そして、私たちはこの日からともだちになった。
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