第12話 告知
装飾の多い白のワンピース、色の薄い髪、見た目は金持ちのお嬢様のそれなのに、青い目が宝石のような無機質さを帯びている。
すべてを射抜くような、ゾッとするような目つきだ。
「聖霊の力? 消え去ったとは、どういうことです?」
「その言葉の通りですよ。
こんな茶番劇、もう終わりにしませんか?」
お茶会に誘うようなノリで、これまでのことを茶番劇という単語で一蹴した。
やるせない笑顔を浮かべていることを除けば、食事に誘っているようにしか見えない。
「あの、エリーゼ? アベルはどうしたんスか?
確か、そっちは任せるって言ったっスよね?」
恐る恐る確認する。
二人の護衛を任せるという意味だったのだが、伝わっていなかったのだろうか。
「勝手な真似をしてごめんなさい。
アベルに少しだけ力を貸したんです。
その後どうなったか、結果を見に来ました」
「力?」
「イバラ、例のページを開いてみてください」
言われるがままに、『勇者』の預言があるページを開く。
「なんてこと……!」
この場にいる全員が息をのんだ。
『勇者』のことが記されているページがごっそり消失していた。
何度も本を開閉し、ページをめくる。
つい先程まであったはずの内容が本から消えた。あれだけ騒がせた項目が消えた。
「これで、あなた方が攻め込む理由はなくなりました。そうでしょう?」
少女らしい、あどけない笑みを見せる。
純粋な表情を見て、背筋に冷たい物が走った。
「何ということだ……預言を覆すどころか、ページだけを消すだなんて! そんな都合のいい魔法は聞いたことがない!」
「知らなくても無理はないよ。教えるワケないし」
「だからぁ! さっきから煽るなって言ってるでしょうが!
人の話聞いてた?」
「シェフィールド、しばらく放っておきなさい。
今は何を言っても3倍にして返されるだけでしょうから。
エリーゼ、何をしたのです?
預言書の内容を変えるほどの力、アベルは持っていないはずでしょう」
「ええ。ですから、貸したんです。
それだけの決意はあると思いましたから」
力を貸した。何をしたのか余計に分からないようで、賢者たちが話に置いていかれている。
その意味が通じるのは、評議会の上層部の人間だけだ。
イバラが怒っているのも、その意味をよく知っているからだ。
「暴食の力に彼女が耐えられると思ったのですか!
どんな影響を及ぼすか、分かっているでしょう?」
「ええ。しばらく寝込むと思いますから、引き続きよろしくお願いします」
話がぶつかり合って、何も進まない。
見兼ねた魔王はため息をついた。
「要するに、どういうことなんだ?
エリーゼは引き取り手のない子どもであり、成人するまで面倒を見ている。
お前たちからそう聞かされたんだが」
「その話に嘘はない。ただ、外から来たアンタに全部を伝えるわけないでしょ」
予想通り、辛辣な返答が3倍で飛んできた。
シェフィールド以外、頼りになる人物がいない。誰も話すつもりがないことを察したのか、彼は中指を立て、その手をすぐに引っ込めた。
「彼女、『暴食』って言ってたでしょ。
ああいう感じで、俺らには何かしらあだ名がつけられてんのは知ってると思うんスけど……実はよく分かってないんです」
この異世界を仕切る彼らを不気味がった人々は、彼らに名前をつけた。
彼らを裁かなければならないという意識が働いたのか、大罪の名前がつけられた。
単なるレッテルと言ってしまえばその通りだが、彼らはその名の通りの力を持っている。
「まず、エリーゼにその力を引き出す程度の能力があること。
引き出された者はその反動で数日間眠りにつくこと。
大罪の名前を持つ者、要は幹部以外に使えないこと……あと何かあったっスかね」
指折り数えながら、確認する。
名前の通りの能力を引き出すことしかできない。
アベルは人外じみた能力を持つことになった原因は彼女にあるというのか。
「アンタさ、何であんなガキ一人を丁重に保護してるんだって、聞いたの覚えてる?
これがその答えだ。とんでもなく強い意志と決意があり、エリーゼの一方的な思いだけでは成り立たない。
馬鹿みたいに難しい条件でしか使えないからこそ、絶大な力と制約が生まれるわけだ。
魔法ってのは、条件が複雑になればなるほど強力になるからね」
「ということは……アベル、ソラのことが書かれたページを食ったってことスか?」
「郵便屋でもないのに、紙を食べたわけか。
悪くないんじゃない、別にヤギ以外食うなって言われてるわけでもないし」
「悪くないの一言で済む話なのか、それは」
預言書の原本はここにあり、写しもこの地域以外に数多く存在している。
一冊とはいえ、本のページを消すことですべての預言書に影響を与えたというのだろうか。
「お前たちの能力というか、言い分はなんとなく理解できた。というか、暴食堂の暴食ってそういう意味だったのか?」
「そのまさかです。とんだ壊滅的センスでしょ?」
「センスはどうだっていい。
お前たちはそれでいいのか?
たった今、世界がひっくり返ったんだぞ?」
「私たちに決定権はない」
「アベルがそうしたっていうんなら、従うしかないっスよね。
賢者のみなさんは、今の説明で理解できました?」
シェフィールドの問いかけに、三人とも戸惑いながら、顔を見合わせる。
半信半疑というか、すぐに理解しろという方が無理だ。
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